『ベスト・フレンズ・ウェディング』ジュリア・ロバーツとキャメロン・ディアス、90&00年代を代表するラブコメ女王の対決

※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。

『ベスト・フレンズ・ウェディング』あらすじ

料理評論家として活躍するジュリアンは、大学時代の恋人で、別れたあと親友となったマイケルと、28歳になっても独身なら結婚をしようと約束していた。そして28歳の誕生日が間近に迫るなか、ジュリアンのもとにマイケルから電話がかかってきた。だが期待に反し、彼の電話の内容は「今度の日曜日に結婚するから、君に来てほしい」というもの。慌てて結婚式の準備に駆けつけたジュリアンは、マイケルの結婚相手である20歳のキムと対面。未練たっぷりのジュリアンは、結婚式の妨害計画を決意するが……。

ジュリア・ロバーツ主演のラブコメディ


大好きな親友は、結婚を祝福するふりをして、実は密かに妨害を企てていた。親友の結婚式とその破壊計画をコミカルに描いた『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97)は、『プリティ・ウーマン』(90)で大スターの仲間入りを果たしたジュリア・ロバーツの、久々の王道ロマコメ復帰作だった。監督は、トニ・コレット主演の『ミュリエルの結婚』(94)で注目されたオーストラリア出身のP・J・ホーガン。『レインマン』(バリー・レヴィンソン、88)、『ジョイ・ラック・クラブ』(ウェイン・ワン、93)などを手がけたベテランのロナルド・バスが脚本を担当した。

『ベスト・フレンズ・ウェディング』予告

大学時代、一夏の恋を過ごしたあと、ジュリアン(ジュリア・ロバーツ)とマイケル(ダーモット・マローニー)は長年親友関係を続けてきた。何度も一緒に旅行へ行き、相手が困っていたらすぐに駆けつける。もちろん恋愛相談にも乗ってあげる。6年前には、「28歳でお互いに独身だったら結婚をしよう」と約束をした。ところが、もうすぐ28歳になろうというある日、マイケルは知り合って間もない相手と結婚を決めたという。

ショックを受けたジュリアンは、慌ててニューヨークから結婚式が行われるシカゴへと向かう。スポーツライターのマイケルが結婚相手に選んだのは、球団とテレビ局のオーナーを父に持つ大学生キンバリー、通称キム(キャメロン・ディアス)。ジュリアンはここにきてようやく本心に気づく。本当は、自分もずっとマイケルを愛していた。それを、親友という言葉で隠していただけだったのだ。花嫁の付添人を頼まれたジュリアンは、立場を利用して結婚式をぶち壊そうと決意。こうして、元カレ奪還計画が幕を開ける。

対照的な女性ふたりが繰り広げる破茶滅茶な対決


ジュリア・ロバーツが演じるジュリアンは、自立した生き方を貫く27歳の料理評論家。いわゆる「女性らしい」格好が苦手で、グレーやベージュのスーツパンツにヒールなしの靴がトレードマーク。恋愛相手はいても、特定の相手に入れ込まない。大学時代にマイケルと別れたのも、真剣な関係に踏み込むのが怖かったからだ。一方のキムは、富豪の親を持ち、大学で法律を学ぶ20歳の大学生。ブロンドの髪によく似合うパステルカラーのミニスカートや小物を身につけ、元気よくスポーツカーを爆走させる。恋愛には一直線で、結婚後は大学を辞め、旅回りが基本のマイケルについていくことを決めている。

人当たりはいいが、感情を素直に表すのが苦手なジュリアンと、思ったことをすぐに口にするキム。ふたりは、見た目も性格も見事なほどに対極的な女性だ。その事実が、この映画を何より魅力的なものにしている。1990年代を代表するラブコメの女王ジュリア・ロバーツと、本作を機に大きな注目を集め、その後2000年代のラブコメの象徴的存在となったキャメロン・ディアスの対決と和解こそが、映画の主軸になっていくというわけだ。

『ベスト・フレンズ・ウェディング』(c)Photofest / Getty Images

ジュリアンの結婚妨害計画は姑息なものばかり。手始めとばかりに、カラオケが大の苦手だというキムをカラオケバーに連れていき、マイケルの前で無理やり歌わせる。計画通り、キムの壊滅的な歌声に、マイケルは驚き気まずげな表情を浮かべる。だが、他の客に毒づかれようが、笑いものにされようが、震えながら健気に歌い続けるキムのひたむきさに、だんだんと場の雰囲気が変わり始める。最後まで歌い切ったとき、店の客はみな彼女の熱烈なファンになっていた。もちろんマイケルもそのひとり。実際、このシーンを演じたキャメロン・ディアスは人前で歌声を披露することに恐怖を感じていたそうだが、その緊張感が、伝説となる名シーンをつくりだした。

