『花咲舞』小田玲奈Pが問う 「女性の社会進出は本当にアップデートされたのか?」

平成の名作ドラマの一つ『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)が、令和版にアップデートして帰ってきた。不正を目撃して“黙っていられない”舞を演じる今田美桜のきっぱりさが小気味よい。

プロデューサーを務めたのは、『家売るオンナ』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』、『ブラッシュアップライフ』と日本テレビが誇るヒット作を手がけてきた小田玲奈。

平成から令和になって価値観が急速に変わりゆく中、なぜ新シリーズを作ることになったのか。制作された経緯から舞の“アップデートした”要素について、そして小田が日テレで印象的な作品を生み出し続けている背景に迫った。(編集部)

■半沢直樹の人選は「あっと驚く、皆様の期待に応えられる人」

ーー反響はいかがですか?

小田玲奈(以下、小田):『花咲舞が黙ってない』をはじめて観た人にも、前のシリーズを好きでいてくれた人にも受け入れられたことが実感できてホッとしました。もちろんはじめから大丈夫だろうと思っていましたが。

ーー旧シリーズ(2014年、2015年)から10年経って新シリーズを作ることになった経緯を教えてください。

小田:10年前、『花咲舞が黙ってない』を制作して以降、日本テレビ的にはずっとまたやりたいと思っていたんです。とくに2016年に池井戸潤先生が新作を描かれたので、これをやりたいという思いがありました。ただ、舞は若さゆえに「お言葉を返すようですが」と切り込んでいくキャラクターなので、25~26歳くらいがふさわしく、年をとっても変わらないというわけにはいかないだろうし、やるなら新キャストで、となりました。そうこうしているうちに、私個人として『ブラッシュアップライフ』(2023年/日本テレビ系)で主人公(安藤サクラ)が日本テレビのプロデューサーをやるというエピソードがあって、みんながよく知っている作品を出したいと思ったとき、『花咲舞が黙ってない』が浮かびました。池井戸さんに許可をいただく連絡をしたら即OKしてくださって。そのご縁もあり、今シリーズで自分がPをすることになりました。

ーー旧シリーズでは小田さんはプロデューサーとしては参加していなかったですよね。

小田:旧作のチーフプロデューサーで、2022年に亡くなった加藤正俊さんは、私がプロデュースした『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』(2021年/日本テレビ系)や『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(2022年/日本テレビ系)のチーフでもあって、加藤さんから受け継いだものがたくさんあります。なので、『花咲舞が黙ってない』も引き継ぎたいと志願してやらせてもらうことになりました。

ーー加藤さんの時代・平成から令和になり、価値観が急速に様変わりするなかで、時代設定はどうなっていますか?

小田:池井戸先生の原作は“世紀末”を舞台にして、銀行が次々と合併していった頃の話を書いていらっしゃいますが、ドラマの時代は広く“現代”としています。原作を読んだ印象では、女性の社会進出が進んでいる描写もあり、すごく今っぽい話だなと思ったんです。いまでも銀行の合併が起きてもおかしくはないですから、そのまま描いています。

ーー原作では半沢直樹が出てきますが……。

小田:原作の帯に『花咲舞VS半沢直樹』と描かれていて、私自身も花咲舞の世界観に半沢直樹はどうやって出てくるのだろうとワクワクしました。ドラマにも出ます。キャストがどうなるんだろうと楽しみにしていただけたら。あっと驚く、皆様の期待に応えられる人が決まっております。

■小田玲奈が“令和版”だと感じた舞の反応

ーー会社のコンプライアンス意識などはどの時代を基準に描いているのでしょうか?

