「まるでホテルみたい…」病室はすべて個室 生まれ変わった仙台厚生病院 入院患者117人の引っ越しの舞台裏に密着

仙台厚生病院が移転し、新病院での外来診療が始まった。新病院は明るく開放的な内装に加え、全病室が個室となり、従来の病院のイメージとは一線を画すつくりとなっている。外来診療開始に先立って行われたのが、重症患者を含む入院患者117人の大規模な引っ越し。関わったスタッフは総勢279人、ゴールデンウイークの最中に1日がかりで行われたその舞台裏に密着した。

409室全て個室 屋上にはヘリポート

移転した仙台厚生病院で、5月7日、外来診療が始まった。新病院は地上9階建てで、外来の診察室の数は23から39に増えた。

院内は天井が高く緑もある明るく広々とした空間で、病院独特の緊張感を少しでも和らげてくれそうな印象だ。

409ある病床は全て個室。その半数は、差額のベッド代がかからずこれまでの大部屋の費用と変わらない。加えて屋上にはヘリポートが新設され、手術開始までの時間が大幅に短縮されることで患者の救命率向上につながることが期待される。

仙台厚生病院の目黒泰一郎理事長は「心臓血管・呼吸器・消化器の三領域に医療資源を集中して、地域医療に貢献する。」と新病院の抱負を語った。

神経を使う重症患者の移送

新病棟の外来診療開始が始まる一週間ほど前、大量の荷物が置かれた旧病院の会議室の一画では、翌日に控えた引っ越しの最後の話し合いが行われていた。最大のミッションは、入院患者117人全員を何事もなく無事、新病院に移すこと。中でも、最も神経を使うのが、ICU=集中治療室に入院している重症患者だ。
仙台厚生病院は循環器内科や心臓血管外科といった診療科があって、重症患者が多く、リスクも伴う。1月ごろから、専門のワーキンググループを立ち上げ、業務の合間を縫って計画の策定を進めてきた。計画通りに進めれば、安全に引っ越しできることは確認しているが、全スタッフにとってこれほど大規模な患者移送は初めての経験。万が一の事態も考え、医療機器の半分ほどを最新のものに更新するなど、万全を期して引っ越しに備えてきた。

総勢279人であたる分刻みの引っ越し

引っ越し当日。病院の前には患者を運ぶための救急車や福祉車両など合わせて15台が並んだ。重症患者、一般病棟の歩けない患者、自分で歩ける患者、それぞれを同時並行で新病院に運ぶ計画だ。病院側のスタッフは総勢279人。送り出す側と新病院で受ける側、分刻みで計画されたスケジュール通りに患者を運ぶため、全員がそれぞれの持ち場で最終確認を行う。目黒理事長が「患者さんの安全第一に急がず焦らず粛々と作業を。患者さんも広くて綺麗な新病院に行くと元気が出ると思うので、それを想像しながら頑張って。」とスタッフを激励する。

距離約1.6キロ 10分弱の移動距離に7時間

午前9時。山内淳一郎院長の号令で、患者117人の大移動が始まった。重症の患者は酸素の吸入や点滴など医療機器をつけたまま、細心の注意を払って移動する。一人の重症患者に対して、対応するスタッフは10人ほど。ベッドから救急用のストレッチャーへの移動も声をかけながら手際よく進めていく。

移動は、旧病院がある仙台市青葉区広瀬町から新病院がある堤通雨宮町までの約1.6キロ。車で10分弱の距離だが、慎重に慎重を重ね、全員の移動には約7時間が見込まれていた。

「患者が運ばれて来ない」現場に走る緊張

順調に引っ越しが進む中、玄関付近にいたスタッフらが慌てた様子に。予定時間を過ぎても患者が運ばれてこないのだ。院長が様子を見に行こうとエレベーターに乗ったその時。
「あっ、来た来た!」
隣のエレベーターから患者が下ろされてきた。無線の不調で連絡が滞ったことが原因と分かったが、わずかな情報伝達のミスも大事に繋がりかねないため、現場には緊張が走った。

あと数日で退院の患者も「もうちょっと居たい」

歩ける患者はマイクロバスで移動だ。内臓の病気で手術をし、4月から入院している大井富雄さん(75)。「まるっきり新しい病棟なので、わくわく感が一番。」と、新病院への期待感を話した。

出発から10分弱で到着。大井さんも、「もうエントランスなんかホテルだよね。」と、新たな病院に驚いた様子。早ければあと数日で退院ですが「とにかく便利。もうちょっと居たいような…。」と思わず本音を漏らした。

病院移転の最大ミッションを完了

午後3時過ぎ。最後の患者が新しい病棟に入り、引っ越しが無事完了した。開始から6時間余り、予定より1時間ほど早い終了となった。

「とりあえずホッとした。職員がとても一生懸命やってくれて力を発揮してくれたと思う。」(仙台厚生病院 山内淳一郎院長)
病院移転の最大のミッションを無事に終え、新たな病院での日々が始まった。
(仙台放送)

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