一次感情の気持ちを認めてあげる言葉が子どもの人生の質を左右する【「不登校」「ひきこもり」を考える】

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【「不登校」「ひきこもり」を考える】#14

「おもちゃを買って!」と泣き叫ぶ子どもの素の感情に、親が何の関心も抱かないやりとりが続いた場合、お子さんは、生じたつらすぎる一次感情の行き場を見失い、二次感情が過度に膨らんでいきます。それは、「何かを欲しいなどと感じること自体が罪であり恥ずかしいこと」「本音を感じてもそんな感情を表現してはいけない」という歪んだ二次感情が脳のノイズとして膨らみ蓄積していき、いつしか「一次感情を持つことも表現することも許されない」と思い込んでしまって、本音を抑圧し続けるようになるのです。

そのうち、たまに親に「あなたは何が欲しいの?」と尋ねられても、「お兄(姉)ちゃんと一緒でいい」「パパやママからもらえるなら何でもうれしいよ」などと“いい子”を装い出し、そのうち「なんでもいいよ」「特に欲しいものはない」と、子ども自身も自らの一次感情がそもそも自分でもあるのかないのか、わからなくなってしまいます。

体は小さくても、ある意味、親よりも大人の目を持つほどの繊細さを持ったお子さんは、とにかく波風が立たないように親の顔色をうかがって偽装するため、親としてはまったく見抜けずに、その何年後、何十年後に不登校やひきこもり、精神疾患の発症や不適応といった破綻で発覚した時にはすでに大事になっている、というように大変やっかいなのです。

■大事なのは子どもの一次感情を認めること

前回の「わがまま放題させろというのか!」という親御さんに対しては、このように対応すればよかったとアドバイスできるでしょう。お子さんが欲しがっているものがどんなに荒唐無稽なものだったとしても、「買うor買わない」はその後の別問題です。現実には「買わない」という選択の方が多いかもしれません。しかし、まず最初にかけるべき一声は、「そっかぁ、そんなにそれが欲しいんだね」「どうしてそんなに欲しいと思うの?」と、欲しいという一次感情の気持ちを認めてあげる言葉であり、それこそが、目先の「買うor買わない」以上に、お子さんの人生の質をも左右する心のありようの育みそのものに直結するのです。できれば、お子さんの心が折れて聞き分けのいい子を偽装して親の目の届かぬ深くに潜る前に、そこに気づき気持ちを拾い上げる必要があるのです。

さらに言うならば、現在、お子さんが不登校やひきこもり、もっというとなかなか良くならない精神疾患や発達障害、パーソナリティ障害の不適応で難渋している場合には、その解決に向けて親御さんができることがあるのだとすれば、それもまたまったく一緒で、まさに今、困難の最中にいるお子さんの気持ちを傾聴・共感することから、ということなのだと理解できるのではないでしょうか。

▽最上悠(もがみ・ゆう) 精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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