西日本豪雨でアユが消えた川 コケや水辺のヨシが生え、6年かけて“アユが育つ環境”戻る【広島発】

2018年の西日本豪雨によってアユ釣りで親しまれてきた川にも土砂が堆積。元に戻るのか心配された。あれから6年、川はかつての環境を取り戻しつつある。清流の復活を願い、地元の小学生がアユの稚魚を放流した。

西日本豪雨で川の環境が一変

バケツの中から川へ一斉に泳ぎだすアユ。澄んだ水に明るい日差しが降り注ぎ、アユの動きがよく見える。アユが放流されたのは、6年前の西日本豪雨で氾濫し浸水被害をもたらした東広島市河内町の沼田川(ぬたがわ)だ。

2018年7月。三原市本郷町の上空から見下ろす景色は、巨大な川に飲み込まれたようだった。

古くからアユ釣りで親しまれてきた川は、豪雨災害によって環境が大きく一変。当時、沼田川漁業協同組合の後藤政則組合長は「やっぱり寂しい感じがします」と話していた。

川のすぐそばにある漁協も被災し、養殖場のアユは全滅。川の中でも土砂が堆積したことで産卵が行えない状況に陥り、この先「どれほど元に戻るのか」と心配された。

「アユの放流は復興の第一歩」

豪雨で流出した護岸を新たに整備。そして2022年、子どもたちの手によって災害後、初めてアユが放流された。

後藤組合長は「アユの放流は復興の第一歩です。河内町といえばアユなので。早く川が復旧して、もっときれいな川にしたい」と思いを語る。

しかし、この時はまだ川の石に泥が付くほど汚れた状況だった。アユのエサは「コケ」。石のコケが改善されないとアユは大きく育てない。

アユの放流を再開してから2年。テレビ新広島の野川諭生アナウンサーが沼田川を訪れた。
「東広島市を流れる沼田川です。西日本豪雨の後に作られた新しい護岸もだいぶなじんできました。川岸の緑も増えてきたなという印象を受けます」

後藤組合長は、川の浅瀬にある石をなでて言った。
「泥で真っ黒だったが、最近は石の下の泥がとれて、きれいなコケが付くようになりました。ツルツルになっていいコケがついとる」

野川アナも水に手を入れてその感触を確かめる。
「そうですね。ツルツルしていますね」

以前は石の下まで泥でザラザラだったという。西日本豪雨から6年、やっと“いいコケ”が戻ってきた。

一方、水辺にも変化が見られると後藤組合長は話す。
「2023年までは水辺にヨシが生えていなかったが、2024年はヨシが復活してくれてありがたい。ヨシは水をきれいにしてくれるし、大雨で水かさが増えたときにはヨシの下で魚が休める」

6年かけて“アユが育つ環境”戻る

後藤組合長によると、沼田川のアユは通常1カ月で約15cm、2カ月で約25cmに成長するが、西日本豪雨以降のアユはエサがないため20cmくらいまでしか成長しなかった。
しかし、2023年秋に久しぶりに31cmのアユが確認されるなど、アユが大きく育つ環境に戻ってきている。2024年は大いに期待できそうだ。

また、天然のアユの遡上(そじょう)も10匹中2匹ほど交じっているという。この現象からも、後藤組合長は「元の環境に戻っていると考えていいのではないか」と笑顔を見せた。

その沼田川で5月9日、河内小学校の児童64人がアユを放流した。

「いけいけ!ゴーゴーゴー!」
元気に泳ぎだしたアユに向かって、児童がエールを送る。

ーー川がきれいになったと思う?
「きれいになったと思います」
ーーどんな川になってほしい?
「今よりもっと多くのアユが返ってきてほしい」

アユを送り出した児童らはキラキラとした笑顔で口々にそう答えた。かつての姿を取り戻しつつある沼田川に、地域の復興を背負ったアユが力強く泳いでいく。

(テレビ新広島)

© FNNプライムオンライン