兵庫・相生市長選、締め切り寸前に立候補辞退の異例事態 「久々投票できると…」市民落胆、憤りの声も

新人候補が一転して立候補を取り下げ、無投票となった相生市長選。2人の選挙ポスターが張られたままになっている=13日午後、相生市内

 12日に告示され、現職の谷口芳紀氏(75)が6回連続の無投票で7選を決めた相生市長選。立候補を届け出た2人のうち、新人が締め切り直前に辞退する異例の事態となった。24年ぶりの選挙戦を期待した市民らは戸惑い、選挙制度の盲点を指摘する声も上がっている。

 「立候補を取り下げたい」。同日午後1時ごろ、新人で元県議の小西彦治氏(52)が市役所1階の市選挙管理委員会を訪れ、職員にそう伝えた。

 選挙に出るための供託金(政令市を除く市長選は100万円)が返還されないと聞くと、驚きの声を上げ、「支援者と相談したい」と告げて立ち去った。

 だが、受け付け締め切りの午後5時前、再び市選管を訪れた小西氏は「支援者の了解が得られた」と説明し書類を提出。立候補の取り下げが受理された。

 小西氏は今月7日に立候補を表明。昨年9月の三重県松阪市長選をはじめ、全国十数カ所の市町村長選に立候補したとした。取り下げの理由について「世話になっている支援者から兵庫県外の首長選に出てくれと言われた」と釈明。当選すると、その選挙に出られなくなるためとし、没収された供託金は支援者が肩代わりすることも明かした。

 急きょ、対応を迫られた市選管の担当者は「辞退はデータとして残らないことが多く、正確には分からないが、前代未聞」と驚きを隠さない。

 「少ない得票でも供託金が返還されるから、いたずらに選挙に出るという事態が起こるのではないか」。選挙戦を覚悟した現職陣営からは恨み節も聞こえる。

 市長選では、有効投票数の10分の1以上得票すれば、供託金は没収されない。地元選出の県議は「供託金制度は投票率が高い時代に制定された。今は投票率が低く、少ない得票でも没収されなくなった」と指摘。一方で、供託金の額を上げれば若者らの政治参加をさらに規制することになり、「解決には投票率を上げるしかない」と話す。

 投票の機会を失った市民からは「久々に投票できると思っていたのに」との落胆や、立候補の取り下げには「有権者をばかにしている」といった声が上がった。(西竹唯太朗、喜田美咲、豊田 修)

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