日本百名山の一つ、天城山(あまぎさん)は、静岡県の伊豆半島に広がる連山の総称で、万二郎岳(ばんじろうだけ・標高1,299m)、万三郎岳(ばんざぶろうだけ・標高1,406m)、の山々から構成されている。
今回は、天城山への代表的な登山口である天城高原(あまぎこうげん)ゴルフコースの駐車場から、「四辻(よつじ)」の分岐を経て、シャクナゲ群生地をめぐりながら万二郎岳と万三郎岳を縦走する「天城シャクナゲコース」を紹介したい。
5月から6月にかけて見頃を迎える「シャクナゲ」と「ツツジ」。中でも、天城山をはじめとするこの地域にのみ自生する固有種「アマギシャクナゲ」が、そこかしこで薄桃色の美しい花を咲かせ、登山道を彩る。さらに山頂付近では「アマギツツジ」の群生と富士山や駿河湾(するがわん)を見渡せる絶景が待っている。そんな見どころ満載の贅沢登山に出かけよう。
■伊豆の山々や海を見渡せる万二郎岳(天城高原ハイカー専用駐車場〜四辻〜万二郎岳)
ハイカー専用の天城高原駐車場から四辻の分岐まではなだらかな道が続く約20分(600m)の距離。道中に「ヒメシャラ」の巨木や、苔むした幻想的な森の景色を楽しみながら進む。道案内も豊富なので迷う心配はないだろう。
四辻分岐から、いよいよ本格的な登りが始まる。万二郎岳山頂までの標高差は241mだ。距離は約2km、およそ1時間で到着できるだろう。登山道は高い木々に覆われているため、展望の開けている場所は少ない。そんな中、山頂が近づくにつれ、鮮やかな濃いピンク色の花が見え始める。アマギツツジだ。
青々と茂った森の中に、突如現れるピンク色の花の群生に思わず足を止めてしまう。一つめのピーク、万二郎岳はもう目の前だ。山頂からの展望は素晴らしく、伊豆の山々や遠く太平洋まで見渡すことができる。
■伊豆半島最高峰の万三郎岳へと続く尾根道「馬の背」を歩く(万二郎岳〜万三郎岳)
天城シャクナゲコース最大の見どころが、万二郎岳と万三郎岳を結ぶ尾根道「馬の背」にある。ゆっくりと標高を上げながら、約2.2kmを70分ほどかけて進む区間だ。その見どころは実に多彩。
鮮やかなピンクのアマギツツジから始まり、曲がりくねった幹や枝が重なり合うようにしてできたトンネルを覆うかのように白く小さな花が咲き乱れる「アセビのトンネル」だ。まるでジブリの世界に迷い込んだような幻想的な風景である。
さらに馬の背の中間地点「石楠立(はなだて)」を越えると、アマギシャクナゲの群生エリアに突入する。アマギツツジとはまた違った、薄桃色の大振りな花が眼前に広がる様子は圧巻のひとこと。ひとたびアマギシャクナゲが現れると、万三郎岳山頂まで辺り一面をピンクに染める。天城シャクナゲコースの名は伊達ではないと納得である。万三郎岳山頂は展望こそないが、ベンチがあるのでアマギシャクナゲを眺めながら休憩しよう。
■「シャクナゲ」の咲く、苔むす原生林を進み下山する(万三郎岳〜四辻〜天城高原ハイカー専用駐車場)
帰路は山頂から10分ほど進むと、天城シャクナゲコースの周回路と、「八丁池」へと向かう縦走路との分岐「万三郎岳下分岐点」が現れる。天城シャクナゲコースは、万三郎岳下分岐点を右に折れるのが正解だ。
万三郎岳下分岐点から先は一気に標高を下げていく。急坂が多くなるので慎重に進もう。45分ほどで「涸沢分岐点」に着く。涸沢分岐点まで来るとアップダウンは少なくなるが、岩がゴロゴロとした悪路なので、四辻までの約1時間ほどの道のりは気をつけて歩こう。四辻から登山口までは20分、長かった天城シャクナゲコースもゴールだ。
■「天城山」初夏の魅力
今回は、日本百名山の一つ、天城山を紹介した。花の時期でなくとも多くの登山者が訪れる人気の山だが、アマギシャクナゲとアマギツツジが咲き誇り、魅力あふれる初夏に登ることをおすすめしたい。
筆者が訪れたのは昨年5月16日だが、写真のとおり満開の花に出会うことができた。例年「5月中旬から咲き始め、見頃は5月下旬から6月中旬」とされているが、年々その時期が早まっているように感じる。今年も5月中旬に山行予定を立てると良いだろう。今回紹介した天城シャクナゲコースはその名の通り、花の道だ。その美しさをぜひ体感してほしい。
登山口の駐車場には、トイレや靴洗い場が設置されている。登山道の案内看板も豊富で、道迷いの可能性は低い。注意点は、万三郎岳から先の周回コース後半、標高を一気に下げる急坂のあと、不安定な足場がしばらく続くこと。体力に自信のない方は、万三郎岳登頂後、歩いてきた馬の背を引き返すピストンコースも選択肢に加えたい。自身の体力に合わせてコース選択をし、満開のアマギシャクナゲに会いにいこう。