格ゲーの勢いは“本物”だ 参加者の笑顔であふれた『EVO Japan 2024』レポート

2024年4月27日から29日にかけて、格闘ゲームの最強を決める国内最大規模のオフライン大会『EVO Japan 2024』が有明GYM-EXで開催された。

Evolution Championship Series(略称:EVO)は最も長い歴史を持つ格闘ゲーム大会だ。世界中の格闘ゲームプレイヤーたちが集まり、公平なルールと競技精神、そしてそれまで磨いてきた最高の技術で競い合い、チャンピオンの座を決める戦いに挑む。

日本で開催されるEVO Japanはその理念を受け継いだもう一つの世界大会であり、大熱狂を巻き起こした格闘ゲーム最大の祭典が2024年も開催された。

本記事では『EVO Japan 2024』の競技結果はもちろん、格闘ゲームの祭典としての姿や背景を余すことなくお伝えしたい。

■EVOの頂点を目指し9000人近くの選手がエントリー

『EVO Japan 2024』では以下の7つの格闘ゲームをメイントーナメントとして、各トーナメントの優勝者には賞金100万円が与えられ、賞金総額は1,400万円となっている。

【メイントーナメント種目】
『Granblue Fantasy Versus: Rising』
『Guilty Gear -Strive-』
『THE KING OF FIGHTERS XV』
『STREET FIGHTER III 3rd STRIKE: Fight for the Future』
『STREET FIGHTER 6』
『TEKKEN 8』
『UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes』

※EVO Japan公式サイト掲載順

上記の格闘ゲームだけでも延べエントリー数は約9000件、ほかにもサイドトーナメントと呼ばれるプレイヤー主導のコミュニティ大会や純粋に観戦を楽しむ入場者も含めて、3日間の来場者数は過去最多を記録した。

注目すべきは、昨年まで参加エントリー無料だったが、今年の『EVO Japan 2024』から有料となった点だ。それでもなお昨年を上回るエントリー数となったことは、『STREET FIGHTER 6(スト6)』を中心とした格闘ゲームの人気上昇、プレイヤー人口の増加が要因として挙げられるだろう。

そしてもう一つ付け加えたい点がある。優勝賞金や賞金総額を紹介したが、これは必ずしも昨今の格闘ゲーム大会シーンでは高額の部類ではないという点だ。

『スト6』を例に挙げると、2023年8月にサウジアラビアで開催され日本の翔(かける)選手が優勝した『Gamers8: The Land of Heroes』では優勝賞金$400,000(約5,720万円)、2024年2月にアメリカで開催され台湾のUMA選手が優勝したCAPCOM主催の世界ナンバーワンを決める大会『CAPCOM CUP X』では優勝賞金$1,000,000(約1億5,000万円)だ。

一方、『EVO Japan 2024』の優勝賞金は100万円、アメリカで開催された本家『EVO 2023』の優勝賞金は$20,000(約286万円)となっている。だが、これは決してEVO Japanや本家EVOを卑下するものではない。

EVOはその歴史から格闘ゲーマーにとって世界最大のイベントであり、EVOを優勝しEVO Champの冠を頂くのは最大の栄誉とされている。トーナメント決勝のTOP6(過去はTOP8)に残りステージに上がるだけでも名誉とされ、日本の格闘ゲーマーたちの間では「EVOの壇上」が一つのステイタスにもなっている。

つまりそれだけEVOという名は格闘ゲーマーにとってのアイコンであり、その日本版である『EVO Japan 2024』に己の誇りと名誉を賭け、国内はもちろん海外からも多くのプレイヤーが有明の地に集ったのだ。

■EVO Japan初のメイン採用、25年稼働タイトル“3rd”が登場

メイントーナメントのほぼすべてがPlayStation 5版で行われたなか、ただ一つアーケード筐体で行われたゲームがある。それは『STREET FIGHTER III 3rd STRIKE: Fight for the Future』(通称『3rd』)、1999年にアーケードで稼働を開始したタイトルだ。

EVOやEVO Japanのメイントーナメントでは基本的にシリーズ最新タイトルを扱うことが通例であり、今回の『3rd』は異例の抜擢と言えるだろう。本家EVOでも2008年が最後の採用となっていた(優勝は日本のヌキ選手)。

採用の理由としては『3rd』は今年で25周年、ウメハラ選手の“背水の逆転劇(※)”から20年、そしていまでも「クーペレーションカップ」などコミュニティ大会が定期的に開催される人気タイトルであることが挙げられる。これは本家EVOでも時折見られる、サプライズ枠・レガシー枠としての抜擢と言えるだろう。

※EVO 2004の準決勝でウメハラ選手がジャスティン・ウォン選手を相手に連続ブロッキングで劇的な逆転をした試合。全世界でもっとも有名な格闘ゲームの名シーンと言われている。

予選には464人の選手がエントリーしていたが、大会スペースには25年の歴史を感じさせる『3rd』を愛し続けてきたベテラン選手たちが顔を揃えていた。なお、今年7月開催予定の本家『EVO 2024』でも、『3rd』がメイントーナメントに採用予定と発表されている。

■TEKKEN 8を制したのは日本のチクリン選手!

