上昇し続ける「金」価格…新NISAで買える「金」投信は? 為替ヘッジあり・なしはどう決める?

世界的に有事ムードが高まり、株式市場が不安定な動きを見せるようになると、たびたび安全資産としての金(ゴールド)に注目が集まる。3月以降の金価格上昇のニュースを目にして「やっぱり金は持っておいた方が良いのでは」と思った人も多いはずだ。あるいは、これまで何度も金投資を検討したものの、「今が高値でこれから下がるのでは」と不安になり、なかなか一歩を踏み出せずにいるという人もいるのではないだろうか。

そこで今回は、新NISAで実現できる、「失敗しない」金投資のポイントについて解説する。

「名バイプレイヤー」として金を取り入れる

金の投資タイミングに翻弄(ほんろう)されてしまう人は総じて、金を保有資産の「主役」として捉えがちだ。「安いところで買って、高いところで売る」のが投資の王道ではあるが、金については、最初から分散投資の一つのパーツ、つまり、「脇役」として考えた方がよい。なぜなら、金に期待する役割は2つあるためだ。

1つは、株式や債券といった伝統的資産の補完。そしてもう1つは、分散効果による運用効率の向上である。分散投資は、時間分散と資産分散の掛け合わせによってその効果が最大限に発揮される。時間分散は、積み立てを実践することで自動的に実現できるが、資産分散を実践するには一工夫を加え、性格の異なる資産を組み合わせる必要がある。例えば、既に株式を保有、あるいは、積み立てているなら、金は格好の分散先と言える。

分散効果を着実に享受するには、購入と売却のタイミングで狼狽するのではなく、ポートフォリオの「緩衝材」として捉えることがまずは重要だ。目安となる割合は、ポートフォリオ全体の10%程度、多くても30%程度と考えておくとよい。

金価格の値動きを投資信託で享受するなら

新NISAで金に投資する方法としては、ETF(上場投資信託)と投資信託がある。投資方針上、金価格の値動きをおおむね捉えるよう設計された追加型公募投資信託のうち、新NISAの対象は16本(2024年4月末現在。すべて成長投資枠のみ)存在する。

※データはすべて2024年4月末時点。筆者作成。
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このうち、「三菱UFJ 純金ファンド」と「ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)/ (為替ヘッジなし)」を除く13本は、金ETFの代表格である「SPDRゴールド・シェア」(「SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト」を含む)と「iシェアーズ ゴールド・トラスト」のいずれか、または、その双方に投資することで、金価格の値動きを捉えるよう設計されている。金価格のベンチマーク・参考指数としては、金現物取引の世界指標であるLBMA金価格が掲げられている。LBMA金価格とは、ロンドン時間の午後に公表される1トロイオンスあたりの金現物価格(米ドル建て)のこと。為替変動の影響を直接受ける「為替ヘッジなし」では円換算ベース、為替変動リスクの軽減を図る「為替ヘッジあり」では円ヘッジベースがそれぞれ使われている。

「ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)/ (為替ヘッジなし)」は、金ETFを用いず、ファンド・オブ・ファンズ形式で実質的に金の現物に投資を行う。また、「三菱UFJ 純金ファンド」は、全16ファンドの中で唯一、日本国内の取引所における金価格を反映するという点に特徴がある。

金価格連動型は、一般的なアクティブファンドのように銘柄選定力を試されるものではなく、実際に、各ファンドの運用成績に大きな差は見られない。強いていえば、国内金価格を反映する「三菱UFJ 純金ファンド」だけ、他のファンドと比べて運用成績に若干の差が生じるぐらいだ。単品で保有するというよりは、あくまでもポートフォリオの一部として取り入れるタイプの商品のため、特定のファンドにこだわりすぎない方が良い。

「為替ヘッジのあり/なし」はどう判断すれば良いか

外貨建て資産に投資を行わない「三菱UFJ 純金ファンド」を除く15ファンドを、為替ヘッジの有無で整理すると、「ヘッジあり」は8本、「ヘッジなし」は7本。どのシリーズも、基本的に為替ヘッジ「あり」と「なし」がペアで展開されているので、好みに合わせて選択することもできる。

一般的に金価格は、株や米ドルの値動きと逆相関の関係にあるとされる。市場でリスク回避的な動きがあり、米ドルベースの金価格が上昇する局面では、ドルが売られ、為替が円高方向に振れることが多い。せっかく金価格が上昇しても、円高が進むとリターンも押し下げられてしまう。したがって、理論上は、「為替ヘッジあり」を選んだ方が、為替変動による負の影響も取り除かれ、資産分散効果を着実に享受できる。

しかしながら、現実には金価格と米ドルは必ずしもセオリー通りの値動きを見せるわけではない。現に、足元数年は、金価格が上昇しても、ドルが売られるどころか買われ、円安が進行している。「為替ヘッジなし」を選び、為替変動を含む金価格の値動きをダイレクトに享受した方が良いだろう。

「時代に合った」バランス型は一括投資にも

また、金をあらかじめポートフォリオの「緩衝材」として取り入れたバランス型ファンドもある。バランス型の場合、金を組み入れている理由が明白で、個別の投資信託を自分で組み合わせなくても、より手軽に資産分散が実現できるというメリットがある。

その一例が、ピクテ・ジャパンの「ピクテ・ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:ポラリス)」である。当ファンドは、2020年6月の設定で、金利上昇局面を見越して組成された「時代に合った」バランス型ファンドと言える。

では、このファンドの何が「時代に合っている」のか。日本を含む世界の株式と債券に加え、金を投資対象としているところまでは、過去に設定された類似のバランス型と変わらないのだが、各資産の配分比率の調整方法に特徴がある。具体的には、取ったリスクに見合う、魅力的なリターン(リスクプレミアム)が期待できる資産を都度選定し、配分を調整する点に特徴がある。例えば、低金利環境下で、利息を生まない資産である金の魅力が相対的に高い時は金の組入れ比率を高くし、一方で、金利上昇時は、金の比率を下げ、債券の比率を高めるといった対応を行う。この結果、低金利局面と高金利局面の双方でリターンの獲得が期待できるというわけだ。

月次報告書によると、3月末時点の配分比率は、株式が42.7%、債券が9.8%、金が44.5%となっている。設定当初は債券の組み入れがなく、株式と金で約5割ずつという配分だったが、1年半ほど前から債券も組み入れている。積極的なリターンを目指すだけでなく、資産保全の色合いも持つファンドであり、まとまった資金の投資先としてもおすすめしたい。

篠田 尚子/楽天証券資産づくり研究所 副所長 兼 ファンドアナリスト

慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【2024年新制度対応版】NISA&iDeCo完全ガイド』『FP&投資信託のプロが教える新NISA完全ガイド』(ともにSBクリエイティブ)。

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