【対談】北(ルサンチマン)×オサキアユ(さよならポエジー)「“ロックとは”みたいな指標があって、ルサンチマンはそれにぴったりなんですよね」

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ニューシングル『Our Tour, Your Home』を引っ提げて、前半はポップ曲のみ、後半はインスト曲のみを演奏し、ファイナルのワンマンではその両方を織り交ぜたセットリストを披露する――というコンセプチュアルなツアー「TOUR→HOMEツアー」を5月30日から開催するルサンチマン。そのフロントマン・北(Vo/Gt)のたっての希望で実現したのがこの対談だ。

対談相手として登場してもらうのは、3年ぶりとなったアルバム『SUNG LEGACY』を引っ提げ、現在リリースツアー「NO」真っ只中のさよならポエジーのギター・ボーカル、オサキアユ。北は中学生のときにさよならポエジーの音楽に出会い、憧れ、2021年に初めてツーマンを行って以降たびたび対バンを重ねる中でオサキとの親交を深めてきた。今月にはさよならポエジーのツアー、九州3公演での対バンも控える中で行われた以下の対話。バンドマンとしての根本的な姿勢や思想の部分で通底する両者によるリスペクトと愛が飛び交う熱いテキストとなった。

――さよならポエジーのツアー、3カ所でルサンチマンが出演するわけですが、北さんがさよならポエジーをめちゃくちゃ尊敬しているということで、今回の対談が実現しました。

緊張します(笑)。

――2組は結構対バンもやってますよね。

オサキ もうツーマンもやり尽くして。

初めましてが東京でのルサンチマンの企画だったんです。

――2021年9月に開催された「2021」というツーマンライブですね。

オサキ ギャラがよかったんで出ただけなんですけど(笑)。そこからなんかちょいちょいね。なんか周りに、さよならポエジーとルサンチマンは相性がいいと思ってる人がおるって感じやね。

――そもそも北さんはバンドを結成した当初から、さよならポエジーのことはリスナーとして知っていたわけですよね。

バンド結成前からですね。最初に知ったのは中3の時。受験が終わって地元の友達とコピーバンドをやってた時に、バンドに詳しい友達がかっこいいバンドがいるって言って、いろいろ教えてくれたんです。KOTORIとか時速36kmとかCRYAMYとか。さよならポエジーもそのときに教えてもらったんです。「二月の中を」のMVを観て、「こんな渋かっこいいバンドがいるんだ」って。

さよならポエジー「二月の中を」MV

オサキ バリ若いな。そういうインディーな音楽って、だんだん掘り下げていくうちに出会う音楽な気がするけど。

その友達がめちゃくちゃ早かったんです。僕も当時は「いいな」と思ったんですけど、今ほど魅力に気づけてなかった。

オサキ いい友達やね。

で、そこからバンドを組んで。その頃はさよならポエジーも活動が落ち着いている時期だったんですけど、高校生活を終え、なんとなく自分たちの音楽性も形成されてきたときに高校卒業して初めてぐらいの企画をやることになって、「さよならポエジーが復活してるじゃん」って思ったんです。「pupa」のMVが出たのを観て「うわ、そういえばさよならポエジーっていうかっこいいバンドがいたわ」みたいな感じでオファーさせてもらったら、ギャラがいいからって言って出てくれた(笑)。

オサキ まあ、こっちからしたら知らないバンドなんで。でも、ちゃんとしてんなあと思って。金が全部ってわけじゃないんですけど、なんか「出てみよう」って思ったんですよね。それはもう言葉で説明できないんですけど。

――じゃあ、それまでまったくルサンチマンっていうバンドのことは知らなかった?

オサキ オファーもらっても調べもしなかった。

下北沢SHELTERでさよならポエジーがライブするときに、挨拶をかねて、ドラムのもぎとふたりで観に行ったんです。そしたら物販に立ってらっしゃったんで、「今度対バンさせてもらいます」って言ったんですけど、「何も調べないで行くから、よろしく」みたいな。

オサキ 言ったやろうな。それは別にルサンチマンに限らずそうなんで。

僕もそのとき初めてさよならポエジーのライブを観たんですよ。それでなんてトレブリーなんだって思いました(笑)。こんなに高音域出してもかっこよくなるんだって思った記憶がありますね。そこはびっくりした。結構ライブと音源のギャップを感じましたね。

――初めて対バンをした時はどんな感じだったんですか?

