ロシア軍、ウクライナ国境の町ヴォヴチャンスクに侵入 北東部への越境攻撃続き数千人が避難

ウクライナ北東部ハルキウ州への越境攻撃をしているロシア軍は13日、国境沿いの町ヴォヴチャンスクに入ったと発表した。同町はウクライナ第2の都市ハルキウに近い。

一方のウクライナ軍は、ヴォヴチャンスクの北郊から「敵を押し返し」、いくつかの地域で「戦術的成功」を収めたとしている。

ロシアは10日に仕掛けたハルキウ州への越境攻撃で、これまでに少なくとも九つの村や集落を占領し、攻撃を強化している。この越境攻撃は2022年2月のウクライナ全面侵攻開始以来、最も重要な地上攻撃の一つ。

攻撃を受け、住民数千人がハルキウ市方面に避難している。

ウクライナ軍の指揮官たちの間では、ロシア軍がハルキウ市を砲撃できる範囲内に到達したら何が起こり得るのかをめぐって懸念が広がっている。

ウクライナ軍は、ロシアが最新の攻撃で「かなりの兵力」(最大で5大隊)を投入したとし、ロシア軍がいくらかの「戦術的成功」を収めたことを認めた。

しかし、13日夕の声明では、ロシア側が同日に100人以上の兵士を失い、ウクライナ軍がかつての陣地を取り戻しつつあると説明した。

また、12地域で戦闘が続いており、ヴォヴチャンスクの西に位置する集落スタリツァにまで広がっているとした。

ウクライナ軍はこの声明に先立ち、防衛強化のために予備部隊がハルキウ州へ移動していると明らかにしていた。

これとは別に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は夕方の演説で、新たな司令官がハルキウ州の部隊を指揮することになったと発表した。

この司令官はミハイロ・ドラパティイ准将で、いつ前任のユーリー・ハルシュキン准将を引き継いだのか、大統領は明かさなかった。

ハルキウ市から74キロメートルの位置にあるヴォヴチャンスクはここ数日、激しい砲撃を受けている。周辺地域の当局者によると、ロシアは現在、滑空爆弾を使って複数の集落を狙っているという。

ヴォヴチャンスクはハルキウ州の重要な町ではあるものの、軍事的に特に重要というわけではない。それでも、ロシア軍がヴォヴチャンスクを占領すれば、ウクライナ側の士気に打撃を与えるだろう。

ハルキウ州のオレフ・シネグボフ知事は、ロシアは新たな方向に向けて小規模集団による攻撃を行うことで、意図的に前線をのばそうとしていると述べた。

ロイター通信によると、シネグボフ知事は地元テレビ局に対し、ウクライナ軍はロシア軍を食い止めているが、戦闘が新たな集落へと広がる可能性があると警告した。

シネグボフ氏は、ロシア軍が前進を続けており、状況は「かなり複雑」だと、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿した。

また、すでに6000人近くが避難し、30集落が迫撃砲や砲弾による攻撃を受けたと付け加えた。

ヴォヴチャンスクには依然、200~300人ほどが残っているという。

ハルキウ市へ逃れる人々

ロシア軍の越境攻撃でハルキウ市が占領される可能性は低いと思われる。しかし、ウクライナ北東部の新たな前線にロシア軍が徐々に近づいているという現実は、同地域で暮らす人々の不安を増大させる一方だ。

ハルキウ市の援助拠点には、戦闘地域に近い町や村から逃れた人々が数百人単位で到着している。

自宅を離れた人々は食料が与えられ、シェルターの利用登録を行う。

ヴォヴチャンスクの住民、ヴェニアミンさん(87)は12日にロシア軍に包囲された町を離れ、安全な場所まで15キロの道のりを自転車をこいで移動してきたと、BBCに語った。

移動中は激しい砲撃だけでなく、「双方から機関銃の音が聞こえた」という。

「あの場所にいられるような状況ではなく、走らなければならなかった」とヴェニアミンさんは述べた。そして、町の電気と水の供給は寸断されていたとも付け加えた。

ヴォヴチャンスクの別の住民、リューダさんは、近くの村に住む家族と一緒に避難した。

「機関銃の音が聞こえて、戦闘が近づいているのがわかったので避難した」と、リューダさんは述べた。

2022年2月にロシア軍が侵攻してきた時には、町に残ったという。

「私たちは生き延びて、(この状況に)慣れていた」

同年後半にウクライナ軍が戻ってくると、生活は改善した。しかし、今回のロシア軍の攻撃は「すごく怖かった」という。

ナディアさんと夫、母親の3人は、ロシア軍が国境を越えて再び侵入してきたリプツィ村の近くから逃れてきた。

3人は飼い犬2匹と所持品をさびついた車に詰め込み、ハルキウ市に向かった。

夫は、そこから離れれば「自分たちが持っていたすべてが失われてしまうから」地元に残りたがっていたという。

しかし、地元の行政機関から、いま立ち去らなければ足止めされる危険性があると言われたのだという。

「私たちは2022年に占領下で暮らしていた。また占領下に置かれたくはない」

ヴォヴチャンスクを離れたコスティヤンティン・ティムチェンコさんは、戦闘がどれほど間近に迫っていたのかということにショックを受けたと語った。

「(ヴォヴチャ川の)反対側に(ロシア軍が)、もう一方に我々の軍がいた」

「戦車は絶えず、近づいてきては撃ち返して、離れていくことを繰り返している。私は大丈夫だろうと思っていたので、ショックだった。(こうなることを)事前に知っておきたかった」

ウクライナ東部やロシア西部でも攻撃が報告

ロシア占領下のウクライナ東部ドネツク市では砲撃で2人が死亡したと、ロシアに任命された市長は主張している。

ウクライナ東部のロシア支配地域ルハンスク州・クラスノドン(ウクライナ語でソロキン)の工業地帯への攻撃では、少なくとも3人が死亡したと、ロシアの支援を受ける州知事が述べた。

これとは別に、ウクライナの治安当局筋は、ウクライナ軍がロシア西部の石油ターミナルと変電所を攻撃したと話した。

ロシアは、2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミアのいくつかの地域の上空で、ウクライナのドローン(無人機)31機を撃墜したとしている。

アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)は13日、議会が承認した数百億ドル規模の対ウクライナ軍事支援の一部が、「今週中」にも戦場に投入されるだろうと記者団に述べた。

そして、アメリカがウクライナに緊急に武器を提供するために「我々自身も、同盟国も、人事を尽くしている」と付け加えた。

(英語記事 Russia says troops enter border town near Kharkiv

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