大谷翔平の元同僚ザカリー・ネト 「野球」と「サルサダンサー」の〝二刀流〟になった経緯

エンゼルスでは遊撃を任されているザック・ネト(ロイター=USA TODAY Sports)

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】今回は2022年にドラフトされたザカリー・ネト(通称・ザック)の話。1年でメジャーまで駆け上がり、地元のマイアミで大リーガーとして初のオフシーズンを過ごしたら、何とサルサダンサーになってしまった。

「大リーグに来たことが自信につながり、自分の殻から抜け出すのを助けてくれていると思う。オフに自宅に帰った時にどこかつまらなくて、ずっとビデオゲームをやっているのも嫌だった。ただトレーニングに行って家に帰るだけだったのが、いつの間にか新しいことにチャレンジできる自分になっていた。今やサルサダンスは自分の楽しみの一つ」

きっかけは大好きな母、マギーさんだった。

「母が大のダンス好き。家族イベントで音楽がかかれば真っ先に部屋の真ん中で踊り出し、最後まで踊っているタイプ。僕はずっと踊れなかったんだけど、新年が近づいていて、母の新年をダンスでお祝いしてあげたいなって考えた」

キューバ出身の両親を持ち、親戚も多くいつも大勢で休日や誕生日を祝うラテン系家族らしい環境で育った。11月の感謝祭パーティーで楽しそうに踊る母を見て、2か月間集中してダンスを習うことを決め、近くのダンススタジオに週3回、初心者用の「レベル1」のクラスから通い始めた。

「踊る時間を作るために、家族や友達とのディナーをキャンセルしたりもしたよ。突然通い始めたから、父によくちゃかされた。ちなみに父も全く踊れないんだけどね。僕にとってサルサは優先事項だった。踊りの流れ、リズムをつかむには何度も繰り返して体に染み込ませることが大事だ。時間はかかったけど、僕は野球選手だから何かをキャッチするのは早い。スポーツをやっているおかげで、リズム感もあった」

サルサダンスはいわば「社交(ソーシャル)ダンス」。日本ではペアで出場する競技ダンスのイメージが強いかもしれないが、ソーシャルダンスのイベントは世界中で日常的に行われ、好きな人は気軽にダンスフロアへ出掛けていく。見知らぬ人にも声をかけて踊るため、最初の一歩はかなり勇気がいるが、ザックのフロアデビューは何と始めて1週間後だった。

「今思えば、そこそこ頑張った方だと思う。早く上達したかったから、ソーシャルにはできる限り参加した。おかげで今では人前で踊ることは怖くない」

ザックはデビューの様子を自身のインスタグラムに投稿。そこで野球選手であることが初めてダンス仲間に伝わった。

「翌日のクラスで『本当に大リーガー?』『そうだよ』『何してるんだい?』『いや、習いたいだけさ』なんてやりとりはあったけど、そこからも普通の人として接してくれた。今は自分もそのコミュニティーの一員だって実感がある。僕が野球に打ち込むのと同じで、みんなダンスにひたむき。彼らがダンスにかける時間や努力を尊敬するよ。僕が野球で完璧になりたいように彼らもダンスで完璧を目指している」

シーズン中はダンスはお預けだが、ドライブ中はサルサ音楽、家では自然にステップを踏むようになったザック。肝心のマギーさんとのダンスはどうだったのか。

「最高だった! その日は1日中笑顔が絶えず僕を幸せな気持ちにさせてくれた。ゴールを明確に決めて達成し、母を喜ばせただけでなくダンスの時間を共有できるのがうれしい。父も今では真っ先に音楽をかけに行くんだ。『あれ、お前の曲じゃないか? 踊ってきたらどうだ?』と冗談を言いながら(笑い)」

☆ザカリー・ネト 2001年1月31日生まれ、23歳。フロリダ州マイアミ出身。右投げ右打ち、内野手。キャンベル大学時代は投打二刀流でプレー。22年にMLBドラフト1巡目(全体13位)で指名されて、大谷翔平投手(現ドジャース)も所属していたエンゼルスに入団。翌23年4月15日にメジャー契約を結び、同日のレッドソックス戦で即デビューを果たし、84試合に出場した。

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