減る「ドンペリ」は円安の余波か 名物ママは「どこ吹く風」も卸業者は正念場

フランス製のシャンパン・ドンペリニヨン。高級酒の代名詞のように語られるお酒ですが、日本での流通はここ数年低調に推移しているということです。世界経済にほんろうされる一方で、経済にとどまらない海外との関係も大きく影響していました。

酒の卸業務を手掛ける金沢市の表酒店には、しっかりと冷蔵管理をする収納庫があります。そこには高額なシャンパンがずらりと並んでいます。

表酒店・表聡太郎社長「(ドンペリは)60本、これで半月分」

現在、ドンペリの数ある種類の中でもスタンダードとされる「ドンペリニヨンヴィンテージ2013」は表酒店ではひと月に100本ほど販売していますが、ピーク時の半分ほどになっているということです。

表酒店・表聡太郎社長「(ドンペリをめぐる変化は)1番目は値段がすごいということ。(10年で)倍にはなったのではないか。仕入れも倍、売り値も倍、お客様(飲食店)が売る値も倍。倍で済むかな」

クラブやキャバクラなどでのドンペリの価格は、10年前は1本5万円程度だったのが、今は8万円から10万円と1.5倍から2倍に上がっているということです。

ドンペリ高騰の要因のひとつは円安です。4月29日には一時1ドル160円台になるなど、記録的な円安が続いています。

多くの輸入品と同じように、ドンペリもこの円安が高騰を招いていると表社長はとらえたうえで、実は世界を揺るがしたここ数年の出来事が「ドンペリと日本の関係」を決定づけたと考えています。

ドンペリ高騰のもうひとつの要因は「新型コロナ」です。

日本では、新型コロナが2023年5月8日に感染法上の5類に引き下げられ季節性インフルエンザと同じ扱いになりました。行動制限が大幅に緩和されるなどしましたが、それまでは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などで、飲食店の営業は規制された状態が長く続いていました。

このことを踏まえ、高級酒をめぐっての市場にある特徴が出たと表社長は分析します。

表酒店・表聡太郎社長「コロナは世界が全体ロックダウンした。そのあと一番遅く復活したのが日本と中国で欧米が先に復活したということで、ドンペリは全部欧米のほうに2021年、2022年に流れてしまった。品不足になってしまった結果、日本の仕入れの値段が高騰していった」

コロナ禍が落ち着き、日本でも徐々にドンペリの流通は戻りつつあるもののコロナ前のようにはいっていません。現在は比較的安価な種類のシャンパンが売れているということです。

表酒店・表聡太郎社長「販売を欧米から日本に戻そうとしているんだけど、結局円安が進んだので、なかなか向こうの方も『値上げしなければ日本には卸さないよ』ということで値段が上がっていったということじゃないかな。メーカーから聞くとそういう話になっている」

コロナ明けの遅れと記録的な円安、輸入品の販売をめぐる逆風は決して小さくありませんが、ドンペリが消費される現場はうつむいているばかりではないようです。

北陸一の歓楽街・金沢市片町に店を構える「クラブ利恵」

金沢だけでなく東京・銀座にも店を構え、連日たくさんのお客さんが訪れます。名物ママ「利恵ママ」も、各テーブルを忙しく回ります。

シャンパンはひと晩で飲み切るお酒なので、お店にとってはありがたい商品。ドンペリニヨンビンテージ2013は、クラブ利恵では85,800円(税込み)で販売されています。じわりじわりと値段は上げざるを得ない状況が続いています。

それでも、クラブ利恵では月に10本から20本程度は注文され、安定して売れているということです。

クラブ利恵・”利恵ママ”上田利恵さん「うちはすごくシャンパンが出る。ドンペリ含めとっても多い。お客様がすごく素敵な方が多いからそれを追いかけている状態です、私。(円安の影響は)あんまり私は思わない。円安だから売り上げがどうなったとかほとんどないです」

高級クラブとしての確固としたポジションを築けば、そこに集うお客さんは安定して訪れる。円安や物価高を越えた空間が夜の街にはあるようです。

クラブ利恵・”利恵ママ”上田利恵さん「お客様、すべてが高まっていくような上向きのお店づくりをしてるってことですよね」

実際に酒を卸す業者としては、円安と物価高で売り上げは伸びているものの、歓迎するようなことではないととらえています。

表酒店・表聡太郎社長「コロナ前よりも売り上げは上がったが、結局は10%以上は値上げによる売り上げ増なので実在がわからないということもある。輸入品を購入している我々としては、高いものを買ってお客様に申し訳ないけど高く売るっていうのはあまり本意ではない」

円安が続く以上、本意ではない商売を続けざるを得ないことにジレンマを抱えていますが、卸した先の店が今後耐えられるのか。円安をめぐる正念場が続いています。

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