By 安東秀海
結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は特別編! 夫婦カウンセリングの場で話題に上がることが増えているという「依存症」について、安東先生によるコラムをお送りします。
夫婦関係に深刻なダメージを与えかねない依存の罠
著名人の不倫スキャンダルが、見ないようにしてきた夫の(妻の)行動に目を向けさせるきっかけになったり、タレント夫婦の離婚を機に思いがけず別々の道を歩く選択肢が生まれたり。
世間を騒がすニュースが夫婦間の潜在的な問題を顕在化させる場合があります。
この一ヶ月、夫婦カウンセリングの現場でこれまでになく話題に上るのが「うちの夫は(妻は)依存症ではないでしょうか?」というご相談です。背景にはやはり、ドジャース・大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の事件があるのでしょう。
夫婦カウンセリングではそれが「依存症」であるかどうかを判断することはできませんし、もしそうなのであれば専門機関での治療が必要です。
いっぽう、たとえそれが病的なものではなくとも、ヒト・モノ・コトとの「依存性の高い関わり方」というのは時に夫婦関係に深刻なダメージを与えます。
お寄せいただいたご相談にお答えする本連載ですが、今回は「夫は、妻は、依存症?」をテーマに、夫婦関係の立て直し方について考えてみたいと思います。
世界は依存のワナに溢れている
ギャンブルに限らず、アルコールやセックス等、のめり込んでしまえば大きな問題を引き起こしかねないものから、仕事や趣味といった一見問題になりにくいものまで、私達の周りには依存性の高い関わりを生むヒト・モノ・コトが溢れています。
食品ひとつとってみても、より美味しく加工された商品が、より魅力的に見えるパッケージで、より手軽に手に取れるよう工夫された物流サービスによって提供されています。
水原氏の事件も、それがオンラインでの賭博でなければここまで大きな損失を生むことはなかったのではないでしょうか。
依存症という響きは重いけれど、そこに繋がる門戸は広くどこにでもある。それが私たちの生きる世界なのかもしれません。
そういった意味では、夫が妻が○○にハマってしまって、というのは誰にでも起こりうる身近なリスクのひとつとも言えるのかもしれません。
身近なリスクとしての依存
ギャンブルや薬物、アルコールは言うまでもありませんが、スマホゲーム、ネットショッピング、SNSなど、依存の入り口はどこにでもあって、たとえそこに違法性や金銭的な問題がなくても、パートナーの興味・関心が自分や家族の外に向かっているのは寂しいものです。
- 部屋に籠もってオンラインゲーム
- 休日はいつも趣味のサークル
- ネット通販で衝動買い
など、配慮なく繰り返されれば問題になることは明らかなのに、何度伝えても理解してもらえない。
そんな状況が続けば自ずと溝は生まれてくるでしょうし、「こんなにハマってしまうのはちょっとおかしいでしょ!?」と批判的なコミュニケーションが増えて、結果として大きなダメージを夫婦関係に与えてしまうことにもなりかねません。
大切なものを大切にできない
それが依存症であってもそうでなくても、夫婦や家族よりも常に優先されるものがあるというのは夫婦関係に大きなダメージを与えます。
もちろん、どうしてもそれを優先しなければならないケースはあるでしょうし、バランスを保つ上で自分の時間を楽しむことも必要なことです。
問題なのは、大切にしたいものを大切にできないくらい他の何かに自分の時間やリソースを割いてしまうこと、そしてそれが問題だと感じながらもやめられないことです。
問題と感じているのにやめられないから後ろめたさが生まれ、後ろめたいから隠そうとしてしまいます。
お酒もゲームも趣味も買い物も、オープンに楽しんでいる間は大きな問題にはなりにくいものですが、一旦隠し始めると、隠すためのウソが生まれ、更に後ろめたさが増して、と言う具合に負のスパイラルは止まらなくなってしまいます。
問題の所有者は誰なのか?
以前の記事で問題解決の責任者は誰か?というお話をしたことがあります。
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感情的になってモラハラ的な言動を繰り返す夫との生活がツラい、というご相談でしたが、怒鳴るのも暴言を吐くのも、そうしてしまう夫側の問題であって問題解決の責任者は妻ではありません。
ところが夫婦の間で起こる問題が厄介なのは、問題意識の高い側、つまり夫婦関係を改善したいと感じている側が問題の所有者のようになってしまって、本来の所有者に当事者意識が芽生えにくい場合があることです。
だからこそ、それが「夫婦」の問題なのか、それとも「夫」あるいは「妻」の問題なのか、問題の所有者を明確にしておく必要があります。
所有者が曖昧なまま問題解決に取り組もうとすれば、責任領域以上の責任を抱えてしまったり、責任を肩代わりしてしまうことにもなりかねません。
夫が(妻が)、ギャンブルやお酒、終わらない仕事、のめり込み過ぎる趣味によって、大切なものを大切にできていないのだとしても、それは夫側の(妻側の)問題。肩代わりできることではありません。
大切なのは夫の(妻の)問題を引き受けることではなく、夫が(妻が)自分の問題に向き合えるようサポートすること。
それ以上にできることはない、ということを受け入れておくことが必要です。
なぜそれにハマってしまうのか?
ここまで、もしかしてパートナーは依存性?と感じた時の取り組み方について考えてきました。
繰り返しになりますが、ギャンブルやお酒など依存性がより強く、やめたくてもやめられない状態なのであれば、まずは専門機関での診察が必要です。
もしそれがゲームや趣味、仕事のように、のめり込んではいるけれど病的ではない、というものであれば、まずは問題を感じている、ということを伝えてみることが大切でしょう。
その上で、ふたりで対話ができそうなら、なぜそれが必要なのか?について考えてみることをお勧めします。
遊びであっても仕事であっても、また誰かとの交流であっても、過度にのめり込んでしまうのはそれが何か、心の空白を埋めてくれているからかもしれません。
そうなのだとしたら、ただそれを咎めたり制限だけをしてみても、根本的な解決にはならず、かえって問題を広げてしまうことにもなりかねません。
ポイントは、それをしている時にどんな気分や感情を感じているのか?ということ。
私たちが何かにハマってしまう時というのは、そのこと自体にというより、それをしている時の感情にハマっていると考えてみます。
例えばそれがゲームならばアドレナリン的な高揚感、仕事や趣味なら達成感や所属感、人間関係なら自己肯定感や承認、という具合です。
そうやって、ハマっている感情に見当がついたなら、その感情を他の何かでも感じることはできないか?を考えてみます。ひとりでもできますが、可能ならこれを夫婦で対話しながら取り組めるのが理想です。
代替になるものを見つけることが目的ではありますが、仮にそこまで行かなくとも、オープンに話し合うことが夫婦関係のリカバリーにつながります。
けれどもし、話し合うことができないようであればムリはしないこと。
問題の所有者はハマっている夫(妻)なのであって、まずはそこに境界線を引いて、「私には解決できないこと」と認識しておくことが大切です。
【次回は5月20日(月)更新予定】
【前回記事】「好きではなくても家族として大切な存在」心が離れてしまった妻と再び良い関係に戻りたい
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