さよならポエジーは当然よかったですけど、自分たち的にも、結構その当時としてはフルパワーのライブをやって、そこそこいい出来だったかなって思ってたんです。だけどアユくんからは「良かった!」的な感想は言ってもらえなくて。むしろ「音像独特やな」的なニュアンスの意見だけもらって、「あれ? 案外しっくりこなかったのかな」っていう。「ちょっと音うるさいな」みたいな感じだったし……。

オサキ 「音よくなかった」って言ってた? 20歳のバンドに「音よくない」とか言うやつ、マジゴミっすよね(笑)。

でもそれがちょっと、慢心しない要因になったというか。

オサキ でも最初の時、もぎのドラムはすごいなって思ったんですよね。視覚的にもいいし、リズム感的にもすごい好きだし、「すっごいドラマーがおるな」っていう印象でしたね。俺からしたら、それが1個のフックというか。ボーカルだけが引っ張っていく系のバンドじゃないなっていうのはライブ観てわかったんで。その発見だけでも充分興奮できたというか。

で、その後神戸BLUEPORTでライブをやった時に観に来てくれたんですよ。

オサキ ああ。さよならポエジーがホームとしているライブハウスなんですけど、そこにルサンチマンが来たんですよ。ルサンチマン以外にも知り合いのバンドはいたんですけど、その時のルサンチマンが結構レベチですごいなって思っちゃって。バンドの印象変わるぐらいっていうか、WWWは大きくて余裕がある感じだったんですけど、BLUEPORTってすごい近くて、ステージも小さいし、柵もないんです。そういうサイズ感の小箱で観た時のルサンチマンがすっごくて。「小箱でかっこいいバンドなんや」っていう認識になった。「こっちのバンドやん」って。それを観て、「たぶんこれは自分にとってかけがえのないバンドになるな」って確信した。

WWWで、そんなに刺さらなかったのも含めて、めちゃくちゃそこから変わったんですよ。すごいターニングポイントになった。単純に2022年は100本くらいライブやってたし、だから意識の違いというよりも先にどんどんフィジカルが成長してたという感覚はあったんです。BLUEPORTで観てもらった時も、4日か5日連続の最終日くらいの感じだったんですよね。だからたぶん声とかガッサガサだったと思うんです。僕も喋りたくなくて、お客さんとかに寄り添ってる余裕すらなかったみたいな感じのところに、因縁のオサキアユが来た、っていう(笑)。でもそれが逆によくて。「もうやるしかねえわ」くらいの感じでやったのがいいってずっと言ってくれてます。

――WWWでやったことによって得たものとか、そこから自分たちの成長の糧にしていった部分も結構ありますか?

ありますね。和気あいあいとライブをやるスタンスがまったく自分たちに合ってないことを、そこで確信したというか。さよならポエジーみたいなスタンスのバンドに自分はなりたかったんだなって。方向性がそこで定まった。

――2021年に初めてツーマンをやってから3年ぐらい経つわけじゃないですか。その間にルサンチマンもライブをたくさんやり、作品も出し、バンドとして進化してきた。その中でさよならポエジーという存在は憧れの対象みたいなところから変わってきてますか?

いや、憧れはあるんですよね。

オサキ でももうそこまで遠くない存在にはなったもんな。

そうですね。LINEとかも、完全にではないですけど、あんまり緊張しないでできるようになった(笑)。最初は緊張したんですけど。たぶんちょっと圧をかけてると思うんですよね、LINEで。無意識かもしれないですけど、言葉遣いとかが結構厳かなんですよ。

オサキ それも脳内フィルターですよ。そんな、LINEで圧かけるとかないじゃないですか。

圧じゃないですけど、すごい威厳を感じるんですよ。

オサキ でも俺、結構可愛いスタンプとか使ってるけど。

僕に対してはスタンプ1個も使ってないですよ。だから怖かったですよ、最初にLINEした時とか。でも会って喋ってると、意外と――普通とは思わないですけど、近くだなって思いますね。

オサキ 普通になりてぇ。

――歌詞とか楽曲の部分で影響を受けてるなってことはあるんですか?

