型破りな仕掛け人 巻き網漁業会社営む竹下千代太さん 煮干しサミットや「一年漁師」企画 長崎・雲仙

「沿岸漁業を残すためにも地域が存続しなければ」と語る竹下さん=雲仙市南串山町

 「地方の沿岸漁業を残したい。そのためにも地域が存続しなければ」
 長崎県雲仙市南串山町の巻き網漁業会社、天洋丸の社長。型破りな活性化策を次々に仕掛けている。
 橘湾沿岸は煮干しの有力産地だが、全国的に原料のカタクチイワシの漁獲量が激減し、煮干しの生産量も減っている。「全国の生産者らとつながり、煮干し文化を残したい」と実行委をつくり、4月20、21日、雲仙市で初めての「全国煮干しサミット」を開いた。
 サミットでは生産者や研究者の報告のほか、演歌歌手の鳥羽一郎さんを「雲仙煮干し大使」に任命。ショーやグルメなど多彩な催しが人気を集め、2日間で1万人が来場し、にぎわいを生んだ。「たくさんの人が協力してくれたおかげ」と感謝する。
 期間限定の漁師募集企画「一年漁師」も話題を呼んだ。新型コロナウイルスが流行し、働き方を見直す機運が高まった2021年に提案。若者が毎年1人ずつ、地域と交流しながら漁師として生き生きと働いた。
 企画は今年3月の全国青年・女性漁業者交流大会で報告され、地域活性化部門で最高賞の農林水産大臣賞に輝いた。「違う価値観の人が現場で化学反応を見せてくれた。他の社員にも刺激を与えている」
 南串山生まれ。祖父の代から続く巻き網漁業の家で育った。家業を継ぐつもりはなく、東京水産大(現・東京海洋大)を卒業後、都内の大手水産会社に就職した。ところが「海に携わりたくなった」と01年にUターン。13年に事業を継承した。現在、橘湾で2船団、大分県臼杵市で1船団を手がける。
 「水産資源の価値を高め、人々を笑顔にする」が信条だ。煮干しを炊き込んだ南串山の郷土料理に目を付けた「じてんしゃ飯の素」や、漁網をリサイクルした「網エコたわし」などユニークな加工品を開発。悪天候で漁に出られない日の働く場をつくり出した。
 「人が宝」と言う。インドネシア人実習生を積極的に受け入れ、専用の寮を建てた。実習期間終了後の仕事も希望に沿い、できる限りの世話をしている。
 煮干しを混ぜた餌で育てた養殖サバを売り出す計画を立てていたが、昨夏に橘湾を襲った赤潮で、約2万匹のうち4分の3が死滅した。それでも「やりながら課題が見えてくる」と前を向く。
 「一日として同じ海はない」。日々見詰める海のように、漁業の可能性は限りないと信じている。

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