『366日』“智也”坂東龍汰のほろ苦い“夢の終わり” 不穏なラストに胸のざわめきが止まらない

叶いそうにもない夢に区切りをつけるべきタイミングっていつなんだろう。もちろん、貪欲に夢を追い続けて人生を逆転させる人だっているし、諦める必要なんてないとも言える。だけど、もし自分で十分やりきったと納得できたら、それがその時なのかもしれない。『366日』(フジテレビ系)第6話では、智也(坂東龍汰)のほろ苦い“夢の終わり”が描かれた。

社会人になってからも野球への情熱を持ち続け、運送会社で働きながらプロ入りを目指してきた智也。だが、若手が活躍する一方で自身は野球選手にとって生命線とも言える右ひじを故障し、実家では農家を営む父親が腰を痛める。このまま夢を追い続けるか、それとも諦めて家業を継ぐか。智也はまさに人生の岐路に立たされている。

言いようのない焦燥感に駆られるのは、28歳という年齢もあるだろう。20代半ばまでは「まだ若いんだから大丈夫」と年配者から言われることが多い。だけど、28歳くらいから突然、「そろそろ身の振り方を考えた方がいいよ」と言われ始める。30歳になっても案外何も変わらないのに、目前に来るとそこを超えたらなんだか取り返しがつかないような不安感に襲われるものだ。

そんな中で、智也が高校時代に甲子園を共に目指した遥斗(眞栄田郷敦)が事故に遭った。その後遺症で記憶を失ってしまった遥斗。家族や幼なじみのことは思い出したが、中学以降の出来事は忘れたままだ。主治医の友里(和久井映見)は記憶を取り戻すためにも徐々に普通の生活に戻していくことが大事だと言い、遥斗はまず茨城にある実家に一時帰宅することに。その際、父親の様子を見に帰省していた智也と、高校のグラウンドでキャッチボールをする。

そこは、2人が初めて言葉を交わした場所だった。最初は好戦的だったが、遥斗に中学時代の逆転ホームランを褒められ、すぐにほだされた智也。翌日2人は野球部に入部願いを出し、一番輝いていた青春時代を共有した。まさか、その頃は将来夢を諦める時が来るとも、記憶を失うことになるとも思わなかっただろう。智也が打ち明ける葛藤に、彼が歩んできた道のりを知らない今の遥斗はうまく答えることができなかった。だが、智也はそんな遥斗に勇気をもらう。

野球部の仲間たちと甲子園を目指していた青春時代の思い出。実家が経営するお好み焼き屋を継ぐために積み上げてきた知識と経験。明日香(広瀬アリス)と10年にも及ぶ“両片思い”の末にようやく結ばれた恋の記憶。それらを全て失った遥斗は、人生を強制的にリセットされたも同然だ。それでも頑張って生き直そうとしている遥斗の姿を見て、智也は引退を決意し、新たな人生を送り始める。

引退前の最後の試合には、遥斗と明日香、莉子(長濱ねる)や和樹(綱啓永)も駆けつけた。みんなが見守る中、智也が華麗に逆転ホームランを決めてチームを勝利に導く……とはならないのがリアルだ。けれど、智也は守備で体を張ってボールをキャッチし、チームは勝利した。会場から出てきた智也を明日香たちは「お疲れさま」と迎え、その夢の終わりに寄り添う。遥斗の「楽しかった?」という問いかけに、涙で言葉が詰まりそうになりながらも「楽しかった」と答える智也。遥斗は智也のこれまでを覚えていない。だけど、その一言で十分だ。夢を追いかけた日々を振り返って「楽しかった」と言えるのは、それだけ頑張ってきた証拠だから。きっとこの先も折につけては輝いていた頃の自分を思い出して、胸が痛む時はある。だけど、智也は後悔を残さないほどに力を出し切った。

そんな智也の姿がまた、明日香たちを勇気付ける。遥斗と看護師・宮辺(夏子)の会話をたまたま聞いてしまい、遥斗が自分に気を遣っていることを知った明日香。しばらくは落ち込んでいたが、どんな時も遥斗の一番の味方でいることを心に誓い、自身もまたクラリネット講師を目指し始める。一方、遥斗は退院後も実家には戻らず、東京で今の仕事を続けていくと決意。

そんな第5話は、主題歌であるHY「366日」の歌詞が心に響いた。この曲は叶わない「恋」を歌っているが、「夢」にも置き換えることができる。人生はままならなくて、恋も夢も叶うとは限らない。だが、たとえ叶わなかったとしても、諦めざるを得なくなったとしても、別れは新たな出会いの始まりで、夢の終わりは新たな人生の始まりだ。終わる時も始まる時も、「頑張れ」や「お疲れ様」と言ってくれる味方がそばにいる明日香たちが羨ましく思えた。

しかし、その矢先、莉子が何者かに後をつけられているカットが映し出される。あまりに不穏なラストに胸のざわめきが止められない。どうかこのまま、明日香たちの平穏な日々が続きますように。

(文=苫とり子)

© 株式会社blueprint