『366日』眞栄田郷敦も…春ドラマ5人目の記憶喪失 指摘される「韓ドラの真似・『VIVANT』余波・省エネ制作」

『366日』の“記憶喪失者”眞栄田郷敦(C)ピンズバNEWS

放送開始から約1か月が経過した地上波テレビ各局の4月クールの連続ドラマ。そこでは、“記憶喪失”キャラが続出している――。

5月13日に第6話の放送があるフジテレビの“月9”『366日』。同ドラマでは、主人公・雪平明日香(広瀬アリス・29)の恋人である水野遥斗(眞栄田郷敦・24)が事故に遭って意識不明に。5月6日の第5話で目を覚ましたが、自分に関わりのある人物や体験などの“エピソード記憶”が抜け落ちるという記憶喪失になってしまったのだ。

眞栄田が『366日』で記憶喪失に陥ったことで、今期のドラマに記憶喪失者が登場したのは5作目。春ドラマでは記憶喪失者がまさに続出中なのである。

テレビ誌編集者が話す。

「フジテレビでは月曜22時放送の医療ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』で、杉咲花(26)演じる脳外科医・川内ミヤビが不慮の事故で脳に損傷を負い、記憶障害を抱えているという設定。ミヤビは過去2年間の記憶が抜け落ちているうえに、今日のことを明日にはすべて忘れてしまうんです。

TBS系では、火曜22時の『くるり~誰が私と恋をした?~』にて、主人公の緒方まこと(生見愛瑠・22)が階段から落ちて記憶喪失となり、“恋の相手”と“本当の自分”を探すラブコメミステリーを展開しています。

また同じくTBS系で金曜22時から放送されているヒューマンラブストーリー『9ボーダー』では、主人公・大庭七苗(川口春奈・29)と恋仲になる飲食店手伝いのコウタロウ(松下洸平・37)に、過去の記憶がないことが描かれています」(前同)

そして、日本テレビ系では心理サスペンス『約束~16年目の真実~』(木曜・23時59分~)で主人公の刑事・桐生葵(中村アン・36)が16年前、好きだった同級生の妹が殺害されている遺体を発見したショックにより、その直前の記憶を失っている状態だ。

■韓国ドラマの「ヒットの法則」寄せてきたか

各局の連ドラに相次いで登場する記憶を失った登場人物たち。記憶がなくなるという設定がドラマ内で続出する事態に、X(旧ツイッター)上では《アニメは異世界転生もの ドラマは記憶喪失ものが流行っているのか》《今期ドラマなんでこんなに記憶喪失?異世界転生のニューバージョン?》など、アニメ界に多い「異世界転生」を想起する声が続出。

また、記憶喪失といえば日本でも大ヒットした『冬のソナタ』(2002)をはじめ、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016)、『ショッピング王ルイ』(2016)、『100日の郎君様』(2018)など、韓国ドラマの“十八番”でもある。

それだけに、《記憶なくすの韓国ドラマの得意どころ。コピーだなぁ~》《韓国ドラマの真似してる?》《邦ドラマが韓ドラに寄せてきてるとしか思えない…!》と、今期の連ドラが韓国ドラマの“ヒットの法則”を踏襲しているのではないかと見る向きも少なくない。

日本ドラマ界における記憶喪失ブームとも受け取れるこの状況は、いったい何なのか。

ドラマ評論家の吉田潮氏は、「日本でも沢村一樹(56)が主演を張った『刑事ゼロ』(テレビ朝日系/19年)や浜辺美波(23)が主演した『ドクター・ホワイト』(フジテレビ系/22年)などでも記憶喪失は設定として利用されています。ドラマとして“よくある手”ではある」と前置いたうえで、ドラマにおける“装置”としての記憶喪失の“手軽さ”を解説する。

「まず記憶喪失は、地上波ドラマの王道パターンであるサスペンス・ミステリー系でも、恋愛・ヒューマン系でも、どちらでも有効に成立します。

サスペンスやミステリーにおいて記憶喪失という設定の登場人物が現れると、視聴者は“もしかしたらこの人が事件の鍵を握っているのかもしれない”、“この人の周囲にいる人は悪人かもしれない”などと考える。制作側にしてみれば、背景説明を、いったんすっ飛ばした状態でストーリーを進められるのです」(吉田氏)

昨今、ドラマ業界は堺雅人(50)主演の『VIVANT』の大ヒットを受け、考察ブームの真っただ中。ドラマを見る視聴者を惹きつけたい制作陣にとっても、記憶喪失は都合が良い設定なのだそうだ。

「SNS上での考察ブームを狙う制作側にしてみれば、視聴者に“なぜこの登場人物は記憶喪失になったのか”“いつ記憶が戻るのか”など考えさせることで、後々まで視聴者を引っ張れる。ドラマ業界が考察ブームの中、記憶喪失はお手軽な装置となりえます」(前同)

■制作側は「省エネ」な裏側

『VIVANT』を筆頭に考察ブームに沸くドラマ業界内において、「記憶喪失」は恋愛・ヒューマン系の作品でも物語のカギとなる設定として使われがちだという。

「恋愛・ヒューマン系のドラマで記憶喪失が使われるときは、いったん自分をリセット、リニューアルするというニュアンスが込められます。記憶を喪失した本人は自分は何者なのかを自問自答するし、周囲は記憶喪失した相手に戸惑いながらも“先入観なし”のゼロリセットで向き合おうとする。記憶喪失をあたたかく見守ってくれるコミュニティがあるのが鉄板です。

恋愛・ヒューマン系のドラマに記憶喪失という仕掛けを掛け算することで、話を手軽に複雑にでき、かつ心の交流を演出できます。途中で記憶喪失になるパターンも、話の分岐点として手っ取り早く機能します」(前出の吉田氏)

話の筋だけでなく制作陣にとっても、記憶喪失は“手軽”だと吉田氏は指摘する。

「そもそもドラマに立体感を出すものとして、トリッキーな“3大現実逃避要素”として記憶喪失、入れ替わり、タイムリープがあります」(前同)

実際、2023年から24年にかけては時空を超える系のドラマが大流行。宮藤官九郎(53)が脚本を担当したTBS系の『不適切にもほどがある!』(2024)、安藤サクラ主演の日本テレビ系『ブラッシュアップライフ』(2023)、フジテレビ系列で放送された吉岡里帆(31)主演の『時をかけるな、恋人たち』(2023)、同じくフジテレビ系列で向井理(42)主演『パリピ孔明』(2023)など枚挙に暇がないのである。

「ただタイムリープは、ドラマとして作ろうとするとなかなか大変です。時代考証をする必要が出てくるし、大道具や小物も当時を再現しなくてはいけなくなる。今の視聴者は細かいところまで見ているので、少しでも違ったらすぐにSNSで指摘されてしまいます。

その点、記憶喪失はセット面で難しい辻褄合わせがいりません。また入れ替わり系だと役者に相当な力量が求められますし、演出面も工夫が必要になりますが、記憶喪失なら人間という“ハコ”は同じなので演技面も演出面も負担が少ない。省エネの制作が可能なのです」(同)

とはいえ、あまりにも同時多発的な記憶喪失設定――視聴者が求めているのかといえば、吉田氏は「そんなことはない」と懐疑的だ。

「効果的に作用すればいいのですが、記憶喪失キャラが続きすぎているので、視聴者は“これもか”と冷めてしまうのが実情でしょう」(同)

まさかの“被り”連発――今、現実逃避をしたいのは、被ってしまったドラマの制作陣だったりして。

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