小田:旧シリーズを放送した2014年の頃から、銀行は古い体質なんだというセリフがありましたし、そこはいまも変わらないと取材を通して知りました。私が今回の『花咲舞が黙ってない』で描きたいことのひとつは、女性の社会進出に対する意識はほんとうにアップデートされているのだろうかということなんです。たとえば、第1話だと、羽田支店長の藤枝賢造(迫田孝也)は女性に対して表面上ではそれほど当たりが厳しくはありませんが、舞の異動にあたって「アシスタントとして頑張って」と言います。本心では女性である舞を見下しているんですね。台本を読んだとき現代性があると感じたのはそこでした。舞はその場で、アシスタント扱いされたことに反論はしませんが、実はその言葉に引っかかりを覚えていて、あとあと「お言葉を返すようですが」とぶちまけます。旧シリーズだったら、そういうものだと受け入れていたでしょうし、おそらく、私自身もその反応に違和感を覚えなかったのではないかと思います。でも今回の舞は、言われた瞬間にその言葉に傷つく意識を持っているんです。その場では黙っていましたが、そのまま飲み込むことなく、ここぞというときに言葉にする。そこが令和版かなと感じました。

ーー旧シリーズの舞(杏)の「お言葉を返すようですが」にはためらいがあり、新シリーズの舞はストレートだと感じたのはそういうわけかもしれないですね。

小田:第1話では、今回の舞は迫力があるという感想がSNSでありました。でも、第2話では、会社に裏切られて退職せざるを得なくなった行員・畑仲康晴(三宅弘城)の気持ちに寄り添いながら「裏切り行為です」と言うときは、第1話とは全然違っていて、ちゃんと社員に寄り添えているんです。今回の舞は、相手に寄り添うように「お言葉を返すようですが」とも言うし、ほかにもいろいろなお言葉の返し方があります。

ーーそれは毎回、気になりますね。

小田:第1話では、台本にも書いてあるのですが、自分の思ったことをすぐに言うのではなく、言葉に出せない人たちの代わりに言い、そうすることで社会をより良く変えるのだという覚悟をもっているんです。今田美桜さんは台本の意図を読み込んで体現しています。美桜さん自身もそういう言い方をすることで舞になれたと思うんです。私も見ていて、これなら視聴者に受け入れてもらえると思いました。「お言葉を返すようですが」は悪を成敗するだけの言葉ではない。この先の第6話では、優しい「お言葉を返す」もあります。敵のような人に対する言い方ではないというのは、美桜さんの演技を見て、やってみたいと思ったんです。それだけ美桜さんの舞に新しさを感じています。

■「女性CPが活躍しているドラマ制作部は、今、自慢できる部署です」

ーー旧シリーズは水曜日で、今回は土曜日放送ですが、視聴者層は違いますか?

小田:水曜日と土曜日の視聴者は若干違います。とはいえ、この作品は土曜21時にもフィットすると思っていましたから、旧シリーズとやっていたことを変えようとは考えていませんでした。土曜21時の枠はかつて『家なき子』『金田一少年の事件簿』『ごくせん』など、名作の数々が放送されていた枠です。それが今回、復活するにあたり、日本テレビを代表する枠にもう一度なるための一発目として、日本テレビを代表するドラマである『花咲舞が黙ってない』をやれたことは心強くもあり、絶対に失敗するわけにはいかないという気持ちです。

ーー小田さんは日テレで大ヒットドラマを作り続けています。そうなった理由はどこにあると思いますか?

小田:私が最初に配属されたバラエティーの制作部では、女性スタッフの人数もチャンスも少なかったのですが、ドラマ部では、ドラマは女性が多く観るものだし、同性のほうが視聴者の気持ちがわかるだろうと思われたのか、プロデューサーをやるチャンスがもらえました。そのとき思い浮かんだのは、バラエティーの総合演出をやっていたスタッフたちが、これが当たらなかったら次にやらせてもらえないと一作一作必死でやっている姿でした。バラエティーでは総合演出をやれなかった私が、ドラマでもらったチャンスを絶対に逃すわけにはいかないと思ってデビュー作に取り組みましたし、以降もそういう気持ちでやってきました。その後女性Pが増えて、女性CPが活躍しているドラマ制作部は、今、自慢できる部署です。先輩たちの思いを引き継ぎながら、後輩を後押ししたい。この流れで女性がジャンジャン出世したら日テレはカッコいいと思います。
(文=木俣冬)

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