豪美術館の女性専用展示室、「女性トイレ」に転換し男性排除を維持へ 入場認めた一審判決は上訴

オーストラリア・タスマニア州で女性しか入場できない展示室を設置している美術館がこのほど、差別禁止法に基づき男性の入場を認めるよう命じた裁判所の先月の判決を不服として上訴した。同時に、展示室を女性トイレに転換して、引き続き男性を入場させない計画を明らかにした。

タスマニア州にある美術館「ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー・アート(MONA)」は、男性の入場を禁止する「レディース・ラウンジ」を2020年に設置した。

ベルベット生地で囲まれたこのラウンジには、ピカソやシドニー・ノーランの作品などMONAで最も評価の高い収蔵品のいくつかが展示されている。

狙いは、歴史的なミソジニー(女性嫌悪)を強調することにある。オーストラリアでは1965年まで、パブで女性がほぼ排除されていた。そのコンセプトを逆手に取ったのがこのラウンジで、男性には入り口で入場を断る一方、女性客にはシャンパンと最高級のサービスを提供してきた。

昨年4月、ここをニューサウスウェールズ州在住のジェイソン・ラウ氏が訪れた。入場を断られた同氏は、性差別だとして美術館を提訴。裁判では代理人をつけず自ら、MONAが州の差別禁止法に違反し、自分や女性を自認しない入場者らに「法律に基づく公正なモノやサービスの提供」を怠ったと主張した。

裁判所は4月9日、美術館の主張は不当として男性の入場を認めるよう命じた。

「あまりに狭い見方」と上訴

これを受けMONAは、今月7日に上訴した。

一審判決について、「女性が歴史的に受けてきた、そして現在も続いている社会的不利についてあまりにも狭い見方」をしていると主張。「レディース・ラウンジ」がどのように「機会均等を促進する」ことができるのか訴えた。

作品として「レディース・ラウンジ」を制作したアーティストのキルシャ・カシェラ氏は、このラウンジを規則に「準拠」させることで判決に異議を申し立てるとしている。

「レディース・ラウンジ」は裁判所の命令が出されて以来、一般公開が停止されている。

ラウンジを女性用トイレと教会に転換

カシェラ氏の計画には、ベルベット生地で囲まれたこのラウンジを女性用トイレと教会に転換することなどが含まれる。こうすることで、法的な適用除外のもとで、女性専用スペースとして運営を続けることが認められると、同氏は主張している。

「レディース・ラウンジには素晴らしいトイレが設置される。そういった意味で、レディース・ラウンジは女性用トイレとして運営されることになる」

「これは世界中で称賛されている、最高のトイレだ。男性がそれを見ることは許されない」と、カシェラ氏はオーストラリアの複数メディアで語った。

カシェラ氏が「レディース・ラウンジ」を転換させる間は、ピカソの作品など重要な作品の一部は美術館の既存の女性用トイレに移し、「中断されることのない鑑賞」を確保するという。

また、新たなスペースには毎週日曜日のみ、アイロンがけや洗濯物のたたみ方を学ぶ目的で、男性の入場が認められるという。

「女性は洗濯した衣類を持ち込むことができ、男性は一連の優雅な動き(チベット仏教高僧リンポチェによって考案され、太極拳の達人によって洗練された)でその衣類をたたむことができる」と、カシェラ氏はMONAが7日に掲載したインタビューの中で語った。

ラウ氏の提訴については、「災い転じて福となす」とカシェラ氏は話した。

「判決のおかげで、私たちは精神的にも教育的にも、(中略)魅力的で新しい可能性を発見し、より良くなるために、あらゆる種類の豊かな経験に目を向けるほかないのだから」

カシェラ氏は以前、BBCに対し、大きな損失を被りかねないこの裁判のおかげで、自分のアートワークに命が吹き込まれたような気がすると述べ、必要であれば最高裁まで争うつもりであることを示唆していた。

(英語記事 Women-only exhibit to become a toilet to keep men out

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