【東京V戦で3−0からの同点劇はなぜ起きたのか。鹿島の歴史的失態を探る(2)】安西と佐野の言葉が意味するもの。この結果がシーズンで何を意味するかは自分たち次第

試合終了後に悔しそうな表情の鹿島アントラーズの安西幸輝 撮影:中地拓也

3−0から戦術的にも精神的にも、明確にチーム一丸の戦いを見せる東京ヴェルディ、逆に相手のシステム変更、選手変更の対応も含めて、付け入る隙を与えてしまった鹿島アントラーズ。それはまさしく交代で入った齋藤功佑の得点に表れた。

現象を紐解くと、左でドリブルを仕掛けるチアゴ・アウベスに対して、鹿島は須貝英大と藤井智也がダブルチームのような形で止めに行くが、中にボールを入れられてしまう。この時に右ボランチの佐野海舟は大きく開いた右サイドバックとセンターバック植田直通の間のスペースを埋めるために、ポジションを落としていた。

そこでライン間に侵入してきた森田晃樹に受けられてしまうが、ボールが付かずに中央へ流れる。しかし、これを処理に行った知念慶がコントロールをミスしたところを森田に奪い返されてしまい、ペナルティアークでパスを受けた齋藤が佐野のチェックを外して左足を振り抜くと、GK早川友基の反応を破ってゴール右に吸い込まれた。

佐野は「もちろんサイドバックのカバーはしないといけないとは思いますけど、それに引っ張られすぎて、結局、大事なゴール前を空けてしまうシーンが多かった」と振り返るが、この失点後、鹿島も中盤を3ハーフ気味に形を変えることで、応急措置を施している。

ただ、それに応じてどこを限定して、どこにボールの奪いどころを作っていくのか。ボールを奪ったらどう攻めながら時間を進めていくのか。そうした従来の鹿島なら当たり前のようにあった全体のビジョンを合わせるところが、この時は曖昧だったように映る。

■安西幸輝の指摘

守備の要である植田直通は「1失点してから自分たちが後ろに重くなって、かなり押し込まれる時間帯が増えたっていうのも、失点の確率を上げた原因かなと自分も思ってる」と振り返るが、はっきりと守備を固めてしまうならそれも1つのやり方であるし、相手の勢いに向き合ってラインを上げていくという戦い方もある。そこに絶対の正解はないが、こうした状況で一番問題なのはチームの意識が揃わないことだ。

そこから2つの失点シーンを振り返ると、1つ目は鹿島側からのロングボールのセカンドを拾われたところから、東京Vの前線のスピードを生かしたカウンターに対して、リスクマネージメントがズレてしまった結果だ。後半アディショナルタイムの同点ゴールは危険な位置でFKを与えたところから、谷口栄斗にヘッドでフリックされて、ボールウォッチャーになったチャヴリッチがFW木村勇大に合わされたところから、最後はMF見木友哉に押し込まれた。

そうした1つ1つの対応で、狙い所の明確な東京Vと統率感を欠いた鹿島の差が結果になって表れた形だが、ここに関しては「途中交代の選手がアピールなしにして、チームのために戦わないといけないし、難しいのは分かってますけど、もうちょっと試合展開を楽にできたのかなと思います」という安西幸輝の指摘が真相を物語っているように思う。

■「どうやって勝ち点3を持って帰るか」

就任1年目で、メンバーを固定的に戦ってきたポポヴィッチ監督のマネージメントが、ここからサンフレチェ広島、ヴィッセル神戸と上位争いに直結しそうな相手との連戦を前に、連携面、心理面の両方で東京Vの反撃を許す隙を与えてしまった。

安西は「やっぱりゲームをクローズするべきだと思います。あそこで自分のプレーに走るんじゃなくて、チームとしてどうやって勝ち点3を持って帰るかを意識して、これからもやっていかないと同じことの繰り返し」と語る。

後々、振り返った時に、このゲームがタイトルを逃すシーズンを象徴する現象として語られるのか、チームが良い方に変わる転機として語られるのかは今後にかかっている。中盤の主力として、さらなるリーダーシップの必要性を自覚する佐野は「今日の試合は勝たないといけなかったと思いますし、勝っていれば首位に近づく大事な試合だったと思いますけど、すぐ試合はくるので。しっかりチーム内で修正して、この負け……引き分けでうまく行かなかった次の試合が大事だと思います」と前を向いた。

(取材・文/河治良幸)

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