山中でも「スマホ依存」の危険! 必須「4つのキーワード」で「地図読み」登山体験

地図読みの知識は登山アプリを使いこなすのにも必要だ(撮影:佐野春佳)

本格的な登山シーズンに突入し、手軽で便利な登山アプリで山歩きを楽しむ人は多いだろう。しかし、アプリに頼り切りでは、スマホが使用できなくなった場合に遭難などのリスクが高まるため、最低限、地図読みスキルは身につけておきたい。

今回は、プロ登山ガイドのヤマタロウさんによる地図読み講習をレポートする。地図読みの習得だけでなく、スキルを学ぶべき理由についても伺った。地図読みは奥が深いため、ここでは「絶対に押さえておいてほしい基本」に的を絞って紹介する。

ヤマタロウさんは、これまでに北海道や東北で13年以上登山ガイドとして活躍され、mont-bellではショップの店長として10年以上勤務された経験をもつ。登山経験だけでなく、ギアの知識も豊富だ。2024年4月1日にプロ登山ガイドとして独立されたが、すでにさまざまな方面からガイドツアーの問い合わせがあるという。

登山ガイド歴13年以上のヤマタロウさん。爽やかな笑顔が印象的(撮影:佐野春佳)

■地図読みのスキルを学ぶべき理由

地図読み講習の前に、ヤマタロウさんに「地図読みを学ぶべき理由」について話を伺った。地図読みスキルを身につけるべき理由は下記の2つ。

・道迷いのリスクが下がる ・スマホが使えなくなった場合の事故リスクが下がる

「遭難事故で最も多い道迷いは、登山道が複数あったり、分岐が多い山で発生しやすい」のだという。関西で人気の六甲山系は、低山かつ整備が進んでいる場所であるにも関わらず、毎年遭難者が絶えない。要因として登山ルートが非常に多く、なおかつ道が網目のように入り組んでいる点が挙げられる。

地図と知識があれば、地形の特徴などから現在地を割り出したり、方角を推定できるため、正しい登山道を選択でき、道迷いのリスクを格段に低くできる。また、たとえコースアウトしても本ルートへの復帰も迅速に行えるのだ。

さらに「スマホで手軽に利用できる登山アプリが普及、進歩しており、地図が読めなくても登山が“できてしまう”ため、スマホに頼った登山になってしまいがちなのが問題です」とヤマタロウさんは続けた。

スマホに依存した登山は、電波が届かない、地図をダウンロードし忘れた、バッテリーが切れたなど、スマホが利用できないと身動きが取れなくなってしまう。

スマホが利用できない事態などに備え、「危機管理の1つ」として地図読み技術は身につけておくべきなのである。

■地図読みの基本<座学編>

地図読み講習は、地図の基本を学ぶ「座学」からスタート。講習を受けるのは、北海道様似(さまに)町にあるアポイ岳。

地図の入手方法や縮尺、地図読みで重要な尾根と沢の判別など筆者のような初心者でも理解できるよう、丁寧な講習会となった。地図読みのキーワードは、「尾根」「沢」「等高線」「トラバース」だ。

●地図読み前に押さえるべきポイント

まずは縮尺2万5000分の1スケールの地形図を準備しよう。大型書店やネット販売などで地形図の原本を購入するのが理想だが、インターネットから地形図を印刷することも可能だ。ヤマタロウさんのおすすめは、「Map25000」。シンプルな操作で、2万5000分の1地形図が印刷できる。

また、WEB上で山の地形を確認したい場合は、国土地理院のGSI Mapsが操作性がよく使いやすい。ただし、縮尺設定ができないため印刷して利用するには不向きであることを覚えておこう。

地形図を利用する際のポイントは下記の通り。

・2万5000分の1スケールの地形図を準備 ・縮尺は「4cm=1km」(2万5000分の1スケールの場合) ・等高線の間隔は10mおき(2万5000分の1スケールの場合)

等高線は、線と線の間が狭いと急斜面、間隔が広いとなだらかな斜面であることを示している。

大抵の地形図には欄外に縮尺とスケールがあるが、ない場合はメモしておこう

また、余裕があれば5万分の1スケールの地形図があると便利。2万5000分の1の地形図よりも広範囲をカバーできるため、山の名前や全体の地形がわかりやすい。

●尾根と沢を見分けよう

続いて、基本中の基本である「尾根」と「沢」の判別。アポイ岳のビジターセンター前のベンチで地形図を広げ、色鉛筆で尾根と沢を分ける作業を行った。

尾根と沢を判別する際の基本とコツは下記の通り。

【尾根】
「標高が高いところから低いところに向けて、等高線が出っ張っているところに線を引く」のが基本。周囲に記載されている標高を意識すると間違えにくい。

【沢】
「等高線が低いところから高いところに向けて、出っ張っているところに線を繋ぐ」ことで判別。地形図に描かれている大きな川を起点として、上流に遡って線を引くのがコツ。

地形図をよく見て、尾根と沢を色分けしていく(撮影:佐野春佳)

主要な尾根と沢を地形図に書き込む。アポイ岳は山頂から東西南北に尾根が延びており、非常にわかりやすい地形だ。実際に手を動かして作業すると、尾根と尾根の間に沢がある様子がよくわかる。