対バンしてから、2022年くらいにできた曲は結構ガッツリ影響を受けちゃったなって思うんです。でも影響を受けすぎちゃってもやっぱりダメだなって思って。ジェネリックさよならポエジーみたいな感じになっちゃうのもよくないし。やっと新しいアルバムで自分たちらしさを確立できた感じがあって。

オサキ すごく多感な時期だと思うんですよ。まだ20代前半とか、最近20歳になりましたぐらいの時期。自分もそうやったし、僕にも憧れた先輩とか先人がいて、同じようにすごく影響を受けてしまうというか、感化され続けてしまうんですけど、その影響みたいなものからどう迂回して作品や自分を作り上げていくかっていうことを、僕はオリジナリティって呼んでるんですよ。生まれた時から独特な雰囲気を持ってる人もいるけど、俺とか、今の北の話もそうですけど、好きな人の影響を受けてその体温とかをどう迂回して自分のフィルターを通してアウトプットするかっていう道筋がオリジナリティだと思ってるんで、今の話はマジで正しくて。バンドマンとして真っ当な成長の道を歩んでいると思います。

――最新曲の「ここにいた才能」なんか、まさにその迂回の軌跡みたいなものがすごく滲んでる感じがしますよね。

自分の中では、今のところ世に出ているものだと最高傑作ができたなっていう気持ちがあります。わりと自信をもってアユくんにも送れた。

オサキ うん、インストの方がよかったです(笑)。音がよくて、さよならポエジーでも共有しました。インストで勝てるっていうのはルサンチマンの武器ですから。

――今度のツアー「TOUR→HOMEツアー」では、インストだけの日とかもあったりしますしね。

オサキ あんなもん、最高じゃないですか。こいつら最高やなって思いますよ。今回は事前に提示してたけどさ、突拍子もなくそういうことやる時もあったやろ。

昔はありました。

オサキ そういうのをどっかで知ったタイミングで、「こいつらめちゃくちゃやりよるんだ」っていうのが、本当にかっこいいなって思いましたね。「荻窪」を6回くらいやったっていうのなかった?

ルサンチマン「荻窪」MV

そういう時期もありました。

オサキ 嘘やと思ってたけど、ほんまにやったんや。

正しくは「荻窪」を5回やって、アンコールでもう1回やった。それで嫌いになったっていう人も2、3人SNSで見ました。

オサキ それは「どうぞ」って感じやろ? 「俺たちが5回やりたかったんやから」っていう。

同じ曲を6回やってるからややこしいけど、同じことをやり続けるのって苦痛じゃないですか。2日間のイベントで両日出演だったんですけど、「曲かぶりNGでお願いします」って言われたんですよ。「じゃあ同じ曲を1日何回もやるのはOKですか?」って聞いたら、「よくわかんないですけど、いいです」ってなったので。だから1日目は普通のセットリストやって、2日目は「荻窪」しかやらないっていう。

オサキ だから30分で聴けたの1曲だけってことですよね。それでいけるのはやっぱりすごいヤツやと。どこかでブレーキはかかるし、そんなの絵空事というか机上の空論やないですか。あれができるかできないかでわかれますよ。人間の仕組みというか。すごいあっぱれでした。そういう痛快なのをこっそりやってるのも僕は好きなんですけど、だからルサンチマンは大好きなんですよ。真剣だから面白い。

――北さん、さよならポエジーのニューアルバム『SUNG LEGACY』はどうでした?

