3連単91万超の大波乱を演出したテンハッピーローズ。陣営の忍耐・努力の積み重ねにあっぱれ! 一方、“現4歳世代”の脆弱さが浮き彫りに…【ヴィクトリアマイル】

5月12日に春の古馬マイル女王決定戦・ヴィクトリアマイル(GⅠ、芝1600m)が東京競馬場で行なわれ、単勝オッズ208.6倍の14番人気テンハッピーローズ(牝6歳/栗東・高柳大輔厩舎)が、まさかのGⅠ初優勝。4番人気のフィアスプライド(牝6歳/美浦・国枝栄厩舎)が2着、1番人気のマスクトディーヴァ(牝4歳/栗東・辻野泰之厩舎)が3着に入り、3連単は91万6640円という大波乱になった。

なお、2番人気のナミュール(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)は末の伸びを欠いて8着に、3番人気のウンブライル(牝4歳/美浦・木村哲也厩舎)は本来の行きっぷりが見られず6着に敗れ、上位人気馬が軒並み不発に終わった。
直線の半ばで繰り広げられる叩き合いを見て、目を疑ったファンが多かったのではないか。筆者も、もちろんそのひとりだ。後方であえぐナミュールらをよそに馬群から抜け出してきたのは、なんと14番人気のテンハッピーローズ。重賞勝ちもない穴馬とは思えない力強いフットワークで先頭に躍り出ると、さらに後続を突き放し、粘るフィアスプライドに1馬身1/4差をつけて圧勝したのだ。

デビュー19年目にして初のGⅠ制覇を成し遂げた津村明秀騎手さえも先頭に立った際、「ワケが分からなかった」というほどの激走。波乱の決着に競馬場は騒然とした。

本馬は今年に入ってから、京都牝馬ステークス(GⅢ、京都・芝1400m)で0秒3差の7着、阪神牝馬ステークス(GⅡ、阪神・芝1600m)も0秒4差の6着と、勝ち負けには加われない完敗が連続していた。実績で他に見劣るのはもちろん、馬齢も6歳とあっては伸びしろに期待するのも無理筋というもの。データ面から強調材料を探せば、東京での成績が〔1・2・2・1〕と、コース実績が優れているという点ぐらいだった。

テンハッピーローズを管理する高柳調教師は、「嬉しいのひと言。長い年月をかけて馬に教えていくという形で、1600mという距離に向けて調教を進めてきたのが実を結んだのだと思います」と喜びを表した。

殊勲の津村騎手は、「最後の直線は無我夢中で必死に追いましたが、直線がとても長く感じました」と本音を告白。「左回りが良いことは分かっていましたから末脚を信じて、4コーナーを上手くいってくれたらと思っていましたが、最高の形で直線に向けました。人気はありませんでしたが、チャンスはあると思っていました」ともコメント。また、「GⅠレースはもう勝てないかもと、ここまで長くて長くて。でも諦めてはいけないと、GⅠに乗れるように朝から最終レースまで頑張ってきました」と、ようやく掴んだビッグタイトルに対する万感の思いを吐露した。 筆者は今回のテンハッピーローズの勝利を見て思い出した言葉がある。それは、JRA通算2943勝を誇る名手・岡部幸雄氏が口にした「馬は順調にいっていれば、いつかチャンスは巡ってくる」というものだ。6歳の春までの長い年月を我慢に我慢を重ねて、本馬を育ててきたスタッフの努力の積み重ね、忍耐に拍手を送りたい。

1000mの通過ラップが56秒8という超ハイペースを3番手で追走しながら2着に粘り込んだフィアスプライドの頑張りは流石と言える。牡牝混合の重賞で揉まれてきた地力が、GⅠの舞台で活きた印象だ。

1番人気を裏切ったマスクトディーヴァは、道中で馬体をぶつけられたり、進路をカットされたりと、スムーズさに欠けたのは不運だった。能力の高さは揺るがないが、残念ながらそうした不利を跳ね返すほどのポテンシャルはなかったという評価を下さざるを得ないのは仕方のないところだろう。
さて、大きな注目を集めたナミュールだが、今回手綱を取った武豊騎手は「初めて乗ったので比較はできませんが、最後に追い出しても切れる脚を使えず、最後までジリジリという感じでした。この馬本来の決め手が出ませんでした。残念です」とコメント。直線へ向いた時点では13番手で、伸びてはいるものの8着まで差を詰めるのがやっと。後方から豪快にごぼう抜きした昨秋のマイルチャンピオンシップ(GⅠ)のような切れ味は鳴りを潜めた。

同馬は3月末のドバイ遠征から帰国し、着地検疫を済ませてトレセンへ帰厩したのがレースの10日前という慌ただしいスケジュールで臨んだわけだが、調教で普段と変わらない動きを見せてはいたが、中身が伴っていなかったのかもしれない。

プレビュー記事で推したハーパー(牝4歳/栗東・友道康夫厩舎)は直線に入ったところで反応がなかったため、最後は流して入線。最下位(15着)に甘んじた。詳細は分かりかねるが、気持ちが切れた印象で、メンタルの弱点を露呈したように感じた。

結果的にマスクトディーヴァが3着に入ったものの、4歳馬は押し並べて凡走。上位2頭が6歳馬だったように、ベテランの優勢に終わった今回を見ても、「現4歳世代は弱い」という見方は牝馬戦線に及んでいくかもしれない。

取材・文●三好達彦

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