2024年1月26日に発売されて以降、初の大規模大会となった『TEKKEN 8』。もはや鉄拳シリーズのプロ大会シーンでは常連となったパキスタン勢が残念ながらビザの関係で来日できず、今回のトーナメントは「鉄拳発祥の地である日本」と「強豪プレイヤーを有する韓国」との対決という図式ができあがっていた。

FINALに残ったTOP6は日本から2名、韓国から4名。日本人選手はWinnersでチクリン選手、Loosersでダブル選手が最終日の壇上に立った(※)。

※『EVO Japan 2024』ではトーナメントに格闘ゲーム大会では通例のダブルエリミネーション方式が採用されており、敗者復活のある変則トーナメントで2敗した時点で敗退が決まる。0敗で勝ち進んでいるサイドをWinners、1敗でまだ敗退していないサイドをLoosersと呼ぶ。

ダブル選手がフルセットフルランドの激闘の末に惜しくも敗れて、まさにラストサムライとなったチクリン選手。彼は「TEKKEN World Tour 2019 Finals」の覇者だが、その取り組みは“努力の天才”とも呼ばれている。その逸話として『TEKKEN 8』発売から約3週間後に「鉄拳8発売されてから初めての外出」とXにポストするなど周囲を驚かせていたほどだ。

チクリン選手はWinnersセミファイナルで韓国のCHANEL選手を倒すと、そのままWinners FinalとGrand FinalでLowHigh選手に勝利し、無敗のまま『EVO Japan 2024』の覇者となった。

その物静かな出で立ちと謙虚な姿勢は優勝しても変わらなかったが、勝利者インタビューでは「TEKKEN 8がすごく面白くて、毎日楽しく練習できてそのおかげで優勝できたと思います。TEKKEN 8は最高の面白いゲームですので、ぜひ良かったらみなさんもプレイしてみてください!」と内に秘めた想いを語り、そのゲームを愛する心は観客や視聴者たちの胸を打つものだった。

■SF6ではFAVgaming所属りゅうきち選手が活躍

2024年3月13日に1人の選手がFAVgaming(母体:KADOKAWA Game Linkage)の格ゲー部門に加入した。その名は「りゅうきち」、1996年生まれの彼は小6の頃から格ゲーを始め、闘劇2012「スパIV AE」ではベスト8に進出した経歴を持つ。

ブランクを経て2023年頃からSF5で再び大会シーンに姿を現し、ウメハラ選手主催「俺を獲れトーナメント」優勝、第6回「名古屋OJA BODY STAR SFL 2024 トライアウト大会」優勝(JeSU公認プロライセンス獲得)、「Red Bull Kumite 2024 New York Japan Qualifier」優勝と一気に存在感を示し始めた。

すでに1児の父でもある彼は、決していきなり登場した才能ある期待の若手新人というわけではない。しかし人生を格闘ゲームと共に歩み、チャンスをつかんでここまでたどり着いた。

そして彼自身も初体験であろう日本開催の大規模オフライン大会『EVO Japan 2024』で2日間の予選を勝ち抜き、見事に最終日FINALとなるTOP6に進出したのだ。

これは前述した「壇上」に立った選手としての価値だけでなく、イベント賞金総額6,000万ドル(約92億円)のサウジアラビアで開催される「Esports World Cup」への推薦出場資格を獲得したという点でも大きな結果と言えるだろう。

そして、りゅうきち選手は間違いなく『EVO Japan 2024』で最も観客を興奮させたと言ってもいい試合を、海外の強豪選手であるMenaRDを相手に繰り広げた。この劇的なシーンは、ぜひその目で確かめてほしい。

この瞬間、会場である有明GYM-EXは観客の声援や雄叫びで爆発的な衝撃に包まれ、“令和の背水の逆転劇”と呼べるインパクトを残すものだった。

りゅうきち選手はこの試合で惜しくも最後には敗れ、勝利したMenaRD選手はそのまま勝ち進んで本大会を優勝した。しかし5,089名がエントリーした今回のトーナメントでMenaRD選手は13勝0敗だったが、セット数3-2まで追い込んだのはりゅうきち選手のみ。ほかにセット数を奪ったのはXiaohai選手だけで(予選で2-1)、現在の最強プレイヤーと呼ばれているMenaRDに本大会で最も肉薄した選手と言えるだろう。

りゅうきち選手はMenaRD選手に敗北後Loosersに進み、もけ選手に勝利したものの翔選手に敗れ結果は4位となった。CapcomCupをはじめ数々の世界大会で優勝しているMenaRD選手や日本人最上位の翔選手の強さは本物だったが、この日もっとも観客を興奮させたのはりゅうきち選手で間違いないだろう。

