北緯40度でオーロラ、観測史上初、20年ぶりの強い磁気嵐–記録的だった「太陽フレア」

宇宙天気予報」を運営する情報通信研究機構(NICT)によると、日本時間5月8日午前10時41分~5月11日午後8時44分に発生したXクラス以上の「太陽フレア」は8回発生。Xクラス以上の太陽フレアが72時間で7回発生したのは「GOES」衛星の観測史上初という。最大規模は5月11日午前10時23分に発生したX5.8。

NASAの太陽観測衛星「Solar Dynamics Observatory(SDO)」で観測された太陽。(左から)可視光、紫外線。今回の太陽フレアをもたらした黒点群は13663と13664(提供:NICT)

静止軌道を周回する気象衛星GOES(Geostationary Operational Environmental Satellite)は航空宇宙局(NASA)が開発、打ち上げて米海洋大気庁(NOAA)が運用している。1975年から観測を続けている。

GOESで観測された太陽X線強度(提供:NICT)

大規模な太陽フレアに伴い、地球の電離層に異常が発生することで生じる「デリンジャー」現象も発生。デリンジャー現象は通信や放送、観測、測位などの衛星に影響を及ぼすことがあり、今回の大規模な太陽フレアでは、5月11日の午前10時~午後1時に日本各地で強いデリンジャー現象が発生しており、短波帯の通信途絶が発生した可能性が高いとしている。

大規模な太陽フレア、それに伴う太陽コロナガス(「コロナ質量放出」=CME=とも言われる)から高度3万6000kmの静止軌道で「プロトン」現象も観測されている。プロトン現象は、太陽から加速された陽子の量が突然増加する現象。

大規模なプロトン現象は、陽子がもつエネルギーの大きさから地球の磁場に守られた内部の磁気圏にまで到達し、衛星などの誤作動や故障を引き起こすことがあると指摘されている。地球の北極と南極に侵入することで電波の電波異常も引き起こすと考えられている。

GOESの観測では、エネルギーが10MeV(100万電子ボルト)以上のプロトンは5月9日午後6時から、エネルギーが100MeV以上のプロトンが5月11日午前11時から始まった。日本の静止軌道(東経140度)でも同様にプロトンが増加していることが気象衛星「ひまわり9号」でも観測されている。

(上図)GOESによるプロトン粒子の観測値。(下図)ひまわり9号によるプロトン粒子の観測値(提供:NICT)

CMEに伴い、太陽風は速度が秒速770km(時速277万2000km)、磁場強度が72ナノテスラ(nT)に急上昇。5月8日以降複数回発生したCMEが順次地球周辺を通過する見込み。現在までの太陽風の速度は秒速1000km(時速360万km)、磁場強度は最大72nT。

NASAの太陽探査衛星「Deep Space Climate Observatory(DSCOVR)」による太陽風の観測値(提供:NICT)

気象庁の地磁気観測所(茨城県石岡市柿岡)では、5月10日午後5時5分に急始型と呼ばれる地磁気嵐を観測。地磁気観測所では、地磁気変動の活動を表すものとして「K指数」を算出。K指数は2以下が「穏やか」、3と4が「やや乱れている」、5以上が「乱れている」。

今回、地磁気観測所は上から2番目の「8」を4回観測。K指数が8を最後に観測したのは2005年8月であり、約19年ぶりとしている。

地磁気観測所による地磁気指数の暫定値(提供:NICT)

地磁気嵐の発生に伴い、日本の上空では5月11日の日中に北緯37度から高緯度側、5月12日には全緯度帯で高度60~100kmの電離圏で電子密度が減少する「負相嵐(ネガディブストーム)」の発生も確認されている。負相嵐では、通常電離圏で反射されるはずの電波が周波数によって反射されないという現象が起きるといわれている。

今回の大規模な太陽フレアは北緯40度付近の都市でもオーロラが観測されている。オーロラは通常北緯65度以上で観測される。

太陽探査機「SOlar and Heliospheric Observatory(SOHO)」で観測されたCMEの様子。中心部の白丸が太陽(提供:NICT)

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