フィリピン「最低賃金引上げ」思わぬ余波…失業率、さらなる悪化を懸念

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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、フィリピンにおける雇用状況の現状を解説していきます。

比・2024年3月「失業率」2ヵ月ぶり上昇…4月も上昇予測

フィリピン統計局によると、3月のフィリピンの失業率は2ヵ月ぶりに上昇しました。これはインフレとエルニーニョ現象による干ばつが経済活動を制限したためです。

報告書によると、全国の失業率は3.9%に上昇し、これは失業者数が200万人に相当します。2月には3.5%(失業者180万人)、1年前には4.7%(失業者242万人)でした。失業率は低下傾向を見せていましたが、3月に再び上昇しました。

フィリピン統計局のマパ次官は、農業生産の低さが失業率上昇の主な原因だと述べました。これらの産業では人員削減を余儀なくされています。4月に3ヵ月連続で上昇したインフレ(3.8%)も生産を制限し、雇用に影響を与えていると見られます。

また、高水準の労働参加率と、第1四半期における雇用を増やす企業の採用慣習に関連する季節的影響が失業率の上昇圧力となっているとも見られます。

統計局によると、3月の雇用率は2月の96.5%から96.1%に低下したものの、前年同期の95.3%と比較すると改善が見られます。雇用者数は2月に比べて20万人増の4,915万人となり、前年同期比でも48.58万人増。雇用率は第1四半期も96%に上昇しており、前年同期の95.2%から改善しています。統計局は、雇用者、失業者、求職者で構成される労働力が、3月に前月比40万人増の5,115万人になったことも報告しています。2023年3月の労働力は5,100万人でした。

経済開発庁は声明の中で、政府は引き続き高品質で高賃金の雇用創出を優先していくとし、民間部門からの雇用を生み出す投資を誘致し、社会基盤インフラを強化して、国民の雇用を改善することに注力するとしています。さらに、雇用可能性を高めるためのリスキリングとアップスキリングプログラムを準備するとしています。

インフレの影響で、4月の失業率はさらに上昇すると見られています。また、「法定最低賃金の引き上げ」が、雇用見通しに悪影響を与える可能性があることも指摘されています。マルコス大統領は、インフレによる生活費の上昇にもかかわらず、給与の水準が停滞しているフィリピンの労働者に対処するため、地域最低賃金の見直しを地域賃金委員会に指示しています。地域賃金委員会は、インフレなどの経済的課題を考慮して、最低賃金の見直しを行う機関です。最低賃金はそれぞれの地域の賃金委員会によって、日々調整されています。

昨今の高インフレ・生活費の上昇に対して、給与の伸びが追いつかない状況下で、立法を通じた賃金引き上げの動きを促しています。国会では、民間企業の最低賃金を1日100ペソ引き上げる法案を可決しています。また、別の法案では、企業の最低賃金を1日150から750ペソ引き上げることを提案しています。フィリピン経済は、インフレの影響を大きく受けており、労働者の実質賃金は減少傾向にあり、政府の対応は適切なものであるとする見方が多く、ビジネス団体や経済専門家からも賛成の声が上がっています。

2024年3月期「比・製造業」はマイナス成長

一方で、最低賃金の引き上げには、フィリピン経済の大きな部分を占める中小企業にとっては懸念材料でもあります。

フィリピンの統計局によると、フィリピンの製造業活動は3月に0.8%減少しており、23ヵ月ぶりの悪化となりました。2月の7.2%増から一転してマイナスです。生産額の急減は材料費の上昇と内需の軟調さの影響だと分析され、潜在的に需要が弱まっていることを示唆します。前月比では、製造業の生産は0.8%増となりましたが、季節要因を取り除いた調整済みの数値で見ると、工場生産は4.7%減少しています。また四半期ベースでは、生産成長率は昨年同期の5.5%から3%に鈍化しました。これは、インフレ、高金利、世界的な経済の先行き不透明感によるものだと見られます。

インフレは4月に3ヵ月連続で上昇し3.8%。これを受け、フィリピンの中央銀行は利下げを延期すると市場は予想しています。フィリピン中央銀行の政策金利は、2022年5月から2023年10月にかけて450ベーシスポイント(bps)引き上げられ、17年ぶりの高水準である6.5%となっています。

フィリピン商工会議所(PCCI)のバルセロン会長は、3月の製造業のマイナス成長は小売部門の需要軟調、ペソ安ドル高による輸入コストの上昇が要因だと述べています。また、弱い市場状況では、メーカーはコストを製品価格に転嫁することができなかった点も指摘し、今年の工場生産成長率は鈍化すると予想しています。

一方で、フィリピン統計局の報告書とは対照的に、S&PのPMI(購買担当者景況指数)は3月が50.9で、工場活動は緩やかではあるが拡大していることを示唆しています。50を超える数値は製造業活動の拡大を示し、50未満は縮小を示します。この指数は4月には52.2となり、5ヵ月ぶりの高い数値を示しています。

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