Vol.77 「吸血鬼ドローン」の可能性[小林啓倫のドローン最前線]

永久に飛び続けるドローンは可能?

さまざまな用途で利用されるようになったドローンだが、依然としてその活用範囲の拡大を妨げている要因のひとつが、飛行時間の短さだ。特に電力で動く小型UAVの場合、当然ながら搭載できるバッテリーに限界があるため、一般的な機種では20分~40分程度の飛行が上限となっている。

この時間を延ばす試みがさまざまな形で行われており、たとえばドローン自体に電源(太陽光発電装置など)を搭載してしまうというアイデアがある。これは主に軍事分野(上空からの監視能力を強化する狙い)や通信分野(長時間飛行するドローンを「空飛ぶ基地局」にしてしまうというもの)で研究されているもので、2022年にはAirbusが開発したZephyrという機体が、連続64日間飛行という記録を打ち立てている。

しかし太陽光発電装置を搭載するとなると、ある程度の大きさが必要になるため(Zephyrは翼幅が約25メートルとなっている)、小型のUAVではこの方式を採用するのは難しい。そこでバッテリー自体の性能向上や、AIによる省エネ飛行などといったアイデアも試されているが、最近新たな方法が提案され話題を集めている。それはずばり「盗電」だ。

上が実際に開発されたドローンの紹介映像なのだが、電力の送電線を「つかんで」、バッテリーに充電している様子が捉えられている。これは南デンマーク大学の研究者、ニコライ・ハーホイ・マレらが発表したもので、もともとは同大学のエマド・エベイド教授が考案したアイデアとのこと。

このドローンを報じたFast Company誌の記事によれば、エベイド教授は送電線点検用のドローンを研究していた際に(実際にこのドローンが送電線点検を行う様子も動画で公開されている)、ドローンの飛行時間を延ばせないかと思案。ならば目の前にある送電線から電気をいただいてしまえということで、このアイデアを思い付いたそうである。

同誌はこの発想を「吸血鬼ドローン」と称しているのだが、まさにぴったりの愛称と言えるかもしれない。

「吸血鬼」実用化の可能性は?

とはいえ送電線から電力をもらうというのは、「言うは易く行うは難し」を地でいく話だ。

まずは当然ながら、送電線を安全に「つかむ」ことができなければならない。点検用のドローンなのに、送電線に接触して事故を起こしてしまっては本末転倒だ。そこで南デンマーク大学の研究者らは、このドローンを自律飛行可能にし、自動的に送電線をつかむことができるようにした。さらに安全性を考慮して、前掲の動画にある通り、ドローンが送電線の下から接近して「グリッパー」でつかむという方式を採用している。

グリッパーは基本的に絶縁クランプ(電気が通っているケーブルやワイヤーを固定するための道具で、それ自体に電気が流れてしまわないように絶縁されている)で、送電線をつかんでも、ドローン本体に電気が流れないようになっている。またクランプの動作にモーターは使用されておらず、ドローンのソフトウェアによってグリッパーが適切な位置にあることを確認し、電磁石を作動させてグリッパーを閉じる仕組みになっている。充電が完了したら、電流を遮断してグリッパーを開くというわけだ。

その充電も問題で、送電線に流れている高圧電流を、家電に等しいドローンのバッテリーの充電に、そのまま使うことはできない。とはいえ大きな変圧器をドローンに積み込むことも不可能。そこで研究者らは、いわゆる誘導結合(一つの電気回路から別の電気回路に、物理的な接続をせずに電気信号やエネルギーを送る方法)を利用してこの問題を解決した。スマホのワイヤレス充電と同じようなことを、頭上にある送電線とドローンで実現しているわけである。ちなみに充電にかかる時間は、送電線の電圧にもよるが、30分から6時間程度だそうだ。

研究者らはデンマークのHCA空港でこのシステムをテストし、人間が介入することなく、ドローンに計5回の充電・合計で2時間の飛行を成功させたとのこと。技術的な面では、既に実用レベルに達しているわけだ。

しかし「盗電」をする吸血鬼である以上、運用面・法律面での課題も待ち構えている。少数の吸血鬼ドローンであれば、送電線から勝手に電気を吸い上げても問題ないだろうが、大量に運用されるようになれば、それを前提とした電力網の管理が必要になる。また電力会社以外の企業が運用するドローンが、この方式で充電するようになったら、その電気代をどうやって把握・請求するのかという問題も残る。

とはいえドローンの飛行時間を延ばすアイデアのひとつとして、十分に検討に値するものだろう。山奥の送電線にとまって、ひっそりと羽を休める野鳥――ではなく点検用ドローンを目にする日も近いかもしれない。

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