孫正義氏は「AIに取り組んだ企業が人類のリード役」と予見 通期赤字も回復傾向のソフトバンクG決算で

ソフトバンクグループは5月13日、2024年3月期の通期決算を発表。売上高は前年同期比2.8%増の6兆7565億円、純損益は2276億円と、2022年度に続いての赤字決算となった。

だが、同日に実施された決算説明会に登壇した取締役専務執行役員 CFO兼CISOである後藤芳光氏は、「昨年と比べ大変順調に成長した1年だった」と話す。その理由は赤字幅の大幅な縮小にある。

通期赤字も直近2四半期は黒字

実際、同社の純損益は2022年度で9701億円、2021年度は1兆7080億円であったことから、赤字幅が大幅に減少していることは確かだ。加えて直近の2四半期は、連続して黒字を記録しているそうで、今後も黒字を継続できるようマネジメントしていきたいと後藤氏は話す。

その業績回復に貢献しているのは、1つにこれまでの赤字要因となっていたソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の投資損益が大幅に改善していることだ。2022年度には5兆3000億円を超えていたSVFの損益は、2023年度には1673億円にまで急回復している。

上場したARMが示す「AIシフト」

そしてもう1つ、より大きな影響を与えたのが、2023年9月14日に英ARMが上場を果たしたことだ。ARMの株価は公開価格が51ドルであったが、2024年3月末には約2.5倍となる124.99ドルにまで上昇、これによって同社が重視する指標の1つである「NAV」(Net Assent Value:時価純資産)は過去最高水準に達したと後藤氏は話している。

元々モバイル向けの半導体設計に強みを持っていたARMだが、ソフトバンクグループが買収して以降事業の多様化を進めており、現在ではIoTやクラウド、オートモーティブ向けの半導体設計が多くを占め、モバイルの売り上げは増えているにもかかわらず、構成比では半分以下に減少しているとのこと。

そのことがARMの成長に大きく寄与し、売上高やARMベースのチップ出荷数、人員などが、買収前と比べ「ほぼ倍に伸びている」と後藤氏は説明している。

ARMの上場、そして従来同社の業績を支えてきた中国アリババグループの株式を売却したことによって、同社の保有資産構成は大幅に変化。ARMが占める比率が半数近くに達し、SVFの比率も3割近くに高まっているという。しかしながら後藤氏は「これは単に投資ポートフォリオが入れ替わったというものではない。われわれのAIシフトそのものを実現するための変化でもある」と話す。

また一連の業績回復を受け、同社が重視するNAVやLTV(Loan To Value:純負債を保有株式価値で割ったもの)といった指標はいずれも好調な値を記録。とりわけ安全性を示す指標となるLTVは、3月末時点で8.4%と「史上最低レベルに近い安全性が現在ある」(後藤氏)とのこと。それだけに後藤氏は、「今後さまざまなチャレンジをすることを十分視野に入れないといけない」と、同社が力を注ぐAIへの事業シフトに向け、投資を積極化する方針を示していた。

AIに関する投資に方針については、AIが人類の10倍の知性を持つとされる「AGI」(Artificial General Intelligence)、そして全人類の英知の1万倍近い能力を持つ「ASI」(Artificial Super Intelligence)の時代を迎えるに当たり、同社の代表取締役 会長兼社長執行役員である孫正義氏が思案を巡らせているという。

その軸となるのはやはりARMであり、省電力に優れたARMの設計を、エヌビディアやグーグルなどのIT大手が積極的に取り入れているとのこと。一方で、SVFではAIを活用するさまざまな分野の企業への投資を進めており、投資先はすでに477社にまで拡大していると後藤氏は話す。

また孫氏は、AGI、ASIの時代が来ることを見越して先に取り組んだ企業が人類のリード役になると仮説を立て、成長基盤を作るための投資を進めていく方針とのこと。2023年の投資額は39億ドル(約6080億円)と、以前と比べればまだ低水準にとどまるが、後藤氏は「戦略投資として、投資することをコミットメントしている金額が50億ドル(約7800億円)ある」とし、実質的にはおよそ90億ドル(約1兆4030億円)くらいと、前年度と比べ倍以上の規模の投資活動をしていると話している。

主な投資先としては、産業用オートメーションやロボティクス、自動運転などの分野が挙げられており、同じ分野の複数の投資先をリンクさせて1つのサービスを提供するような取り組みも進めていく方針だという。また最近の投資事例として、2024年5月に自動運転のAI開発に取り組んでいる英Wayveへの投資を実施したことにも触れている。

ただ後藤氏は、積極的な投資ばかりでは「環境変化に対して非常にネガティブなアタックを受けるリスクがある」と話し、財務的にどのような環境変化に耐えられるよう、従来掲げてきた財務方針を堅持した上での投資を積極化していくことを訴えた。後藤氏は投資戦略に対し「なるべく駄目だと言わないようにしているが、僕が駄目だと言ったら本当に駄目だというのを経営陣に理解していただいている」と、財務規律をしっかり守ることに、非常に重きを置く姿勢を示している。

ちなみに今回の決算においても、プレゼンテーションを実施したのは後藤氏で、孫氏が登壇することはなかった。孫氏の現状に関して後藤氏は、「彼が最後に決算説明会に出ていた時、ARMを中心にAIの大きな時代の中で、ソフトバンクグループは何ができるかをやりたいと話していた。それからずっと彼は積極的、精力的にさまざまな活動をしている」と、引き続きAI関連の事業に向けた取り組みに集中していることを示唆している。

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