「素晴らしい技術も、全ては皆さんを映画の世界に連れていくためのサポートに過ぎないと思っています」『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督【インタビュー】

現在から300年後、人類と猿の立場が完全に逆転し、猿が独裁支配をもくろむ衝撃的な世界を大胆に描いた「猿の惑星」新サーガの第1章『猿の惑星/キングダム』が公開された。来日したウェス・ボール監督に話を聞いた。

ウェス・ボール監督

-最初の『猿の惑星』(68)から50年以上の月日が流れていますが、その間、今回の映画に至るまで、人間と猿の立場が逆転するというドラマが作り続けられている理由はどこにあると思いますか。

フランソワ・トリュフォー監督が「偉大な映画とは、スペクタクルと真実を完璧に混ぜたものである」と言っています。このシリーズにはその言葉が当てはまると思います。キャラクターは猿たちなのに、私たちは彼らに人間として共感して、警鐘の物語として映画を見ます。また、憧れの対象となるような猿のキャラクターは、人間の一番いい資質を持っている。作品自体も「人間とは?」という問い掛けをしてくれる。とても思慮深く、人間の本質に触れるような深い意味を持つ作品でありながら、スペクタクルの要素もある。そんなところが理由ではないでしょうか。

-ある意味、これは猿の姿を借りて繰り広げられる“人間ドラマ”であり、ウイルスのまん延や紛争などのメタファーにもなっていますよね。

真実というものが、いかにゆがめられているかということです。今の世界では真実は一つではなくいろいろな見方ができる。だからレガシー、ヒストリーといったものも、悪人の手に渡ったら、ゆがめられて利用されたりもする。そうしたことにもこの映画は言及しています。

-昔のシリーズは、人間に特殊メークを施して猿にしていました。今はモーションキャプチャーやVFXを使って猿を作り出しています。そう考えると、このシリーズは、映画技術の進歩を象徴しているともいえますね。

その通りです。僕らはフィルムメーカーとして最新のテクノロジーを使ってストーリーをつづっています。壁画を描いた原始人から始まって、動画が作られて、今ここまで来て、これからはAIも出てくる。アーティストとしても、今後はそういうものも取り入れていくと思います。

-この映画には、主人公のノアをはじめ、いろいろなキャラクターが出てきますが、キャラクターの造形でこだわったことはありましたか。

例えば、デザインの観点から言うと、このシリーズの場合は、それが誰なのかが分かるというのはとても重要なことです。簡単に皆が似ている状態になってしまうので、それぞれをちゃんと区別できるように意識しました。あとは、果たしてどこまで彼らに感情移入をすることができるのかという点です。彼らに、生きている存在としての信ぴょう性を持たせて、リアルに感じさせることが大事でした。

-今回は、現代から300年後という設定でしたが、これは“完全新作”を念頭に置いた結果ですか。

その通りです。前作とのつながりが直接的過ぎると、シリーズなので、お金もうけのために作っているのかと思われてしまう(笑)。だけど、ある程度時間を開けたら、物語的にもいろんな可能性が出てきました。ミステリーも描けるし、ノアは世界のことを知らないので、いろいろなことを発見していく様子が描ける。レガシーであるシーザーが残したものがどうなったのかも描ける。そして人類の残した世界がどうなっているのか、エイプ(猿)たちはどんなふう進化したのか。そうした設定の根を見つけることによって、今までの作品に敬意を払いながらも、独立した1本の作品として見られるものにしたかったのです。もちろん、手掛ける前に今までの9作と比べられることは覚悟しました。なので、できるだけ他の作品と同じレベルにして、確かにこのシリーズの1本だと思われるような作品にすることを心掛けました。また、これが初めて見る「猿の惑星」という人にも入りやすい作品にしたつもりです。

-『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11)のルパート・ワイアット監督は、スタンリー・キューブリック監督の『スパルタカス』(60)を意識したと聞きましたが、今回意識した映画はありましたか。

幸いなことに、参考にできる作品(過去の9作)が50年分あったので…(笑)。タイトルだけ聞くと意外に思われるかもしれませんが、メル・ギブソン監督の『アポカリプト』(06)です。それは復讐譚(ふくしゅうたん)という部分ではなく、外からやってきた人々に村が襲われて、そこから外に出た若者が、自分が想像していたよりも、はるかに大きな世界があることを知っていくという部分です。後は子どもの頃から触れてきたたくさんの作品が自然にこの映画ににじみ出てきていると思います。

-乗馬のシーンはちょっと西部劇のようでした。

この映画の一部は西部劇のようなものです。最初に脚本家と話した時に、「きみは黒澤明のような映画が作りたいんだね」と言われました(笑)。黒澤の映画で僕の1位は『用心棒』(61)、『乱』(85)が2位です。『夢』(90)もとても興味深いです。とにかく面白い作品がたくさんあります。最初に触れた黒澤映画が『用心棒』でした。子どもの頃だったので、最初は「白黒かよ。何か古くさそうだし、字幕も付いているし…」と思ったけど、見たらめちゃめちゃいけてて、すごくモダンで、ジャズっぽい音楽も最高だと思いました。それで、映画というものがいかにタイムレスで、力を持ったものなのかということを知りました。

-この映画には、廃虚になった人間の世界が出てきました。あれは68年版の自由の女神とつながる感じがしましたが。

まさにあれが鍵でした。68年版は人類の造った物の名残が全てなくなってしまった世界。それがどんなふうにして消えていったのか。この映画はその始まりを描いています。そうしたつながりを描くことは楽しかったです。

-今回、監督が一番こだわったのはVFXだと聞きましたが、それはWETA(VFX制作会社)との関わりが大きかったということでしょうか。

巨大ですね。製作費で一番かかったのもWETAへの支払いだったし(笑)。多分皆さんが理解できないぐらいのレベルでのディテールへのこだわりがあります。例えば、1つの絵があってそこにエイプがいる。エイプはデジタルなわけですけど、彼らの目標は、それが100パーセント信じられるかどうかというレベルではありません。後ろで風が吹いて葉っぱが1枚動いただけでも変えるみたいな、そのレベルで作り込んでいくんです。何か気になるところがあったら、1本の毛でも修整するとか、本当に膨大な仕事量で、いくら褒めて褒め足りないです。世界でも一番素晴らしいアーティストたちだと思います。彼らの仕事によってエイプが存在している世界が完全に信じられますよね。でも、それはイリュージョン、幻想です。でも僕は、やっぱり映画全体を見てほしいから、「ここはいいVFXだね」とは言ってほしくないんです。もう完全にストーリーとキャラクターに入り込んで、リアルだと思いながら見てほしい。だから、素晴らしい技術も、全ては皆さんを映画の世界に連れていくためのサポートに過ぎないと思っています。

-最後に、日本の観客へメッセージをお願いします。

もちろん、これまでこのシリーズを見てきたファンの人たちにも楽しんでほしいですが、初めて「猿の惑星」に触れる方にもぜひ見てほしいです。普遍的な物語、深くてエモーショナルな心動かされる物語であると同時に、とても楽しい作品になっています。見知らぬ人たちと一緒にファンタジーの世界にいざなわれるという体験は他にはないと思うので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで見てほしいです。

(田中雄二)

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