福士蒼汰、初めての役柄に「躊躇はなかった」 地方での撮休もジム通い「地元の人に混じって」

インタビューに応える福士蒼汰【写真:矢口亨】

映画『湖の女たち』で主演

俳優の福士蒼汰(30)が映画『湖の女たち』(5月17日公開、大森立嗣監督)に主演した。湖畔の介護施設での殺人事件を発端に現在と過去が交錯していくヒューマンミステリー。福士は、容疑者の一人となる介護士(松本まりか)に歪んだ支配欲を持つ刑事役。爽やかなイメージを一転、闇を持った男を演じた。(取材・文=平辻哲也)

好青年役が多い福士が挑むのは、闇を抱えた刑事・圭介。過去にトラウマを抱える先輩刑事の伊佐美(浅野忠信)とともに、施設の介護士たちをしつように責め立て、追い詰めていく。『パレード』『悪人』『横道世之介』『怒り』などで知られる吉田修一氏の同名小説を、『MOTHER マザー』『星の子』の大森立嗣氏が脚本・監督した。

「吉田さんと大森さんという座組がものすごく魅力的で、このお二人なら絶対間違いないと思ったので、役に対して躊躇(ちゅうちょ)はなかったです。こういうタイプの作品は今まで経験したことがなかったので、挑戦したいと思いました。見ていただく方々にどんな感想を持っていただけるかは気になっています」

ただ、役には難しさがあったそうで、「小説を読んでも、圭介を中心に物語が進んでいくというよりは、(物語の)刺激剤のような役柄でした。自分なりに考えを持って現場に入ったのですが、大森さんは『引き算でいいから』という演出をされたので、その場での感情を大事にしました」と振り返る。

引き算の演出とは、こういうことだ。

「エンタメ作品だとキャラ付けもしっかりしないといけないので、今までは“見せる”お芝居をしている感じだったです。かっこよく見える動きや声色を常に考えて臨んでいました。特に時代劇では、いろんなことを勉強して頭に入れないと、演じるその人にはなれない。ですが、今回は状況だけ理解して、むしろ役作りをしない。演じるシーンの瞬間瞬間だけを考えて反射的に動く。頭で考えるのではなく、脊髄でお芝居するという感覚に近かったと思います。スクリーンに映る役者の仕事は、こういうことなんだと思いました」

圭介は妊娠中の妻がいながら、介護士・佳代に強くひかれ、その佳代をサディスティックな言動と行動で支配しようとする。

「なかなか共感するのは難しい役どころでした。ただ、彼なりの信念、正義感があるところは理解できるかなと思います。彼の正義感はすごく魅力的だと思うし、時に葛藤する姿や、少し頑固な部分は似ている、理解できる気がします」

ロケ地は滋賀・琵琶湖周辺で約1か月。撮休もあったそうだが、東京の自宅には帰らず、ホテルで過ごし、いつものようにジム通いした。

「泊まっていたのは目の前に琵琶湖があるホテルで、周辺にはお店が3、4軒しかないような静かな場所でした。最初は松本さん、浅野さんも一緒だったのですが、みなさんは都市部のホテルに移ってしまったので、僕以外にはスタッフの方々しかいなかった。そんな中、ジムを探して、地元の人たちに混じってトレーニングしていました。あえてそういう場所で過ごしたことも役にはよかったのかもしれない」

完成作には、言葉に表せない感情を覚えたという。

「物語は2つの軸があるので、どこに目をつけたかで、捉え方も変わってきてしまうと思っています。例えていうなら、美術館に入ったような感覚です。具象画、抽象画が混じっていて、そこに共通点を見出す人もいれば、共通点はないという人もいる。僕にとって今作は、今まで培ったお芝居を削ぎ落とすというか、なくしていくような作業だったので、新しい世界が広がった」と手応えも感じた。新境地となった作品で、観客がどんな反応を見せるのかを楽しみにしている。

□福士蒼汰(ふくし・そうた)1993年5月30日、東京都出身。身長183センチ、血液型0型。2011年にデビューして以来、数々のドラマや映画で活躍。近年の主な出演作に、ドラマ『星から来たあなた』(23/Prime Video)、『弁護士ソドム』(23/TX)、『大奥』(24/NHK)、『アイのない恋人たち』(24/テレビ朝日)など。WOWOW『アクターズ・ショート・フィルムズ4』では、初監督作品『イツキトミワ』を手がけた。海外作品デビューとなったドラマ『THE HEAD』Season2はHuluで配信中。平辻哲也

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