いや、もう最高ですよね。もう言うことないぐらいに。「絶滅の途中で」っていう曲が、結構人柄を体現してるような歌詞だなって思って歌詞を書き起こしたんです。で、名古屋で会った時に「これ書き起こしたんですけど合ってますか」って言ったら――

オサキ 全然違った。

めっちゃ間違えた、変な言葉遊びみたいなの入れちゃって。「それ全然違うだろ」って言われて、めっちゃ恥ずかしかった(笑)。

オサキ そこまで言ってないみたいな。「オサキならこう書くだろう」ぐらいの感じで。

やっぱりまだまだ浅かったですね。

オサキ あの曲、俺もすごく好きだし、自分の中でもすごく歌いたい曲なんやけど、キーがしんどくて。今回のツアーで何回か演奏したんですけど、サビで本当に声が出ないんですよ。自分がいちばんいいなと思う曲を歌われへんって、俺また面白い人生歩んでるなって思って。今日も不器用やってんなって、自分のことまた改めて好きになったわ。

それいいですね。めちゃくちゃ面白い。

――そのツアー、ルサンチマンも九州の3本に出演します。

オサキ でも僕ら、九州にラーメン食べに行くだけですよ。その片手間で音を鳴らし合うだけです。

――いちばんいいじゃないですか。

オサキ めちゃくちゃいいよな。ごはんの隣の音楽があるって。普通、逆やけど。

めちゃくちゃ美味しいラーメン食べに行きましょうね。僕ら、大分と長崎は行くのも初めてなんで。

オサキ ルサンチマンを福岡に誘うっていうのは決定事項だったんです。しかもなるべく連チャンとかでやりたいってところまで頭の中にあったんで、OKしてくれて助かったというか。

――それは断れないですよね。

いやいや、待ってましたから。

オサキ ずっと言ってましたからね。「断れない」っていう権限すら使ってやろうと思って。「先輩やから断れないなあ」をフルで活用しようと、ちゃんと電話で誘いました。

――さよならポエジーも先輩といっぱい対バンやってきてますけど、いよいよ後輩も増えてきてるじゃないですか。憧れたりすることも増えたと思うんですけど、それはどう感じていますか?

オサキ まあ、否定すると嘘になる。バンドマンに好きですって言ってもらうことも嬉しいんですけど、言われるとそのバンドのことを好きになりたいって思うじゃないですか。でも自分はこんな感じだから、そうならないバンドマンもいたりとかして、すごくもどかしい気持ちになるんです。僕も先輩の人に対して「好きです」とか言いに行ったことがほぼないんですよ。その段階で上下ついちゃうなみたいなのが嫌やし、せっかく音楽っていう、ある種格闘技みたいなことをやってるのにラブコールを送ったら、人間関係の道中とか結末も変わりそうだから。別に北がラブコール送ってくれることに違和感あるとかじゃないんだけど。

うん。僕も今だったら言わないですよ。

オサキ それは嫌とかじゃないし、BLUEPORTにこいつらが来てくれた時に僕が好きってなっちゃったんで。むしろルサンチマンは僕の中のロックに結構当てはまってるんですよ。あんまり人に言ったことないですけど、「ロックとは」みたいな指標があって、ルサンチマンはそれにぴったりなんですよね。

初めて聞きました。

オサキ 「ロックって何ですか」って言われたら、僕の中では「乞わないこと」なんですよね。欲しがらない、求めないことを僕はロックだと思ってるんですよ。自分の力で何かを起こすとか。BLUEPORTのライブを観た時に、自分から雑巾絞ってるような、その一滴みたいな感じがあった。コンテストで賞賛されたり、いろんな賞とかもらったりしたのかもしれないけど、それをあんまり気にしてないというか、自分が燃え尽きてやろうという感じでやってるから、それが自分が思うロックバンドの輪郭をしてるというか。だから好きですね。

そういうのはダサいからやってないだけですけどね。たとえばさよならポエジーと対バンしたんですとか、そういうのって別に自分の中のひとつのトロフィーであって、別に外に発信するものじゃないので。当たり前にかっこいいと思ってないというか。理念のままに動いているだけだから、それがたまたま合致してる人が、自分の師匠というと固いですけど、すごい信頼できる人に当てはまったっていう。

オサキ 北が「こんな人になってみたい、こんなバンドをやりたい」ってところに、俺が一歩先二歩先を歩いてるのかもしれないな、そうだと良いけど。

Text:小川智宏 Photo:中山涼平

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