日清『U.F.O.』CMでP丸様。が“匂わせ”、『VRChat』はついにiOS対応 変化続くバーチャル業界

■日清『U.F.O.』のCMに“なつかしい顔”が登場 去就報告も見られたGW明けのVTuber業界

GW明けゆえか、今週のバーチャル業界は比較的ニュースの量は落ち着いていた。とはいえ、『日清焼そばU.F.O.』のCMには驚かされた。

同商品とYouTuberのP丸様。とのタイアップCMが、コラボ楽曲「ずっ恋」とともに発表されたのだ。それ自体は普通のタイアップ広告の動きだが、その仕掛け方がとても匂わせている。輝く夜の月に映るその人物は……「P丸様。」だ。ファンブックでも言及されており、公知の事実ではあるが、本記事ではいちおう明言は控えよう。とはいえ「前世」といったキーワードも飛び出す「ずっ恋」には、なかなかのメッセージ性を感じるのも事実だ。

個人単位のめぼしい動きでは、株式会社RK Musicが運営するVSingerプロダクション「ライブユニオン」所属のバーチャルシンガー・HACHIのメジャーデビューが挙げられる。キングレコードのレーベル「KING AMUSEMENT CREATIVE」内レーベル「SONIC BLADE」よりデビューを果たした形だ。『REALITY』生まれの実力派シンガーが、ここまで上り詰めたことはなかなかに感慨深い。

一方、「.LIVE(どっとライブ)」所属のメリーミルクが、5月17日をもって活動終了となる旨を発表した。2018年3月デビューという黎明期からのプレイヤーが、また一人業界から去ることになる。

また、「バーチャル蠱毒」として業界をある意味で熱狂させた「AVATAR2.0 Project」も、運営チームの解散が発表された。残るメンバーは個人VTuberへ転向する者、活動を終了する者、別の法人へ移籍するものなどさまざま。すでに離脱したメンバーも今年見られただけに、個人的には「いよいよか」という感触だ。いずれにせよ、2018年から歩んできたタレントたちが、少しずつVTuber業界から去りつつある。

また「KAMITSUBAKI STUDIO」は「スタジオの分岐」に至った。新たに「ALLT STUDIO」と「PHASE STUDIO」の2つの新スタジオが設立され、「KAMITSUBAKI STUDIO」はそのままに、体制を新たにしようとしている。

個別に説明すると、まず「ALLT STUDIO」は、DUSTCELLやGuianoなど、ネットシーンで活動するシンガーソングライターやアーティストをマネジメントするプロダクション・レーベルとなる。一方の「PHASE STUDIO」は、花譜のデザインも手掛けたPALOW.がクリエイティブディレクターを務める、オリジナルIP創出を行うクリエイティブスタジオとのことだ。

そして、「KAMITSUBAKI STUDIO」は上記の通り存続しつつ、バーチャルアーティストのプロデュースや、コンポーザーのマネジメント、アーティスト育成、XR LIVE制作、そしてストーリーIPの開発などを手掛ける、と表明している。公式発表では、この動きを「部分的な選択と集中」と表現しており、いわば広がりすぎた担当領域をスタジオごとに分割・再分担する意図があるのでは、と推測できる。この動きがどう寄与するのかは、今後の展開次第だ。

■『VRChat』がついにiPhoneへ上陸? 日本語対応と合わせて、敷居が“ついに”下がるか?

『VRChat』は突如、iOS版のクローズドベータテスト実施を発表した。すでにAndroidスマートフォンでプレイできるようになった『VRChat』だが、日本人にはおそらくiPhoneのほうがなじみ深いだろう。いまのところはテスト段階で、正式リリース時期も明らかになっていないが、近づいていることはたしかだろう。

そして、日本語対応はより近くに迫ってきた。『VRChat』のオープンベータ版にて、メニュー等の全域に渡るローカライズ機能が配信。これまで英語一択だった『VRChat』に、比較的違和感の少ない日本語が並ぶようになった。「Join」という独特な表現も「ワールドに入る」といった平易な表現が採用され、いまから始める人にやさしいユーザーインターフェースとなった。

「iPhoneでもアクセスできる」ことと「日本語に対応している」こと、この2つの条件がそろうと、これまで日本人の前に立ちはだかっていた、代表的な参入障壁が一気に崩れることになる。アクセス面と言語対応だけでいえば、国産メタバースの『cluster』とほぼ同等の水準になる。

ここから、新たなユーザー層の開拓につながるかどうか――筆者は「少なくとも新たなコミュニティができる」と踏んでいるが、読者のみなさまはどう思うだろうか。

■Nianticの位置情報ゲームがMRアプリに発展 仮想のペットと自然にふれあう小気味よさ

NianticのAR位置情報ゲーム『Peridot』は、MR(複合現実)へと歩みを進めた。『Meta Quest 3』向けのアプリ『Hello, Dot』が発表されたのである。

『Peridot』は、「ドット」という生き物とのふれあいを楽しむことができるアプリゲームだ。「ドット」はカメラで認識された現実世界の上に現れ、現実世界のオブジェクトも認識して、活き活きと存在する。Nianticの代表作である『ポケモンGO』ともまた方向性の異なるゲームであり、生成AIもギミックに取り入れつつ、運営は1年目を迎えようとしている。

『Hello, Dot』では、『Meta Quest 3』のMR機能を活用し、「ドット」が眼前に現れる。それどころか、両手に乗っかり、抱き上げ、なでることもできる。スマートフォンの画面越しに指で触れるのではなく、MRヘッドセットの視界越しに両手で触れられる。没入度が一段階上がった体験を楽しめるのだ。

モノとしては「ショーケース」と呼ぶべき簡素な内容だが、いざ自分の手で直接「ドット」にふれて、なでてみると、その自然な操作感と、体験の小気味よさに驚かされる。仮想の生き物と自分の手でふれあうというシンプルな体験こそ、現実と入り交じるMRにはマッチしているかもしれない。派手さはなくとも、自然であることで体験の質が向上することは、『Vision Pro』の体験でも味わったばかりだ。

(文=浅田カズラ)

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