ジュリアンの計画は、天性の明るさをもつキムにはまったく通じないが、一度の失敗で諦める彼女ではない。大学を辞めるキムに同情するふりをして、「マイケルがあなたの父親の会社で働き出せばすべて解決するのに」とそれとなく悪知恵を伝授する。だが、ジュリアンの企みはなかなか実を結ばず、計画遂行のため、彼女はさらに過激な行動をとりはじめる。そうするうち、観客の視線は徐々に変化する。ジュリア・ロバーツを叶わぬ恋に奔走する悲劇のヒロインとしてではなく、いじらしい恋人たちを邪魔する悪役として見るようになっていくのだ。

ラブコメにおける主人公の親友=助言者


実はこの映画の結末には、ある裏話がある。映画の最初のバージョンが完成し関係者による試写を行なったところ、思わぬ反響が起き、慌てた製作陣の提案で別のエンディングを撮り直し、現行の作品となったのだ。当初のバージョンでは、ジュリアンが愛し合う恋人たちの結婚式の妨害を散々企てたあと、最後には自分も新しい恋愛のチャンスを掴むハッピーエンドが予定されていた。しかし、試写を見ていた人々はみな、ジュリアンがあまりに身勝手な妨害を企てるのを見るうち、彼女に共感を抱けなくなり、最後に幸せを掴むことに抵抗を感じてしまったのだ。

仕方なく、P・J・ホーガン監督と脚本家のロナルド・バスは、編集を少し手直しし、エンディングは新たに撮り直すことに。バッドエンドではないが、単純なハッピーエンドとは違うラストに変えたことで、ジュリアンが自分のしたことの重大さをしっかりと反省し、人生を見つめ直すニュアンスが加わった。

『ベスト・フレンズ・ウェディング』(c)Photofest / Getty Images

ラストシーンに加え、新たな編集バージョンで大きな役割を果たすことになるのが、ジュリアンのもうひとりの親友で、ゲイのジョージ(ルパート・エヴェレット)だ。いつも彼女の相談に乗ってあげているジョージは、彼女にせがまれシカゴまでやってきたあげく、あろうことかジュリアンの婚約者の振りをする羽目になる。彼女のはちゃめちゃな振る舞いに呆れたジョージは、「まずは自分の気持ちを素直に打ち明けるべきだ」とまっとうな意見を述べる良識人だが、一方で悪ノリする一面もある。マイケルやキムを相手に嘘の恋愛事情をペラペラ話し、キムの家族が揃ったランチの場では、なんとミュージカル仕立てで自分たちの運命の出会いを語りきかせる始末。

ラブコメ映画の定番ともいえる主人公の親友=助言者としてのジョージの姿は、この映画に大きな光を与えている。ジョージの前でジュリアンが本音を吐き出し、弱気な姿を見せることによって、その身勝手さに反感を抱きそうになった観客たちは、一見強気な彼女もまた自分に自信を持てずにいる女性なのだと知ることができる。何より、理性的でありながらユーモアに溢れたジョージの魅力に、誰もがうっとりとしてしまう。演じたルパート・エヴェレットは、本作で数々の映画賞を受賞した。本人は、1980年代から俳優として活動したが、1989年にゲイであるとカミングアウトしたことがキャリアに少なからず傷をつけたと語っているが、本作への出演によって、オープンリーゲイの俳優として大きな成功をおさめることになった。

数々の名曲を見事に使いこなした音楽映画


ジョージがランチの場で突然歌い出す場面は、映画史に残る名ミュージカルシーンだ。「僕と彼女と初めて出会ったのは精神科病棟だった」と話し始め、自分をディオンヌ・ワーウィックだと信じる入院患者の話へと発展するジョージに、ジュリアンを除き、その場にいた全員が夢中で聞き入ってしまう。やがて、ジュリアンに一目惚れしたくだりを話していたジョージは、「僕はディオンヌ(と名乗る女性)に聞いたんだ。あそこにいる彼女は、僕の愛に応えてくれるだろうかと。するとディオンヌは……」と言葉を止める。しばしの沈黙に「それで?」と思わず続きを促した次の瞬間、彼の口からは歌の一節が流れ出す。