りゅうきち選手は「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」でチーム「FAV gaming」の一員として参戦することも予想されており、今後の国内外での活躍が大いに期待される。

■プロeスポーツチーム「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」の台頭

「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」は、その名のとおり福島県に拠点を持つ2019年に設立されたプロeスポーツチームだ。『STREET FIGHTER 6』部門所属の翔選手の活躍で注目を集め始めたチームだが、今回の『EVO Japan 2024』では驚くべき成果を挙げた。

『Granblue Fantasy Versus: Rising』ルーキーズ選手:優勝、とろろ選手:3位/『STREET FIGHTER 6』翔選手:準優勝/『Guilty Gear -Strive-』ちゅらら選手:3位 ※IBUSHIGIN公式Xアカウントより

ほかにも多数の選手が上位に進出しており、この『EVO Japan 2024』で最も名を挙げたチームと言っていいだろう。株式会社アスピロンドが運営する設立されてまだ数年のチームだが、ELECOMやLEVEL∞などのスポンサーを獲得し、福島で確実にeスポーツコミュニティを広げて2024年5月1日には飯坂温泉に「GAMING SPACE IBUSHIGIN」をオープンしている。

そして『STREET FIGHTER 6』のプロ大会シーンで最も注目を集める「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024」にも「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」として新チーム参戦するなど、格闘ゲーム界において今もっとも注目すべきプロeスポーツチームと言えるだろう。

■格闘ゲーム界の新たな波を感じさせた3日間

格闘ゲームの歴史は長い。初代ストリートファイターが1987年にリリースされ、1997年に開催された「ストリートファイターIIターボ チャンピオンシップ」が両国国技館に約8,500人の参加者を集めたのが、いまから30年以上前となる。

それゆえにストリートファイターシリーズに限らず格闘ゲームのコミュニティやプレイヤーは、ほかのFPSやMOBAといったゲームと比べてもベテランの存在が目立つ世界だ……いや、世界“だった”。

その風向きは、ここ数年のeスポーツとしての台頭、2023年6月『スト6』のリリースで変わってきた。興行としてのeスポーツが注目されるなかで格闘ゲームもプロ選手を目指す若者たちが増え、新規層と既存層を共に納得させるゲーム性とストリーマーやVTuberを巻き込み効果的なプロモーションでブレイクした『スト6』が、近年まれに見る数の格闘ゲームプレイヤーを獲得したのだ。

その表れとして『EVO Japan 2024』の会場は20代後半からの既存層だけでなく、10代20代の若者たちの姿が目立った。そして『STREET FIGHTER 6』部門最終日の壇上に登ったTOP6のメンバーは、1995~2001年生まれとすべて20代の選手たちだった。

そんな新時代の訪れを感じさせる象徴のひとつとして、先に挙げた翔選手も含めたFUKUSHIMA IBUSHIGINの台頭や、間口が広がったプロへのチャンスをつかんだりゅうきち選手の活躍も挙げられるだろう。

■大成功となった『EVO Japan 2024』

今回の大会では紹介したゲーム以外でも各所で盛り上がりが見られ、イベントは大成功と呼べるものだった。特に大会中や終了後にSNSなどでは「大会運営のスムーズさ」が話題に挙がっていた。

オフラインで多くの参加者たちが集まり大量のゲーム機やデバイスを使用するとなると、運営やプレイ環境でトラブルが起きて当たり前だ。実際に過去の格闘ゲームオフライン大会では機械トラブルや大会進行の遅延などが起こり、選手たちからクレームが挙がることもあった。

しかし今回の『EVO Japan 2024』では、ゲーム機材の管理やボランティアを含む多くのスタッフたちによる行き届いた運営など、大きなトラブルは見られず大会運営に対して評価する声が大きかった。その一例として、大会終了後のウメハラ選手のXポストを紹介しよう。

この結果はスタッフ・選手などすべての関係者によって成し得たものだが、長年FGC(Fighting Game Community)を支え続け本大会の大会運営委員長となった松田泰明氏(Universal Glavity)の存在も挙げたい。松田氏は稲葉央明氏(GODSGARDEN)と共に『EVO Japan 2024』開催中に本国EVOチームからFGCへの貢献を讃えるキャノンアワードが贈られた。

彼らが作り上げた『EVO Japan 2024』はステージ・予選フロア・イベントブースなどすべてが多くの参加者たちであふれ、その表情は笑顔で包まれていた。

今回の『EVO Japan 2024』の成功は日本の格闘ゲームシーンをさらに盛り上げるものとなったことは間違いなく、大会中に発表された『CapcomCup XI』の日本(両国国技館)開催決定もあり2024年から2025年にかけて勢いを付けた格闘ゲームシーンは、ますます加速していくことだろう。

(文=じく)

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