「職場に親友はいますか?」85年にわたるハーバード大の〈幸せ研究〉が導いた、仕事のストレスが和らぐ〈たった1つの要素〉

(※写真はイメージです/PIXTA)

就職・転職活動では「給与」や「福利厚生」に目がいくもの。しかしながら、本当に重視すべきは「職場の人間関係」かもしれません。本記事では、2,000人以上の人生を85年かけて調査した「ハーバード成人発達研究」を元にした『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)から一部抜粋し、仕事の場で感じる「孤独」を解消するコツについて解説します。

心通い合う関係は、福利厚生になる

ビクターはボストンのノースエンド地区で、シリア系移民の子として育った。本研究では数少ない、アラビア語を話す家族出身の被験者だ。ノースエンドはイタリア系移民が非常に多い地区だったため、幼いビクターはなじめないと感じることが多かった。

対面調査を行うたびに、研究チームは彼の知性の高さと自意識の強さに驚いていた。ところが本人は、自分は周りの子より頭が悪い、と思い込んでいた。子どもの頃、同級生がずる休みしたり家出したりすると、頭が良すぎて学校が退屈なんだろうとか、自分よりも勇気があるな、などと考えた。

「ビクターは率直で、気さくで、愛すべき少年で、いつも周りに気を配っています。でも神経質な子です」と、中学校の担任教師は研究チームに語った。

20代のときは職を転々としていたが、ニューイングランド地方を営業エリアとする小さなトラック会社を設立したいとこから、働かないかと誘われた。ビクターは一度は断った。だが、その後結婚し、いとこの会社が成功して支社を増やすと、考え直した。

「一人で過ごすのが好きだから、トラックドライバーの仕事は悪くないかも、と思ったんです」

数年後、ビクターは会社の共同経営者になり、ドライバーの仕事を続けながら、会社の利益の一部を受け取る立場になった。

収入は上がり、妻子にいい暮らしをさせているという誇りも生まれた。だが、孤独感は消えなかった。仕事で数日間家を留守にすることもあったし、定期的に交流する友人もいなかった。いとこは職場で唯一、よく知っている人間だったが、短気で、会社の経営方針をめぐって衝突することも多かった。

この会社に勤めて20年が経った頃、ビクターは研究チームに対し、「なまじ給料がよかったせいで他のことに挑戦できなかった。仕事が人生の重荷になっていた」と語った。

「勇気があったら会社を辞めていたと思います。でも、今の収入を手放せないから、辞められない。死ぬまでトレッドミルの上を走っている気分です」

世の中では、ビクターのように仕事を選べない人のほうが普通だ。生まれ育った境遇や経済的理由により選択肢が限られ、心が満たされない仕事を続けるほかない人もたくさんいる。

また、満足度が最も低い職種と最も孤独感の強い職種が一致するのも偶然ではない。一昔前までは、孤独な仕事といえばトラックドライバーや夜間警備員など、夜勤のある仕事だった。

しかし、今どきは、新興産業のIT産業にも孤独な職種がたくさんある。例えば、ネット通販の配送やフードデリバリーといった単発の請負仕事(いわゆるギグワーク)には、同僚がいない。

職場での孤独感を解消するコツ

オンライン小売業は数百万人の労働者を抱える巨大産業に成長したが、物流センターでの梱包や仕分けの仕事は、同僚が大勢いても孤独な仕事になりやすい。

大量の作業が猛スピードで押し寄せるし、広大な倉庫内では、同じシフトで働いていても互いに名前さえ知らないのが普通だ。心の通う付き合いが生まれる機会もほとんどない。

子育ては太古からある、大切な仕事だ。他の仕事と比べて難易度が高いため、育児に携わる人は孤立しやすい。来る日も来る日も、大人と話す機会のない時間が何時間も続く。うんざりしてしまうのも当然だ。

仕事において他者のつながりが感じられないと、起きている時間の大半を寂しく過ごすことになる。これは健康面の問題にもつながる。前述のように、孤独感、寂しさは喫煙や肥満と同じくらい死亡リスクを高める。

仕事の場において孤独を感じているなら、他者と交流する機会をなんとかしてつくるべきだ。自宅で子育て中の親なら、親子で外出しよう。近所の公園に行くと(子どもにとっても親にとっても)気分転換になるはずだ。物流センターで働く人は、シフトの前後に同僚と声をかけ合おう。

単発の請負仕事をしているギグワーカーも、仕事中に誰かと小さなやりとりをするよう心がけよう。気分がよくなり、孤独感からふと解放されるはずだ。職場でのウェルビーイングを高めるには、意識的な行動が必要だ。

職場での孤独感は、人の関わりが乏しい職種だけの問題ではない。大勢の人と関わる多忙な職種でも、同僚との間に心の通うつながりがないと、非常に強い孤独感を抱くことがある。

世論調査会社のギャラップは、30年間にわたって職場でのエンゲージメント〔組織に貢献しようという従業員の意欲〕に関する調査を実施してきたが、そのなかで大きな議論を呼んだ質問がある。

「職場に親友はいますか?」という質問だ。

この質問を「的外れな質問だ」ととらえる人は、管理職にも従業員にもいる。従業員同士が親しくなるのを警戒する職場もある。従業員同士がおしゃべりして楽しそうにしていると、「仕事をサボっている」「生産性を下げている」と考える管理職もいる。

実際には、逆だ。研究によれば、職場に親友がいる人ほど、仕事に意欲的に取り組んでいる。

とりわけ女性はそうで、職場に親友はいるかという質問に「はい」と答えた女性たちは、仕事に意欲的に取り組む人の割合が2倍になっていた。

就職活動や転職活動をしているとき、給料や福利厚生には注目しても、職場の人間関係を気にすることはあまりない。しかし、職場では、心通い合う人間関係がある種の福利厚生になる。雰囲気のいい職場はストレスが少ないため健康に働けるし、不機嫌になって帰宅する日も減る。つまり、幸福度が高まるのだ。

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