【虎に翼】寅子(伊藤沙莉)たちが直面した壁は、現在もそこここに存在するのではないか?3分間の演説に圧倒された第6週

「虎に翼」第29回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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約3分間、圧倒された。そんな寅子の「演説」だった。

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』第6週「女の一念、岩をも通す?」金曜放送ぶんの第30話。寅子がずっと心の奥底で「はて?」と、どこかもやがかかったような気持ちで考え続けてきた思いをぶつけたスピーチシーンが、それだ。

結果から先に記してしまうが、寅子と昨年口述試験で落ちてしまった先輩の久保田(小林涼子)、そしてもう一人の先輩、中山(安藤輪子)、この3人が見事難関の高等試験に合格、日本初の女性弁護士が誕生した。明律大学で行われたその祝賀会で、参加した記者たちに「日本で一番優秀なご婦人方」「男性でも難しい高等試験に合格したのですから」と褒め称えられスピーチを求められた寅子はキッパリと、「今、合格してからずっとモヤモヤとしていたものの答えがわかりました」と告げた。

苦労を重ね、ついに勝ち取った弁護士合格。手放しでうれしいはずなのに、なぜ寅子はそんな気持ちになれなかったのか。寅子は言った。
「私たち、すごく怒ってるんです」

男性と同じ条件であるはずなのに、女性であるということでやはりそこには男性優位の物の切り取り方や見方が存在する。口述試験の場で信念をもっての男装を奇抜な装い扱いされたことに正論をもって反論したよね(土居志央梨)が落とされたのは、「女のくせに」という視点でしかない。前年に口述で落ちた久保田がそれをふまえた口述対策をしていたことから、おそらく似たような理由も含まれていたのだろう。

日中戦争、そして治安維持法の制定による取り締まりの強化によって朝鮮人への風当たりが強まる中で兄が思想犯の疑いをかけられ、「帰るなら今しかない」と、よねが強く言った通り安全のために帰国という道を選ばざるを得なかった崔香淑(ハ・ヨンス)も、その国籍が最大の壁となってしまった。

父が芸者と駆け落ちしてしまい、桜川家を見捨てることはできないと結婚の道を選択せざるを得なくなった涼子(桜井ユキ)。主婦の梅子(平岩紙)はといえば、高等試験の筆記試験当日、会場に姿を現さなかった。梅子は弁護士の夫に離婚届を差し出される。梅子が弁護士を目指すモチベーションは、夫と離婚し息子の親権を獲得したいという思いだ。それを強引に奪い取る絵に描いたようなモラハラ夫のやり方に、梅子が試験を受ける理由は失われる。梅子が選んだ道は、三男を連れ、家を出るというものだった。

「虎に翼」第28回より(C)NHK

寅子や久保田は“一番優秀だから”合格したのか? いや、優秀であったかもしれないのに、さまざまな理由によってあきらめざるを得なかったり、正当な評価を下されなかったかもしれない共に学んだ数々の仲間たちがいた。そして、世の中には大学に行き法を学び試験を受けるという選択肢を選べない境遇、さらには学ぶという選択肢があるということすら知らない女性だってたくさんいる。栄光をつかんだはずなのに、やったー! 受かった! と脳天気に喜べないむなしい勝利が寅子の心を空虚にする。

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います!」

寅子は宣言した。胸が締め付けられるような熱い思いだ。しかし、ここで見ている現代の我々のような思いを抱くことができる人が多数ではない時代だ。寅子のメッセージに共感し、拍手などを送ったのは恩師の穂高(小林薫)をはじめ、同級生の花岡(岩田剛典)、轟(戸塚純貴)らほんのわずか。「場をしらけさせた」という扱いで、ほとんどの報道機関には「場がしらけた」と、この快挙はスルー。ただ一社だけ、前週の「共亜事件」の際にも報道の立場から寅子たちを見守った記者の竹中(高橋努)の帝都新聞をのぞいては——。

寅子たちが直面した、女性であることでの壁。それは令和の現在もそこここに理不尽な線引きが存在することを思い出させてくれ、何十年たっても変わらない部分があることを毎週のように突きつけられ、いつか変わる日がくることを祈らずにはいられなくなる。

寅子や久保田、中山は、梅子や涼子の無念を背負ってがんばる、といった単純な友情物語ではない。合格はゴールではない。寅子ら勝者には、ここからさらなる大きな壁、現実が立ちはだかってくることが予測される。寅子はどう戦うのか。次週から新たなターンに突入する物語に注目だ。

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