歌うのはディオンヌ・ワーウィックが歌い有名になった「I Say a Little Prayer(小さな願い)」。ジョージの素晴らしい歌声に誰もが魅了され、やがてテーブルにいる人々が一人また一人と歌いだす。手拍子が生まれ、最後にはレストランにいる全員の合唱へと発展する。ミュージカルとはこんなふうに撮るのだ、という見本のような場面だ。

「I Say a Little Prayer」シーン動画

他にも、冒頭の「Wishin' and Hopin'」からキムがカラオケで歌う「I Just Don't Know What To Do With Myself」まで、本作には、往年の名曲が見事に使用されている。なかでも忘れられないのは、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが共演した『有頂天時代』(36)で印象的に使われた「The Way You Look Tonight」。

ジョージとの婚約は嘘だった、と告白した後、ジュリアンはマイケルとふたりだけで川での観光船ツアーに参加する。ジョージとの婚約話に嫉妬を感じずにいられなかったと告白したマイケルは、実はキムとの結婚に不安も感じているんだと告白する。やがて船が橋の下に近づくと、降り注いでいた陽光が遮られ、ふたりの顔が影の中へと隠れてしまう。暗闇の力を借りてジュリアンが口を開こうとしたそのとき、船は橋の下を抜け、真っ白な光が降り注ぐ。ハッとするほど美しい光のなかで、彼女は再び口を閉ざしてしまう。「キムは言うんだ。愛していると思ったらすぐに言えって。迷っていたら、時間はあっという間に過ぎ去るから」。マイケルがキムに言われた言葉が、この一瞬の光の移動と重なり合う。

出会いから結婚までが早すぎて、僕らには思い出の曲すらない、というマイケルは、ジュリアンとの思い出の曲「The Way You Look Tonight」を口ずさむ。そうして船の上で、ふたりはダンスをする。この美しい曲は、映画のラストで、再び名場面をつくることになる。

エンディングの変更がもたらした奇跡


今の視点でこの映画を見ると、いろいろと気になる箇所がないわけではない。たとえばキムとマイケルの結婚生活。ジュリアンの妨害がひど過ぎて思わずふたりを応援したくはなるものの、果たして彼らの結婚生活が幸せなものになるのかは怪しいところだ。せっかく優秀な成績を収めていたのに、年上の男性との結婚のために大学を辞めるという20歳のキムの選択には、思わず「本当にそれでいいの?」と問いただしたくなる。もちろんキム自身がそれを望んでいるなら何も問題はないが、実際には彼女自身、本当はシカゴで勉強を続け建築家になりたい、と考えていることが明らかにされるのだ。それなのに、「仕事よりも彼との愛が大事だから」と健気に言うキムと、その言葉に感動し「彼女こそ運命の人だ」と確信するマイケルの結婚生活は、果たして10年後、20年後も安泰なのだろうか?

『ベスト・フレンズ・ウェディング』(c)Photofest / Getty Images

そうしたつっこみたい箇所はいろいろあるものの、ふたりの魅力的な女性たちの姿を通して、愛しあう者たちの滑稽さと美しさをたっぷりと見せてくれる本作は、やはり最良のラブコメ映画の一本だ。何より、この映画は時間のもつ残酷さを教えてくれる。ジュリアンがマイケルを失ったのは、キムという若く魅力的な女性が現れたからではない。プライドに縛られ、自分の気持ちを正直に伝えられなかったから、彼女は愛する人を失ってしまったのだ。キムが言うように、本当に望むものは、思った瞬間に口にしなければ手に入らない。迷っていたら、時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。

製作陣の意向で急遽変更となったラストシーンは、当時のラブコメ映画には珍しい、現代的なテーマを私たちに投げかけてくれる。本当にあなたを幸せにしてくれるのは、恋愛の相手だけとは限らない。恋愛や結婚、セックスとは違う、深い友情があなたを一番幸せにしてくれるかもしれない。そう呼びかける『ベスト・フレンズ・ウェディング』は、公開から四半世紀経った今も、古びることなく、私たちを魅了するだろう。

文:月永理絵

映画ライター、編集者。雑誌『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』『i-D JAPAN』等で映画評やコラム、取材記事を執筆。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、映画パンフレットの編集も手がける。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」でMCを担当中。 eigasakaba.net

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