「これが人間だったら…」 日向ぼっこ中に起きた猟犬をめぐる“まさかの事態“

「私も殺されるという恐怖心もあったし、ただただ見ているしかできなかった」。

広島県内で毎年、約4億円にも上るイノシシなどによる鳥獣被害。対策のために、猟師とともにイノシシやシカといった害獣駆除に貢献する猟犬ですが、地元住民の生活を守る彼らをめぐる、“まさかの事態“が起きました。

瀬戸内の穏やかな島で起こったケースから紐解きます。

■日向ぼっこ中に起きた悲劇

「ここでヤギが日向ぼっこをしていたんですけど、うめき声が聞こえて…」。

穏やかな波の音が心地よい尾道市高根島。3月31日、貝原朋香さんが飼っていたヤギの「まんぼ」は、突如現れた2頭の猟犬に襲われ、治療の甲斐なく翌日に死にました。

「私も殺されるという恐怖心もあったし、ただただ見ているしかできなかった。素人が見ても適正な訓練がされているような感じではなかったです」。

■「アナウンスはなかった」 狩猟読本には…

尾道市によりますと、この日、高根島ではイノシシの駆除のため、市が委託した4人の捕獲班が山に入っていました。しかし当日、アナウンスはなかったと貝原さんは言います。

各地の猟友会で組織する大日本猟友会が発行している「狩猟読本」。猟師の基本的なルールが書かれていますが、「読本」の中には「捕獲の実施に当たっては、事前に地域住民への連絡等を行うこと」という記載があります。

狩猟を担当した瀬戸田町猟友会は、数年前までは自治会長からの要望をうけ、駆除活動の際にアナウンスを行っていたといいます。しかし、近年は「イノシシが目撃されるなど、人が襲われる可能性がある緊急性が高い駆除活動の場合のみ」行っているということです。

■狂犬病ワクチン、住所変更手続き無し

さらに取材を進めると、別の問題も発覚。

今回の猟犬は、義務化されている狂犬病のワクチンを適正に受けていませんでした。そして、「引っ越し後に行うことが義務化されている尾道市への住所変更手続き」も行われていませんでした。

しかし、尾道市猟友会は「親犬に狩猟適正があったか」など「血統」を重視し、基本的な確認を行わず、2頭を「猟犬」と認定。尾道市もこの犬が猟でけがをしたときは、医療費の補助を行う予定だったそうです。

一体、何を基準に市は判断していたのでしょうか?

尾道市に問い合わせたところ、「どういった犬が猟犬として扱われるかは捕獲班員に任せている。今回のような事態についても管理責任は飼い主に帰属している」と回答しました。

飼い主の貝原さんは、この回答に落胆の色を隠せません。

「無責任のひとことに尽きるというか、猟犬はけがをしたら共済金がおりる、守られる。やられるペットたちは、『うちの責任じゃないです』って逃げられる。住民は誰が守ってくれるんだろうという感じです」。

■一般論では、「管理責任は飼い主」

今回のような、犬などによるかみつき事案の管理責任は、誰にあるのでしょうか?

兒玉浩生弁護士は、「事案の状況などにより異なるため、あくまで一般論」としつつ、「動物の飼い主、今回でいうと猟師さんにあります。特に、今回のような猟犬の場合は、飼い主が専門家である猟師なので要求される管理水準は高いと考えられ、管理を怠るなどして動物が他人に与えた損害は、飼い主が賠償することになる」ということです。

動物愛護法にも、動物の飼主は、「動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」(動物愛護法第7条1第1項)とされています。

ただ、飼い主などを罪に問えるかというと、相手が「人」か「否」かで大きく変わると、兒玉弁護士はいいます。

「今回のようなペットや家畜の場合、法律上は「物」として扱われるため、飼い主がけしかけるなどして、故意でけがをさせた場合を除き刑事責任を問われることはありません。一方で、飼っている動物がけがをさせた相手が「人」だった場合、それがわざとでなくても、過失があれば「過失致傷罪」として30万円以下の罰金または科料に処される可能性があり、さらに過失の程度が重ければ「重過失傷害罪」が適用される可能性があります」。

今回は猟犬のかみつき事案ですが、犬が人を噛むということは普通のペット犬でもありうる話。

思わぬことで、犬が他人に損害を与えることはあるので、賠償金などをカバーするペット保険に入るほか、公共の場ではリードを付けるなど注意が必要です。

■後を絶たない鳥獣被害

今回の事故を受け、瀬戸田町猟友会は「防災ラジオやアプリなどを使い、近隣住民への事前連絡を徹底することや狂犬病のワクチン接種など法令の順守に努める」としました。また尾道市も「全市的な対応ができるように他地域の猟友会とも協議を行い、緊急時の対応マニュアルを作成する」としています。

ただ、鳥獣被害が後を絶たないのも事実。イノシシやシカなどによる2022年度の農作物被害額は、広島県内で約4億円にのぼります。

貝原さんも、畑にイノシシが毎日のように入ってきて、農作物の被害があるといいます。

「猟友会の皆さんを批判するつもりも全くなくて、感謝もしています。ただ、言い方が悪いかもしれないが、ずさんな態勢で(猟を)やっていいのかということには全くならない。これが人間だったら…という考えに普通はなると思うので、なんか変わらんかなぁ…という思いです」。

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