【NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント特別企画】リッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)

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世界屈指のコンペティターが、ラグビーシーズンのクライマックスに挑む。昨秋の『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』で、オールブラックスの10番を背負ったリッチー・モウンガである。

今シーズンから東芝ブレイブルーパス東京のジャージに袖を通すと、タイトルから遠ざかって久しい名門の『NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24プレーオフトーナメント』進出の原動力となった。チームはレギュラーシーズンを14勝1分1敗の2位でフィニッシュし、2シーズンぶりにトップ4による決戦へ挑む。
「プレーオフに進出できたことを、まずはうれしく思っています。最終的なゴールとなるリーグ優勝へ向けて、まず一歩踏み出せることには満足しています」

昨秋の『RWC2023』 終了後、世界的プレーヤーが大挙してリーグワンにやってきた。モウンガはオールブラックスの僚友シャノン・フリゼルとともに、他チームのビッグネームに先駆けて来日した。
「すべての覚悟を持って、このクラブでプレーしたい。このクラブのために自分がやるべきことを、しっかりとやっていきたい」との言葉どおりに、グラウンドの内外でチームにコミットしていった。

バイスキャプテンのHO原田衛は言う。
「リッチーは東芝ブレイブルーパス東京がどういうラグビーをしたいのか、それをするためにどうしたらいいのかを、ハドルなどで発信してくれます。チームがいい方向へ向かっていくような発信をしてくれていますね」

22歳の巨漢LOワーナー・ディアンズは、モウンガとのコミュニケーションから多くの学びを得ている。「すごくいい勉強になっています」と声を弾ませる。
「リッチーが所属していたクルセイダーズやオールブラックスで、こういうアタックを使っていたとか、いつキックを使うとか、試合のコントロールとかゲームマネジメントを学んでいます」

歴戦の勇士リーチマイケルにとっても、モウンガの存在は頼もしい。「リッチーもシャノンも、勝ちたいという意欲に溢れている」と話し、モウンガのゲームマネジメントに触れた。
「こういう相手にはこういう戦いをしたほうがいいとか、蹴るのか、ボールを持つのか、カウンターを仕掛けるのか、といったベーシックな判断が他の選手より優れているのかな、と」

モウンガ自身は「準備」と「経験則」の重要性を説く。
「たとえば、今週末の試合で対戦する相手に対して、チームとしての準備、自分の準備をしっかりとしていく。それから、試合で起こるシチュエーションは、自分にとって初めてではないんですね。前の試合でこういうふうになったなとか、ラグビー人生のどこかで似たようなシチュエーションを絶対に経験しているんです。これまで経験してきたものを、自分の頭の中にしっかりと定着させておく。そういうマインドにしておくことで、周りの選手よりもある程度考える時間を持ってプレーできるのかな、と。それが余裕として見えるのかもしれませんね」

BL東京へ加入する前のモウンガは、ニュージーランドの名門クルセイダーズで『スーパーラグビー』7連覇を達成した。『リーグワン』と同じフォーマットで行なわれたシーズンもあり、一発勝負を勝ち抜くノウハウやナレッジが、その身体には搭載されている。
「何よりもまず、自分たちがどのような戦いかたで勝利を収めるのかということを、しっかりと理解したうえで準備を進めるのが大切でしょう。もうひとつ付け加えれば、プレーオフだから生まれてくる強度やプレッシャーがあるということを理解するのです。その強度とかプレッシャーに押しつぶされるのではなく、進んで立ち向かえるような心の準備が必要です」

『NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント』準決勝は、1位対4位、2位対3位が対戦する。2位のBL東京は『府中ダービー』のライバルでもある東京サンゴリアスと激突する。今シーズンは26対19、36対27と連勝した。
「1位でも2位でも、それこそ4位でも、全チームに勝つチャンスが平等に与えられています。レギュラーシーズンで何勝しているとかいうのはまったく関係なく、1発勝負で勝ったほうが強い。勝ったほうが次へ進める。リーグ戦の順位が下でも一発逆転を狙えるのは素晴らしいチャンスであると同時に、上位チームはレギュラーシーズンの結果をふいにしたくない、というプレッシャーがかかるのでは。どのチームも勝つチャンスがあると信じて臨むでしょうし、かかっているものの大きさはしっかりと認識しているでしょう。レギュラーシーズンの順位と関係なく、まっさらな状態での戦いになるのかなと想像しています」

