自転車屋台の一杯が原点 “いい空気感”残す場に SPAiCE COFFEE HOUSE(勝浦市)【古風を個性に 房総リノベカフェ】(1)

手焼き煎餅店をセルフリノベーションしたスパイスコーヒーハウスの店内=勝浦市勝浦

 古民家や空き店舗を改修した「リノベーションカフェ」が、房総半島で増えている。古風な建物を「個性」と捉え、憩いの空間に生まれ変わらせた人々の思いに迫り、連休中に疲れを癒やせるこだわりの一杯を紹介する。

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 ふらっと立ち寄って気軽に自家焙煎(ばいせん)コーヒーが飲める「SPAiCE COFFEE HOUSE(スパイスコーヒーハウス)」。勝浦中央商店街の手焼き煎餅店だった瓦屋根の建物をリノベーションして2022年12月にオープン。地元で430年以上続く朝市のような気さくな交流や、のんびりとした時間を楽しめる勝浦らしい店だ。

 5種類の豆をブレンドするエスプレッソをベースにしたレギュラーコーヒーは500円。イタリアの喫茶店などを指す「バール」で出されるコーヒーとたがわない味を追求する。好みの豆を選べるハンドドリップコーヒーやチャイ、季節限定ドリンクなども提供する。

 9坪ほどの店内は注文カウンターと腰掛けが数台あるシンプルな造り。壁の一部を取り壊して出た廃材や煎餅焼き台の木材がカウンターなどの内装に再利用され、壁に塗られた落ち着いた色のしっくいがおしゃれな雰囲気を醸し出す。

 「解体して使えるものはできるだけ使った」と話す紺野雄平さん(31)ら店を共同経営する20~30代の若者が自分たちで改装。1カ月余りで作り上げた。

 人が集まる場をつくろうと、紺野さんが同市にある国際武道大を卒業した直後の15年4月から今も続ける自転車で引くコーヒー屋台が店の原点。ほぼ毎日朝市に出店する中で、コーヒーを通じて生まれる対話や人とのつながりを大切にする文化、コミュニティーができてきたと感じるようになり、「育ってきた“いい空気感”が定着して残っていく何かしらの場所が欲しかった」。朝市で客として知り合った仲間とともに拠点となる店をオープンさせた。

 商店街の店主や昭和初期の話を聞かせてくれる90代のおじいちゃん、おばあちゃん、「ここのコーヒーが1番おいしい」と常連になったカナダ人男性に部活動帰りの学生、観光客。老若男女問わず店を訪れる。

 「ありがたいことに多くの人が応援してくれて、街に溶け込みつつあると感じる。街の人たちに愛されることを大切にしたい」と紺野さん。仲間と交代で店に立ち、コーヒー一杯一杯に思いを込める。

◆メモ

住所=勝浦市勝浦111 営業時間=午前8時~午後8時 不定休 詳細は店インスタグラム

軒先には煎餅店「治郎兵ヱ」だったころののれんが掛かる

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