【京王杯SC回顧】昨年の雪辱を果たしたウインマーベル 母父フジキセキの血が驚異の粘りを呼ぶ

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アイルハヴアナザーとフジキセキ

実況アナウンサーがほぼ断定してしまったように、直線残り200mの勢いは完全にレッドモンレーヴだった。最後方からの追い込みは鬼気迫るものがあり、誰もが勝負ありと感じた。しかし、ウインマーベルがその気迫を受け止め、抵抗し、最後にハナだけ前に出た。昨年2着に敗れた借りをきっちり返し、重賞4勝目をあげた。実に男前な馬だ。1400m重賞は昨年阪神Cから3連勝で負け知らず。4歳終わりから5歳にかけ、完成の域に達したといえる。JRAに1400mのGⅠがないのは残念だ。

東京芝の重賞でアイルハヴアナザー産駒がロードカナロア産駒を封じるから、血統は不思議だ。米国クラシック二冠馬アイルハヴアナザーは大きな期待をかけ、日本に輸入されたが、ダート中心だったこともあり、5年で帰国した。やはり日本では芝の活躍馬を出さないと、なかなか評価はあがらない。

ウインマーベルは日本に残した最終世代でもある。葵Sで産駒初の芝重賞ウイナーとなって、そこから2年で4つの重賞を獲った。アイルハヴアナザーらしくない軽い走りはいったいどこから来るのか。母コスモマーベラスはフジキセキ産駒で愛知杯2着の実績を持つJRA7勝の活躍馬。その産駒のうち、ウインマーベルを含め4頭が父アイルハヴアナザーだ。きょうだいはウインジェルベーラ(函館2歳S2着)、ウインアイルビータ(芝2勝)、ウインオーサム(地方8勝)と芝で走る産駒も多く、堅実に結果を出してきた。アイルハヴアナザーともっとも相性がいいのが母の父フジキセキだった。

この組み合わせは通算【31-28-14-110】。産駒初の重賞ウイナーのアナザートゥルース、JRA6勝マイネルユキツバキなど活躍馬がならぶ。ことさらコスモマーベラスの仔は母の父フジキセキの影響が強く、スピードと粘りがウインマーベルに伝わったといえる。フジキセキは自身と同じく早めから全開で走る産駒を多く出す一方、イスラボニータのように5、6歳で再上昇することもある。こういった点もウインマーベルに宿るフジキセキの特徴といえる。

レッドモンレーヴは安田記念を視野に入れた走り

レースはメイショウチタンが後ろを離しても、前半600m34.8と速くない。好位にいたウインマーベルも序盤、前に壁がなく、少し行きたがる素振りもあったが、抑え込まず、3コーナーで若干行かせてリズムをつくった。松山弘平騎手の隠れた好騎乗だろう。直線までリズムを整えたからこそ、最後の粘り腰につながった。当然、後半もラップは落ちず、残り600m11.2-11.4-11.3のレース上がり33.9。ウインマーベルはこの流れを33.2で乗り切っており、もはや1400mなら舞台を選ばない存在になった。

ウインマーベルのGⅠ挑戦は一貫して1200mなので、安田記念は視野に入っていないだろうが、前哨戦と本番のつながりでいえば、この京王杯SCと安田記念も非常によくない。距離延長は当然として、やはり流れの違いは大きい。今年も京王杯SCはスローの後半勝負になった。香港勢が参戦する今年の安田記念は前半が速く、後半も速いという究極のスピード比べになる公算が高く、この差を埋められるかどうか。

2着レッドモンレーヴはそこを踏まえたレース運びだったように映った。あえてスローの前半に付き合わず、直線一本にかけた。スローに乗ってしまうと、次走の速い流れに戸惑いかねない。スタートがそこまで悪くなかったなか、あえて下げたのはそういった意図があったのではないか。であれば、上がり32.2の豪脚は2着でも上々の結果だったといえる。昨年の安田記念は京王杯SCほど弾けなかった。適性を考えると、もっともGⅠタイトルに近づく舞台であり、今年は弾けるのではないか。

3着スズハロームはレッドモンレーヴに2馬身差をつけられており、完敗の形だが、昇級初戦のGⅡ挑戦としては上出来だった。まだキャリア11戦と若く、着外4回を除くと、すべて1、3着という珍しい戦歴の持ち主だ。差し切るか少し足りないか。歯がゆさと堅実さを持ち合わせたタイプで、未勝利戦を除けば、1400mで勝ち、1600mで惜敗ないし凡走してきた。ウインマーベルの域には達していないものの、こちらも1400mのスペシャリストへ育ってくれそうだ。今後も1400mの重賞ではしっかり押さえておこう。母アイラインは東京芝1400mを中心に追い込み型として活躍し、JRA4勝をあげた。この馬もウインマーベルと同様、母の力を感じた。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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