年金月24万円のはずが…60歳専業主婦、サラリーマンの年下夫が急逝→唖然の〈遺族年金額〉に老後不安が止まらない「こんなの、あんまりです」【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ひと昔前は「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方が一般的でした。年金制度もこの考えに沿ったものとなっており、夫に万が一のことがあった場合、遺された家族のために〈遺族年金〉が支給されます。では、実際に遺族年金を受給することとなった場合、具体的にいくらくらいもらえるのでしょうか。夫を亡くした専業主婦Aさんの事例からみていきましょう。石川亜希子氏FPが解説します。

「老後も安心」のはずが…夫の急逝で生活が一変

専業主婦のAさん(60歳)は、上場企業に勤める1歳年下の夫とふたり暮らしでした。子どもには恵まれませんでしたが、いつも夫婦一緒で近所でも評判のおしどり夫婦。夫の年収は800万円ほどで、子どもがいないこともあって余裕のある暮らしを送っていました。

先日届いたねんきん定期便を確認したところ、65歳以降は夫婦で月に約24万円の年金が受け取れるようで、「退職金もあるし、これなら贅沢しなければ老後も安心だね」と夫婦で話していました。

そんな矢先……いつもと同じ朝、夫が急に倒れ、そのまま帰らぬ人に。

Aさんは、あまりに突然の出来事に茫然自失のまま、なんとか葬儀などを終えました。忙しくて悲しむ暇もなかったAさんでしたが、さまざまな手続きがひと段落すると、今度は急激な寂しさに襲われます。

お風呂や食事、朝目覚めたとき。「あ、そうだ。夫はもういないんだった……」日常生活のふとした瞬間にそう感じるたび、ひとりぼっちになってしまったことを痛感しました。

「私はこれから生きていけるのだろうか……とにかく誰かと話したい。不安を聞いてほしい」悲しみに加えて、経済的な不安も襲ってきたAさんは、知り合いのFP(ファイナンシャルプランナー)に、今後の生活について相談することにしました。

遺族年金は誰もがもらえるわけではない

遺族年金は、被保険者が亡くなったときに、被保険者の配偶者や子など「被保険者によって生計を維持されていた遺族」に支給される年金です。老齢基礎年金と同じように2階建ての仕組みになっていて、1階部分が「遺族基礎年金」、2階部分が「遺族厚生年金」です。

1階部分の「遺族基礎年金」は、被保険者に生計を維持されていた「子のある配偶者」や「子」に対して支給されるもので、「子」は、18歳に達する日以後最初の3月31日までの間にある子(あるいは20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子)を指します。Aさんには子どもがいないため、遺族基礎年金は受給資格がありません。

他方、2階部分の「遺族厚生年金」は、亡くなった被保険者の老齢厚生年金、報酬比例部分の4分の3の金額を受給することができます。Aさんの夫は、厚生年金として10万5,000円ほど支給される予定でしたので、その4分の3となると、月に7万8,000円ほどです。

Aさんの夫は60歳で定年を迎えた後も、再雇用で働く予定でしたので、本来であれば年収800万円の3分の2ほどの収入を見込んでいましたが、その給与もなくなってしまいました。

「月に7万8,000円程度しからもらえないなんて……こんなの、あんまりですよ。これからどうやって生きていけというんですか」AさんはFPの説明を聞いて老後不安が止まりません。

“子のいない妻”が受け取れる「中高齢寡婦加算」とは

子どもがいれば受け取れた遺族基礎年金ですが、妻も被保険者に生計を維持されていたにもかかわらず、子のいる、いないによって支給の有無が決まってしまい、不公平感は否めません。

「子」がいなくて遺族基礎年金をもらえない、または、もらえていたが「子」が18歳を超えて遺族基礎年金が打ち切りになってしまった……そのようなとき、妻に支給されるのが「中高齢寡婦加算」です。

「中高齢寡婦加算」は、妻が40歳から65歳で妻自身の老齢基礎年金がもらえるまでの間、受け取ることができます。支給額は一律で61万2,000円(令和6年度)です。

つまり、Aさんが月に支給できる金額は、概算ではありますが、

【Aさんが65歳になるまで】

遺族厚生年金約7万8,000円+中高齢寡婦加算5万1,000円=約12万9,000円

【65歳以降】

遺族厚生年金約7万8,000円+老齢基礎年金6万8,000円=約14万6,000円

ということになります(老齢年金額は令和6年度)。

ただし、さらに「65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受給する権利がある場合、老齢厚生年金は全額支給、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となる」というルールがあることには注意が必要です。

不安を募らせるAさん…FPの助言に「確かにそのとおりだわ」

中高齢寡婦加算を合わせても、夫が急逝してしまったことで、Aさんが受け取れる年金は、当初予定額の5~6割になることがわかりました。Aさんは、夫との悠々自適な老後をイメージしていただけに、ますます暗い気持ちになってしまいました。

総務省の令和5年度家計調査報告書によると、65歳以上の単身高齢者世帯における家計収支の平均は、収入(年金など)12万6,095円に対して支出が15万7,673円と、月に約3万円の赤字となっています。

Aさんの収入は約12万9,000円なので、おおむね平均程度です。

「月3万円の赤字……急な出費もあるだろうし、どうしよう」Aさんがますます不安を募らせていたところ、FPから「Aさんも少し働いてみてはいかがですか?」との提言がありました。

「フルで働かなくても、働いた分金銭的な余裕が生まれます。そしてなにより、社会とつなることは精神的にもプラスに働くのではないでしょうか。Aさんはまだまだ若いです。人とのつながりを大切にして、健康寿命を延ばすことが大切ですよ」

実はAさん、結婚前は幼稚園教諭でした。長いあいだ働いていませんでしたが、現場は人手不足。幼稚園や保育園での保育補助のパートの求人は多いのです。

また、時給はパートより下がってしまいますが、地域のシルバー人材センターやファミリーサポート事業に登録し、育児の見守り(共働き家庭で子どもと留守番、習い事の送迎など)を請け負うこともできます。こういった組織では会員同士の交流もあるため、気の合う友人も見つかるかもしれません。

「実は私もファミサポ(ファミリーサポート事業)を利用していたんですよ」40代の女性FPは笑って言いました。

「そうね、確かにそのとおりだわ。時間もたくさんあるし、家にいても悲しくなるだけだもの。私が元気でいないと、夫も心配してしまうわね」Aさんは将来に対して少しだけ前向きになれたと、笑顔で帰っていきました。

あまり考えたくはないが…“万が一”への備えを

一家の大黒柱に万が一のことがあったとき、残された家族のために支給される遺族年金ですが、さまざまな要件があり、それぞれの事情によって支給される金額も異なります。

万が一のことはあまり考えたくはないものですが、元気なときに自分たちはいくらもらえるのか確認して、足りない分については事前に備えておくことが大切です。

石川 亜希子
AFP

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