資源循環は生活者を含むステークホルダーとの協創、連携の輪を広げてこそ

左から勅使川原氏、内藤氏、森田氏

Day1 ブレイクアウト

持続可能な社会の実現に向け、世界の潮流はサーキュラーエコノミーへと加速している。製品やサービスのライフサイクル全体で資源を循環させることで廃棄物を減らし、CO2排出量の削減やプラスチック汚染問題の解決につなげていくことは地球規模の大きな課題だ。資源循環を実装するには各企業の技術革新を共創・連携によって掛け合わせ、生活者の行動変容を促しながら、着実にその輪を広げていくことが欠かせない。先進企業2社の取り組みにそのヒントを見る。(廣末智子)

ファシリテーター
内藤真未・YUIDEA サステナブル・ブランディング事業部 グループリーダー
パネリスト
勅使川原ゆりこ・東レ 環境ソリューション室 室長
森田光雄・日揮ホールディングス サステナビリティ協創ユニット 資源循環・バイオ事業化グループ グループリーダー

プラスチックの負の側面に目を背けてはいけない――東レ・勅使川原氏

ナイロンやポリエステルなどの素材メーカーである東レの勅使川原ゆりこ氏は、冒頭、「私どもは創業から約100年、プラスチックを生業に事業をし、プラスチックを通じて人々の生活を豊かにしてきた。だが一方でプラスチックは化石資源を大量に消費し、製造過程や焼却時に二酸化炭素を排出し、気候変動の原因になっている。この現実に目を背けてはいけないというのが東レの思いだ」と強調。

その上で現在、同社では使用済みプラスチックのマテリアルリサイクルやケミカルリサイクル、バイオマス由来材料への素材の転換、CO2の直接資源化などの技術を通して、化石資源の使用を極力減らしながら廃棄を最小化していく事業に取り組んでいる。資源循環における強みは、回収したリサイクル原資を繊維やフィルム、樹脂などの他領域に、幅広く使いこなす技術を持ち、それをグローバルに展開できるところだと説明した。

循環型社会の実現と海洋プラスチック問題の解決を目指した、東レの「魚網to魚網」のナイロンリサイクルの概要(講演資料より)

具体的にはケミカルリサイクルの事例として、遠洋漁業に使われ、一度廃棄された魚網を回収し、再び漁網へと戻す業界初の取り組みや、より難易度の高いリサイクルでは、使用済みの自動車部品のリサイクルチェーン構築に向け、Hondaグループと共同で亜臨界水解重合技術の工業化の技術実証を進めていることなどを紹介。「資源循環は個社では成し得ない。目指す思いが一緒であるパートナーとともにチェーンをつなげていきたい」と力を込めた。

技術だけあっても資源循環は達成できない――日揮ホールディングス・森田氏

資源循環において何よりもパートナーシップに重きを置くのは、日揮ホールディングスも同じだ。同社の森田光雄氏は所属する「サステナビリティ協創ユニット」について、「サステナビリティの新規事業を立ち上げる部署だが、個社では難しいので『協創』と付いている」と説明。同部署は、事業会社とは別の組織のため、既存の事業に捉われずに自由に動くことができるのも良いところで、約130人のメンバーが、日々、外部のベンチャー企業や大学などあらゆるパートナーと連携、協創の芽を見出し、それを育てるべく動いているという。

日揮グループでは「プラtoプラ」のケミカルリサイクルを進める上で、不純物の混ざり具合によって、モノマー化と油化、ガス化の3つのソリューションを使い分ける。いずれも商業運転実績を持つ世界でも最先端の技術だが、森田氏は「技術だけあっても売れないし、資源循環は達成できない」として、パートナーシップの事例の紹介に移った。

繊維のリサイクルでは、もともとの技術を生み出した化学メーカーや商社と連携し、国内外へのライセンス事業を展開。また持続可能な航空燃料、SAFの大規模生産に向けては、石油元売りと外食チェーンとの3社で新会社をつくり、2025年には大型プラントが稼働予定だ。森田氏は、「イノベーションのための技術協業だったり、パートナーとの仕組みづくりだったり。今こそ協創が必要であり、異業種連携を加速させていきたい」と、協創、連携の言葉を繰り返し述べた。

生活者の行動変容が起きて初めてイノベーションに――YUIDA・内藤氏

2社のプレゼンテーションからは、さまざまな資源循環のチェーンが今まさに実装されるところまで来ていることが示された。ここでファシリテーターの内藤真未氏は、「どれだけ革新的な技術が開発されてもそれだけではイノベーションと呼べないのがイノベーションの難しいところだ。バリューチェーンにおける生活者を含むあらゆるステークホルダーの行動が変わり、その結果、パラダイムシフトが起きて初めてイノベーションと呼べるのではないか」と投げかけ、議論はイノベーションの要となる静脈の仕組みづくり、つまり、原料となる資源をどう回収していくか、がテーマに。

東レでは消費者や各団体が回収のストーリーに参画し、共感してくれることを狙いとする、「&+(アンドプラス)」と名付けた、繊維リサイクルのブランドを立ち上げ、その一環で東京マラソンでペットボトルを回収し、翌年以降の東京マラソンのボランティアウェアに再生する、「おかえりなさいプロジェクト」を毎年実施していることが紹介された。企業側の働きかけによって共感の輪を広げる取り組みの好事例だ。

生活者がそこに参加したくなる仕掛けは、日揮ホールディングスも強力に推し進める。いよいよ実行のフェーズに入った日本産SAFの原料となる廃食油の回収に向けては、「使い終わったてんぷら油で空が飛べる社会を実現させよう」という掛け声のもと、2023年から「全員参加型の脱炭素プロジェクト」を展開中で、今年2月時点で84社が参画するまでに拡大した。大きなエビフライを飛行機に見立てたユニークなポスターはそれだけで目を引くが、たくさんの人が訪れるイベント会場でハンバーガーやフライドポテトに使用した油を回収するブースを出展したり、小学校での出前授業を行うなど、あの手この手で啓発に力を入れているところだという。

日揮ホールディングスは連携企業とともに、「全員参加型の空の脱炭素プロジェクト」を進める。合言葉は「使い終わったてんぷら油で空が飛べる社会を実現させよう」だ(講演資料より)

この話題に内藤氏からは、生活者の目線で「揚げ物の油の処理は本当に大変。もったいないという思いも常にあった。それがエネルギーに生まれ変わるプロジェクトに参画できる喜びは潜在的にあるのではないか」という観点で、廃食油の回収の受け皿ができていくことへの期待が語られる場面もあった。

サーキュラーエコノミーを進める上で、環境価値と経済価値を両立させるにはどうすればよいのか――。「市場での認知度を上げるため、小さくてもつながれる輪をたくさんつくり、資源循環が当たり前だと思ってもらえる世界をつくっていくこと」(勅使川原氏)、「ちょっとやってみようとか、高くても良いものだから買おうよ、というような機運を広げ、制度設計につながるような雰囲気をみんなで作り上げていくことでは」(森田氏)と2氏は思いをはせた。内藤氏は「生活者としてもビジネスパーソンとしても小さな行動を積み重ね、その取り組みを広く発信していきたい」と述べ、セッションを締めくくった。

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