【東京V戦で3−0からの同点劇はなぜ起きたのか。鹿島の歴史的失態を探る(1)】3点差にしてすぐに崩れたワケではないゲームリズム。流れを変えたのは両チームの交代策

試合終了後に悔しそうな表情の鹿島アントラーズの鈴木優磨 撮影:中地拓也

鹿島アントラーズはホームで東京ヴェルディを相手に、3−0のリードから後半アディショナルタイムに追い付かれるまさかの展開で、3−3の引き分けに終わった。同じ勝ち点1でありながら、アウェーゴール裏からの歓声とは対照的に、鹿島のゴール裏からは大ブーイングが響き渡る光景が、この結果の意味を物語っている。

ここまで勝つにせよ、負けるにせよ、引き分けるにせよ、終盤のドラマチックな試合が続いている東京Vの視点とクラブの歴史に類を見ない失態をおかしてしまった鹿島の視点では大きく異なる。3−0からの交代出場で”ゲームチェンジャー”の役割を果たした東京Vの齋藤功佑は「全然いけると思ってましたし、そこからは自分含めて交代で入った選手だったり、ずっと出てる選手もギアアップせず戦えてる感じだったので。失点しなければあるなと感じてました」と振り返る。

「気持ちだけではどうしようもないところはあると思うので、しっかり前半から試合観てましたし、ベンチの選手と話しながら、どうしたらいいかっていう打開策を考えながら、イメージを持って中に入ったときに、周りの選手と共有しながら全員で戦えたことが同点に追いついた理由かなと思います」

■交代がゲームを変えた

そう齋藤が振り返る通り、大前提として東京Vの諦めない戦いぶり抜きに、この同点劇は語れない。それでも鹿島側に大きな問題がなければ起こり得ない結果であることも事実だろう。こうした試合結果について、記者の立場で選手たちの心理を全て読み解くことはできないので、取材から推察していくしかない。ここで判断材料として気になるのは日本代表のMF佐野海舟の言葉だ。

佐野は「3点目を決めた後までは良かったと思いますけど……相手に1点目を決められて、そこは自分のところで緩かったと思うし、気持ちを緩めてるわけではなかったですけど、周りから見ればそう思われても仕方がない」と振り返る。後半5分に名古新太郎のCKからDF植田直通が決めて、3−0としてすぐに鹿島のリズムが崩れた訳ではない。やはり明確にゲームの流れを変えるエッセンスになったのは両チームの交代策だった。

東京Vの城福浩監督は齋藤功佑をトップ下、ドリブル能力の高いチアゴ・アウベスを左サイドに同時投入。システムを4ー4ー2から4ー2ー3ー1に変更した。この意図について城福監督は「フィジカル的なものは鹿島は強いので、相手をより混乱させるものが何かというところで、フィジカル勝負をやめて、より相手を混乱させる選手を置いて、2、3列目から湧き出ていくような形にしたほうがわれわれらしい。鹿島の混乱を招くことができる」と振り返る。

■右のラインを入れ替えたワケ

それに対して鹿島のランコ・ポポヴィッチ監督はすぐに右サイドバックで奮闘していた濃野公人と右サイドハーフの師岡柊生を下げて、須貝英大と藤井智也を投入。右の縦ラインを入れ替えた。その理由についてポポヴィッチ監督は「濃野に関してはイエローカードを3枚もらっています。足に疲れもたまってきていましたし、相手もウチの右サイドにフレッシュな選手を入れる様子を見せたので代えました」と語った。

”イエローカードを3枚”という状況を簡単に説明すると、Jリーグでは累積4枚目で出場停止となる。鹿島はこの試合から中2日で優勝候補の一角にもあげられるサンフレッチェ広島とのアウェーゲームがある。大卒ルーキーながら、開幕戦からスタメンでほぼフル出場を続ける濃野を広島戦で失いたくない、しかも少しでもフレッシュな状態にしたいというマネージメントが、チームの矢印を明確にして逆襲を狙ってくる東京Vとの温度差を生んでしまったことは否めない。

(取材・文/河治良幸)

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