インドのIT人材、9割が「米独よりも年収が低くても日本で働きたい」と回答。一番多かった理由は?【インドの工科系大生へのアンケート結果】

日本での就職を希望するインド人学生(ベンガルール)

インドは世界最多の人口を誇り、IT人材の成長が著しい国でもある。日本のIT企業にとっても、優秀な人材が多いインド人ITエンジニアの存在は欠かせない。彼らにとって日本は働き先として、どのように映っているのだろうか。インド人学生へのアンケート結果をZenkenの田中志穂・ダイバーシティ事業部・部長が解説する。

「日本は報酬を超えた魅力がある」?

海外人材の紹介などを手掛けるZenkenが実施した海外での就職を希望するインドの工科系大学4年生へのアンケート調査によると、「日本企業で受け取れる年収が米国やドイツに比べて低い」と答えた人の比率が過半数に達した。欧米諸国では賃金インフレが進んでいるほか、円相場の下落もあって、インド人エンジニアにとっても日本企業の賃金が見劣りすることが浮き彫りになった。

ただ、「米独よりも年収が低くても日本で働きたいか」との質問に対しては「はい」との回答が9割近くを占めており、インド人学生には「日本は報酬を超えた魅力がある」と映っているようだ。

低迷してきた日本の賃金は上昇傾向に転じる

調査はZenkenがインド・ベンガルールなどの25の工科系大学で海外就職を希望する4年生を対象に1月2~9日に実施し、905件の回答を得た。ベンガルールはIT産業の集積地として知られ、インドの「シリコンバレー」とも言われる。

アンケートで「日本は米国やドイツなどに比べて年収が低いと感じるか」と聞いたところ、「はい」との回答が54.7%に達した。「いいえ」は45.3%だった。OECD(経済協力開発機構)の2021年の統計によると、米国の平均年収は7万ドル台後半、ドイツは約6万ドルに達した。一方で日本は4万ドル台前半にとどまっている。日本はエンジニアの賃金も米欧に遅れを取っており、有能な人材の採用には不利な状況だ。

日本では1990年代初頭のバブル経済崩壊や97年の金融危機後、賃金が低迷し続けている。デフレ経済が続いて企業収益が伸びなかったことに加え、非正規雇用が増えたことなどが影響している。

ただ、連合による2024年春季労使交渉(春闘)の第4回集計では、平均賃上げ率は5%を超え、およそ30年ぶりの高水準となった。日本の場合は欧米に比べて物価が安いこともあり、実質賃金が上昇していけば、有能なインド人エンジニアを獲得するチャンスが増えることが考えられる。

日本で働きたい理由は「仕事のやりがい」が最多

「日本の賃金が米国やドイツと比べて安いと感じる」と答えた人に対して、「それでも日本で就職したいか」と質問したところ、「はい」と回答した人は87%に達した。「いいえ」との答えは13%にとどまった。

インドは人口が中国を抜き、世界一となった。名目GDP(国内総生産)でも日本を抜き、世界4位に浮上する見通しだ。しかし、国内産業が発達していないことから平均年収は1万ドル台ともいわれる。賃金格差が激しいことから年収の中央値はさらに低いとされている。このため、平均年収がインドの3倍以上に当たる日本での就職を希望する人は少なくない。

「日本で働きたい」と答えた人に対して理由を尋ねたところ、最も多かったのは「仕事のやりがい」で64.5%(複数回答)。次に多かったのは「アニメーションなどの文化」が60.3%だった。「治安・安全面」の54.9%が3番目で、日本の生活環境の良さを理解して就職を希望していることがわかる。「物価が安い」との回答も26.5%あった。「別の海外の国で働くためのステップ」(49.8%)、「国はどこでも良く海外で働きたい」(47%)との答えも比較的多かった。

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