アングル:ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に社会の分断

Sarah Marsh Kate Abnett

[ベルリン 10日 ロイター] - ドイツでは今年に入って、政治家を標的にした暴行事件が急増している。専門家はポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や、ソーシャルメディアの普及による社会の分断が背景にあると指摘する。

欧州議会選挙と地方議会選挙に向けて選挙戦が進む中、わずか1週間で政治家を狙った暴行事件が3件も発生した。

ドイツ東部ドレスデンでは3日、与党・社会民主党(SPD)所属のマティアス・エッケ欧州議会議員がポスターを貼っていたところ、黒ずくめの集団に殴られて重症を負い、手術を受けた。ノルトホルンでは男が議員に卵を投げつけて顔を殴り、ベルリンでは上院議員がカバンで殴られた。

投票を控えて緊張が高まるのはいつものことだが、政党関係者やアナリストの間からは、何か変化が起きているとの声が出ている。連邦刑事庁の発表によると、身体的傷害を伴う襲撃事件が急増しており、2023年通年の27件に対して今年は既に22件に上る。

ソーシャルメディアによるあおりを受けた対立のエスカレート、ポピュリストによる分断や「口撃」で、選挙戦は殺伐としたムードになっている。

デュッセルドルフ大学の政治学者シュテファン・マルシャル氏は「感情的な二極化が起きており、反対勢力は『敵』に位置付けられている」と述べた。

ロイターは身体への攻撃もしくは言葉による攻撃を受けた政治家12人を取材。そのほとんどが、敵対的な風潮に候補者や選挙活動家がおびえ、最終的に選挙結果がゆがめられてしまうことを主なリスクに挙げた。

「自分はここでは必要とされていない。姿を消すべきだと感じるようになる」と、東部テューリンゲン州の地方選に中道左派のSPDから立候補しているミヒャエル・ミューラー氏は話した。2月に過激思想に反対するデモを組織した後、自宅に火をつけられ「以前は考えもしなかったが、撤退も選択肢の一つになった」という。

<襲撃の急増>

政府データによると、ドイツでは2019年以降、政治家に対する言葉による攻撃や身体への攻撃が全体で2倍以上に増加した。

政党別で最も被害件数が多い連立与党、緑の党は、党員による昨年の被害報告が1219件と19年から7倍に急増。次に多いのは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の478件、3番目がSPDの420件。

SPDや緑の党など与党政党の関係者は、雰囲気が険悪になって対立が激化したのはAfDによる過激な論調のせいだと非難する。

緑の党の欧州議会議員であるニクラス・ニーナス氏は「公の場で『彼らを追い詰めよう』と放言する政治家がいると、言葉が行動を形成してしまう」と述べた。AfDの前党首アレクサンダー・ガウラント氏は17年の演説で、当時のメルケル首相を追い詰めると発言した。

ニーナス氏は小児性愛者、犯罪者といった言葉を投げつけられているという。

一方、AfDはこうした批判を全面的に否定。共同党首のアリス・ワイデル氏は先週、襲撃事件を政治的利益のために利用しようとする試みは「卑劣かつ無責任」であり、AfDの政治家やメンバーも頻繁に襲撃を受けていると反論した。

<自衛策>

緑の党の政治家は、自分たちに向けられた侮辱的な多くの発言にナチスの影響が強まっていると述べた。テューリンゲン州の緑の党代表マックス・レシュケ氏は「ブーヘンバルト強制収容所に行け」といった発言を挙げた。

警察当局によると、エッケ氏襲撃事件で捜査を受けた4人のうちの1人は、自宅に右翼的な資料を所持していた。また、エッケ氏襲撃グループは以前、やはりポスターを貼っていた緑の党の選挙活動家を襲撃していた。

この襲撃事件を目撃した緑の党の選挙活動家によると、選挙イベント予定の事前公表を避け、標的にされるのを避けるために車にマークを表示するのをやめるメンバーもいるという。

フェーザー内相は先に、政治家や活動家を襲撃した場合の法的処罰を厳格化し、選挙陣営に対する警察の保護を強化する方針を示した。

東部で選挙運動中の政治家によると、既に独自の予防策を講じ、身を守るための講習会の開催も増やしている。東部の町ゲラで緑の党を率いるルイス・シェーファー氏は、もし、誰かが選挙ポスターに害を与えているのを見かけても、それを止めようとして自分の身を危険にさらさないように呼びかけているという。

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