もうひとつの準決勝は、レギュラーシーズン16戦全勝の埼玉ワイルドナイツが、横浜キヤノンイーグルスを迎え撃つ。BL東京が今シーズン唯一の黒星を喫したのは埼玉WKであり、決勝で対戦することになればリベンジが期待される。

モウンガの瞳に、警戒の色が宿った。諭すように言う。
「いまの段階で自分が埼玉WKについて、決勝戦を見据えて話すのは、率直に言ってしまうと時間の無駄だと感じます。準決勝に勝たない限り、決勝はないのです。自分も含めて選手全員が、準決勝を勝たないとそれ以降は何もないということを理解したうえで、準決勝にすべてを注ぐべきです。もうひとつのカードについては自分たちにコントロールできないので、自分たちの試合に集中していきたい」

そのうえで、埼玉WKの印象を明かした。去年のプレーオフの情報を持っているのは、日々の真摯な取り組みの表われだろう。
「しっかりといいコーチングを受けていて、いろんなポジションにXファクターとなれるような選手が揃っている。高いスタンダードを備えているチームと感じます。だからといって、埼玉WKが優勝すると決まっているわけではない。去年のプレーオフでも、レギュラーシーズン1位の埼玉WKが決勝で負けていますし」

自身の役割は胸に深く刻んでいる。チームを勝利に導くことを誓う。
「ラグビーはチームスポーツで、15人の選手がいるなかで10番はチームに影響を与えられるポジションだと認識しています。小さい頃からラグビーをやってきて、フィールドの中でもっとも結果に影響を与えられる選手でありたいと考えてきました。ボールを持っていても持っていなくても、アタックでもディフェンスでも、そういう選手でありたい。チームにいい影響をもたらして、優勝へ導きたいですね」

パスとキックのスキルが高く、状況判断はつねに適切だ。優れたランナーでもある。9節の埼玉WK戦では、相手のキックを自陣で収めると、そのまま単独で走り切ってトライを決めて見せた。そのプレーは観衆の目を惹きつけて離さない。
「子どもの頃を思い返すと、プロのラグビーを見ながらこういう選手になりたいとか、ある選手の一挙手一投足にワクワクしている自分がいました。ボールを持っている場面はもちろん持っていない場面でも、この選手が次に触ったらどんなことしてくれるんだろう、と胸を躍らせたものです。そういう感覚を、世界中の子どもたちに与えられたら嬉しいですね。子どもたちにインスピレーションを与えるためとか、憧れる存在になるために、プレーしているわけではないんです。自分がチームを勝たせるためのプレーが、結果的にそういうインスプレーションを与えることになったらな、と」

プレシーズンから積み上げてきたものに、自信を深めている。チームの強みを聞くと、間を置かずに答えた。
「チームを思う気持ち、チームメイトを思う気持ちです。ディフェンスなら、相手に抜かれたあとも必死に戻る。アタックなら、誰かが抜け出したらサポートにいく。苦しい時にどれだけ戻れるか、チームのためにできるか。その気持ちから出てくる懸命に戦う姿が、お互いを支えています。チームのために身体を張れることは、私たちの大きな強みになっています」

BL東京加入にあたって、「休暇ではないし、1年だけでもない」と言い切った。「すべての覚悟を持ってプレーする」との思いに揺らぎはなく、モウンガは2009-2010シーズン以来の日本一へ突き進むチームを力強く牽引していく。

取材・文:戸塚啓
撮影:スエイシナオヨシ

<NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメント>
<準決勝(1)>
◆5/18(土)14:05 埼玉ワイルドナイツ(D1:1位) vs 横浜キヤノンイーグルス(D1:4位)
秩父宮ラグビー場
<準決勝(2)>
◆5/19(日)14:05 東芝ブレイブルーパス東京(D1:2位) vs 東京サンゴリアス(D1:3位)
秩父宮ラグビー場
<3位決定戦>
◆5/25(土)12:05
秩父宮ラグビー場
<決勝>
◆5/26(日)15:05
国立競技場

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 プレーオフトーナメントのチケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450622

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