『花咲舞』の半沢直樹・劇団ひとりはなぜイメージと違う? 日曜劇場・堺雅人と比較

「大変ですね、お母さんは」

『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)の第5話冒頭に登場し、温泉を満喫し、隣から聞こえる舞(今田美桜)の声に耳を傾けながら相馬(山本耕史)にそう話しかけた男。この回のキーマンとなる人物とは思っていたが、まさか、“あの男”だったなんて……。そう、この男こそ、産業中央銀行 経営企画部 次長・半沢直樹(劇団ひとり)である。

本作は、作家・池井戸潤の同名小説『不祥事』が原作だが、半沢は同小説から登場。この小説は杏が主演した『花咲舞が黙ってない』第2シリーズ(2015年/日本テレビ系)が終了後に連載されたもので、杏版のドラマには半沢は登場しない。つまり、本作に半沢が登場したということは、ここから今田美桜版のドラマがスタートするということである。

「半沢直樹」といえば日曜劇場『半沢直樹』シリーズ(TBS系)の半沢直樹(堺雅人)が真っ先に思い浮かぶだろう。堺雅人が演じた半沢は、曲がったことが大嫌いで銀行の内部から不正を次々と暴くような人物。また、負けず嫌いでもあり、「やられたらやり返す、倍返しだ!」の決めゼリフに象徴されるように、不正をしている側に出し抜かれることを最も嫌がっていた。あちらの半沢が、自らの内に燃えたぎるような情熱を秘め、粛々と仕事をこなしていく姿を見せていたからだろう、『花咲舞が黙ってない』に登場し劇団ひとりが演じた半沢には、多くの人が違和感を感じたはずだ。

SNS上からも「イメージと違う」との声が多く見られた。こちらの半沢は、なんだかのらりくらり、ちょっとヘラヘラしているようにも見えるのだ。しかも、舞たちが調査をしてやっと作った東京第一銀行の融資計画を半沢はそのまま流用し、増額する形で融資先に提案。昇仙峡(菊地凛子)に「やり方が汚い」と言われてもなんのそので、開き直った態度を取っているのである。一言で言って、悪そうだ。もし、こういうタイプがどこかの支店長になっていたら、それこそ、舞が黙っていないだろう。

ここで整理しておきたいのが時系列。堺版の半沢が所属していたのは東京中央銀行で、劇団ひとり版の半沢が所属しているのは産業中央銀行である。東京中央銀行は産業中央銀行と現在、舞が務める東京第一銀行が合併してできた銀行。堺版の半沢のプロフィールを確認すると、半沢は1970年生まれであることから、新人行員となったのは1992年頃。堺版の半沢は2013年に東京中央銀行の大阪西支店にいるので、産業中央銀行の経営企画部にいる劇団ひとり版の半沢の姿は、ドラマになっていない約20年間のどこかということになる。

だからといって正義感が強く、2013年には融資課の課長にまでなっている半沢が、過去、汚いやり方をしていたということにはならない。人の印象というのは、見る立場によって大きく変わるものだからだ。舞や昇仙峡から見れば、現在の半沢はライバル銀行の社員。眠山のように、田舎で銀行が2つしかないようなところでは町おこしのために両者が協力できれば一番いいのだろうが、億単位の金が平気で動く銀行にとっては、自行の利益も優先すべきもの。頭取同士の会談で、自行のデータを耳打ちする“影武者”のような役割を担っている半沢は、ビジネスマンとしてはかなり有能なはずだ。目の前に転がっている大口の契約を逃すはずがない。

そのような視点からみれば、ビジネスを最優先した半沢が、劇団ひとりが演じたようにあくどく見えるのも間違いではないと思われる。堺版の半沢も妻の花(上戸彩)の前では、ヘラヘラしていることがあったし、「倍返し」を実現させるために相手の裏の裏をかき、目的のためには手段を選ばない危うい一面を見せていた。そう思うと堺も劇団ひとりも「半沢直樹」というキャラクターを忠実に再現しているといえる。
(文=久保田ひかる)

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