加藤健一事務所公演『二人の主人を一度に持つと』上演中 嘘に嘘を重ねて給料2倍を目論む召使いの顛末は?!

加藤健一事務所でのドタバタコメディは、大人気ジャンルのひとつ。『二人の主人を一度に持つと』好評上演中だ。
ヴェネツィアが舞台の本作。カトケン事務所でこの地を舞台にした作品を上演するのは、今回が初めてである。

とにかくコメディなので、絶対にバッドエンドにはならないのはお約束。
町の実力者であるパンタローネ・デ・ビゾニョージ(清水明彦)には娘がいる、クラリーチェ(増田あかね)、お年頃。イル・ドットーレ・ロンバルディ、こちらも結婚適齢期の息子・シルヴィオ(小川蓮)がいる。パンタローネとロンバルディは友人同士で、互いの子供は相思相愛、おりしも、婚約パーティの真っ最中。そんな時に!ドタバタコメディなので、現れちゃ困る人が登場したりして(笑)。

一方、訳ありの恋人同士のフロリンド・アレトゥージ(坂本岳大)、ベアトリーチェ(加藤忍)、故郷からヴェネチアへ。ここで落ち合うはずだが、すれ違い、こういった設定もお約束(スマホないからすれ違う(笑))。そしてよりによってトゥルファルディーノを気に入って召使いに。当の本人は単純に「収入が増える!」ということで安請け合いする。

とにかく帳尻を合わせようとして口から出まかせを言うトゥルファルディーノのいい加減さで客席から笑いが起こる。加藤健一が軽やかな身のこなしで舞台を駆け回る。手にしているハリセンのようなものは随所で活躍、時にはそれで叩かれるトゥルファルディーノ。 わかりやすいすれ違いに、適当なことを言ってその場しのぎの召使い、だが、登場人物全員、”良い人”。もちろん、トゥルファルディーノも。子供たちの幸せを願う父2人、幸せな結婚をしたい若い2人、別れ別れになった恋人同士、ちょっとヤキモキするも、最後はハッピー。

天井のセットがカラフルで、これが場面ごとに活躍、セットの色合いも可愛らしく、キャストが着ている衣装も優しい色彩、そして衣装の差し色でそのキャラクターの立ち位置がわかる。トゥルファルディーノの差し色は2色、これで2人の主人がいることがわかる。メイクも道化のように白塗りのキャラもいれば、髪型がもじゃもじゃ、毛先が跳ねてたり、ビジュアルが楽しい。トゥルファルディーノはそばかすだらけのもじゃヘアー。芸達者な役者が揃い、マンガチックで抱腹絶倒な芝居を繰り広げる。表情や動作が振り切っており、それだけ観ても楽しい。古典喜劇なので事態の収拾の仕方も、ちょっと強引さがあるところが、また可笑しい。休憩挟んでの2幕もの。何も考えずに目の前のドタバタを楽しむ作品、公演は19日まで本多劇場にて。

物語
18世紀、ヴェネツィア。とある男性主人の召使い・トゥルッファルディーノ(加藤健一)は、仕事中、召使いを雇いたいと言う男に出会う。 「二人の主人に仕えれば、給料も2倍になる!」と思いついたトゥルッファルディーノ。主人が増えたことで起こる数々の難題を、ウソで ごまかし乗り越えていく。けれども彼の周囲の人々は、男装中・婚約破棄・恋人との死別…などなど、カオスな状況。そこへトゥルッファルディーノのウソがとんでもない誤解を呼び、事態は大混乱!お調子者のトゥルッファルディーノ、果たして上手く場を収められるのか?

作品について
原題:Il servitore di due padroni
役者アントニオ・サッコのために書かれ、1746年ヴェネツィアにて初演。もとは筋書きのみであったが、後に台本化した。
1947年にミラノ・ピッコロ座が現代の舞台として蘇らせると同劇団の看板演目となり、現在に至るまで上演され続けている。

コンメディア・デッラルテとゴルドーニ
コンメディア・デッラルテとは、16世紀に誕生した喜劇のスタイルのこと。
役名や性格に定型があり、そこに大まかな筋書きを加えて演じるため、即興性と役者のコメディセンスが重要である。
また、当時の人々の生活と深く結びついており、流行も生み出した。
『二人の主人を一度に持つと』はコンメディア・デッラルテで書かれた作品だが、ゴルドーニはこの様式から抜け出すことで演劇改革を目指し、イタリア演劇の近代化に大きく貢献した人物でもある。

国内での主な同作上演歴
『恋のヴェネツィア狂騒曲』 シス・カンパニー(2019)
上演台本・演出:福田雄一
オペラ『アルレッキーノ ―二人の主人を一度に持つと―』 オペラシアターこんにゃく座(2013)
台本・演出:加藤 直、作曲:萩 京子
『アルレッキーノ――二人の主人を一度にもつと』 ミラノ・ピッコロ座(2009)
演出:ジョルジョ・ストレーレル

作者カルロ・ゴルドーニ(1707~1793)
ヴェネツィア共和国の劇作家。弁護士を経て、劇場の座付き作家となる。
平等、貴族風刺、女性の権利の擁護などを作品に盛り込み庶民から人気を得たが、政治的圧迫を受けフランスへ移住。
同地で生涯を閉じた。現在のイタリアでもその人気が絶えることはなく、新演出によって毎年多くのゴルドーニ作品が上演されている。

概要
日程・会場:
東京
2024年5月9日(木)~5月19日(日) 下北沢・本多劇場
兵庫
2024年5月25日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
作:カルロ・ゴルドーニ
訳:田之倉 稔
演出:鵜山 仁
出演:加藤健一、清水明彦(文学座)、奥村洋治(ワンツーワークス)、土屋良太、坂本岳大、小川蓮(扉座)、佐野匡俊 加藤 忍、増田あかね(俳優座)、江原由夏(扉座)

加藤健一事務所次回公演
「灯にたたずむ」
日程・会場:2024年10月3日(木)~10月13日(日) 紀伊國屋ホール
作:内藤裕子
演出:堤 泰之
出演:加藤健一 加藤 忍 阪本 篤 占部房子 加藤義宗 西山聖了 新井康弘
ストーリー
宮城県角田市にある診療所、篠田医院。
秀和(加藤健一)は院長業を息子に任せ、土曜日のみ診察を担当している。
患者一人一人に対してじっくりと時間をかける診察スタイルを貫く秀和は、病院経営を軌道に乗せた息子には少々煙たがられているが、家族ぐるみで昔から付き合いがあり、そして今は患者となった友人にも、医者として寄り添いながら真剣に向き合っている。
秀和は言う―「医者にしかわからないことがあるように、患者にしかわからないことがある。だからこそ医者は患者の気持ちを傾聴しなきゃならない。」

患者本人にとって大切なものとは、何なのか。
秀和や篠田医院のスタッフ、患者、家族…それぞれの経験や立場から思いをぶつけて、“生き方”を考えていく。

公式サイト:http://katoken.la.coocan.jp/
舞台撮影:石川純

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