【社説】国の基金見直し なぜ大胆に切り込まない

 「大山鳴動して、ねずみ一匹」という感じだろうか。

 中長期的な政策推進のために設けられながら、無駄遣いの温床との批判が絶えない国の基金について、政府が見直し結果を明らかにした。使う見通しのない5466億円を国庫に返納させるほか、本年度と昨年度で計15事業を廃止するのが柱という。

 政府は昨年12月、見直しに着手した。十分な成果が上がったとは到底言えない。廃止する事業の数は全体の1割足らず。新型コロナウイルス禍で膨らんだ基金の無駄遣い根絶に、どれだけ本気で取り組んだのか。疑念は拭えない。

 対象となったのは、152基金の200事業で、目標や実際の効果などを点検した。業績が悪化した中小事業者に融資する「新型コロナウイルス感染症基金」の約3500億円などの国庫返納を決めた。電気自動車(EV)充電設備の設置を図る事業などは、廃止とした。

 国庫返納額の6割近くは見直し前にめどが立っていた。廃止とした事業の中には、円高関連など既に終了しているのに管理費を払い続けていた事業も多い。見直しを始めるのが遅過ぎたといえよう。

 中身も、省庁や族議員に甘過ぎると言わざるを得ない。コロナ禍に苦しむ中小企業支援を目的に設置した基金も、その一つ。昨年秋には外部有識者から「役割は終わりつつある」として「廃止か抜本的な再構築」を提言されていた。にもかかわらず、存続となった。切り込み不足だと指摘されるのも当然である。

 基金には、複数年度に及ぶ政策課題に機動的に対応できる利点がある。一方で、所管する省庁にとっては既得権益になりがちだ。国会の審議を経ずに思うようにカネを出せる「財布」と化しているのだろう。数値目標さえなく、成果の検証が難しい事業も多かった。あきれるほかない。

 無駄遣いの温床になっていると指摘されるゆえんである。かつて「霞が関の埋蔵金」といわれた特別会計のようだとでも、省庁は思っているのかもしれない。国会の目が届きにくく、財政民主主義の点からも問題がある。

 基金が乱立したのは、「予算の単年度主義」の弊害を強調した第2次安倍政権以降だった。コロナ禍でさらに焼け太りした。経済対策の名の下で、数十兆円という規模ありきの予算が2020年度から23年度まで毎年、与党から要望された。それに応える形で政府が安易に基金を積み上げた。大半が、財務省や国会のチェックが甘い補正予算だったことも響いている。

 いかに膨れ上がったか、残高を見れば明らかだ。22年度末は16兆6千億円で、コロナ禍前の19年度末に比べ、3年で7倍近くに増えた。

 コロナ禍は既に落ち着いている。徹底的な見直しが必要だ。まずは基金を「例外中の例外」と位置付け、設立条件や、事業を展開できる年限を厳しく定めるべきだ。設立後も毎年、国会や外部有識者のチェックを義務付けるなど透明性を確保できる仕組みづくりを急がねばならない。

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