■地図読みのやり方<実践編>

座学のあとは、いよいよ実践編に突入。実際にアポイ岳に登りながら、地図読みのノウハウを教わる。アポイ岳の登山ルートである「アポイ岳ジオパークビジターセンター」から「アポイ岳山頂」までの前半部分の登山道は、「トラバース」と呼ばれる移動をメインに設計されている。

トラバースとは、斜面を横切って移動すること。地形図上では、等高線に沿うように歩くことになり、実際は登り斜面と下り斜面(崖)に挟まれたところを進むイメージだ。

トラバースしながらチェックポイントである避難小屋を目指して進み、到着したところで地形図と景色を一致させる作業を行った。

目の前の風景を観察し、自分が向いている方向を確認する。このとき太平洋が見えたため、地形図上では海が描かれている方向を向いていることがわかる。

また、避難小屋の地点からは川の流水音が聞こえた。川は見えないが、地形図を確認すると、音源は「コトニ川」である可能性が高い。

反対側を向くと山が見える。なお、地形図上では等高線の間隔が狭いため、この先は急斜面を登ることが予想される。

実際に尾根を登っていくと、予想通り急勾配の斜面が現れた。逆に等高線の間隔が広いと、緩くなだらかな斜面となる。

急斜面を登りきり、無事に登頂。GPSを一切使用せず、紙の地図だけで登頂した達成感は大きい。

GPSを使わず、紙の地図だけで登頂した達成感は大きい(撮影:佐野春佳)

下山は、太平洋に向かって尾根を下るルートを選択。2万5000分の1スケールの地形図では太平洋は描かれていないため、広域地図で確認する。

このころになると、地図読みにも少し慣れ、進行方向に描かれている等高線の様子から、急斜面を下りるのかと予想できるようになった。傾斜のきつい下り道が苦手な筆者は、両手が使えるようにカメラをバックパックにしまった。

実際に歩いていくと、想定通り急な下り坂が現れたが、事前に下り斜面対応の準備をしていたおかげで、慌てずに済んだ。

アポイ岳山頂から太平洋に向かって尾根を下りる途中、ヤマタロウさんから「ここは地形図上のどこでしょう。また、標高は何メートルでしょう」という問題が出された。ヒントは地形の特徴と等高線だ。

これまで歩いてきた道と今いる場所を観察すると、下記の特徴に気がついた。

・下りてきた道は、両手を使うような「急斜面」であった ・目の前の道は、手を使わなくても進める「緩やかな斜面」である

つまり、地形図上において、歩いてきた尾根のライン上で等高線の間隔が「狭い→広い」に変化している場所を探すことで、現在地が導き出せることがわかった。

現在地がわかれば標高もわかる。地図を確認して、一番近くにある標高と現在地までの間に等高線が何本あるかを数えれば、あとは簡単な計算をするだけだ。

具体的な計算手順は下記の通り。

1. 地形図で下記のポイントを確認する。 ・一番近くにある標高は、「593m(約590mとする)」 ・590m地点と現在地の間にある等高線は「3本」 2. 等高線の間隔は10mおきなので、[ 590m+(3×10m)= 620m ]と計算できる

したがって、現在地の標高はおよそ620mとわかる。

今回は「登山口」の看板やロープがあるためわかりやすかったが、場所によってはロープなどがないことも多く、進むべき道を見落としてしまうため注意が必要だ。

筆者が現在地の特定で悩んでいると、「自分がどこを歩いているのかを常に意識しておくことが大切」とアドバイスをいただいた。

「ただなんとなく歩いているだけでは、確認すべき分岐ポイントや重要な地形を見逃してしまう」という指摘には耳が痛いが、この点を意識するだけでも道迷いのリスクは大幅に低くなるはずだ。

■地図読みのやり方とポイント

これから地図読みを身につけたい人に向けて、学び方のポイントを紹介したい

1. わかる人に実践的に教えてもらう 2. GPSなどを併用して自分で学ぶ

特におすすめは一つ目の「わかる人に実践的に教えてもらう」だ。できれば、しっかりと経験を積んだ人に、現地で不明点を聞きながら教わると理解も早い。今回のように、プロの登山ガイドが行う地図読み講習会に参加するのもおすすめだ。

また、GPSなどを併用して独学する場合は、座学で地形図に尾根や沢を書き込み、現地で確認、GPSで答え合わせをするイメージで行うといいようだ。

そして、プロの指導や独学に関わらず、地図読み上達で最も重要な点は「反復練習」。山の地形はありとあらゆるバリエーションがあるため、何度も反復することで地図読みスキルがぐんぐんアップする。

「繰り返しトレーニングすると、平面だった地形図が立体的に見えるようになるため、登山のおもしろさが倍増する」というヤマタロウさんの言葉が印象的だった。

■地図読みは登山者全員に身につけてほしい技術

今回は、地図読み技術の基本について、プロの登山ガイドによる地図読み講習会に参加した内容をベースに紹介した。

紙の地図にあまり馴染みのない筆者だが、当初考えていたほどの難しさはなかった。むしろ、特徴的な地形や川の配置、海の方向、斜面の緩急や標高などから現在地を推測するプロセスは、パズルを解いているような感覚であった。

尾根と沢、トラバースなど自分が歩いている場所を理解するだけでも、現在地を把握するのに役立つため、地図読み技術は重要なリスクヘッジとなる。

今回の講師であるヤマタロウさんの公式Instagramなどもぜひ覗いてもらいたい。地図読み技術だけでなく、登山に役立つ情報が満載だ。

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