進化止まらぬラグビーリーグワン、世界クラスの大量来日だけじゃない理由 選手も肌で実感「毎試合キツい」

BL東京でプレーするリーチマイケル、リーグワンの進化を「毎試合キツい」と実感している【写真:Getty Images】

リーグワン・プレーオフ展望 BL東京ブラックアダーHC&リーチ主将単独インタビュー前編

国内最高峰を争うジャパン・ラグビー・リーグワンは、レギュラーシーズンを終えて5月18日から上位4チームによるプレーオフが始まる。リーグ戦では、昨季王座を逃した埼玉ワイルドナイツが圧倒的な強さを見せ16戦全勝の1位通過。覇権を賭けたノックアウトトーナメントで“野武士軍団”の躍進を止めるチームが出てくるのか。昨季のリーグ5位から2位へジャンプアップして、打倒・ワイルドナイツの急先鋒と期待の東芝ブレイブルーパス東京リーチマイケル主将、トッドブラックアダー・ヘッドコーチ(HC)に、リーグの進化、そしてプレーオフの覇権の行方を聞いた。(取材・文=吉田 宏)

◇ ◇ ◇

“最強の刺客”を率いる闘将が、国内最強リーグの進化を振り返った。

「リーグワンは(前身の)トップリーグ時代も含めて、今シーズンが一番厳しい戦いだと思っています。どの試合も100%準備して、100%のメンタリティーで臨まないと負けてしまう。東芝(BL東京)も(三重)ホンダ(ヒート)に1点差で勝ったり、そういう試合が増えてきている。トップと下の差がどんどん狭くなっている気がします」

誕生から3シーズン目のレギュラーシーズンを終えたばかりのリーチ主将は、今季の戦いにこんな感触を語っている。昨秋のワールドカップ(W杯)でも日本代表不動のFLとして全4試合に先発出場。世界最高峰の舞台で戦い続けた男にとっても、W杯直後に開幕したリーグは過去最高水準だと実感しているのだ。

「まず世界のトップレベルの選手、コーチが数多く来日している。ハイレベルのコーチングを受けた人たちが日本に来て、それをどんどんチームに落とし込んでいる。スキルだったり、スクラム、ラインアウト、ゲームプランだったり。後は、選手一人ひとりも上手になっていると感じています」

スター選手が大挙して来日している現実をリーグのレベルアップの大きな要因だと認めながら、個々の能力だけではなく、選手やコーチが持つ高いスキルや経験値、取り組み方などをリーグワンに落とし込むことで、チーム自体がクオリティーを上げている。リーグワンの進化については、クルセイダーズ(ニュージーランド)、バース(イングランド)など南北半球の名門チームで選手、指導者として経験を積んできたブラックアダーHCも認めている。

「選手、コーチを含めて全体を見渡すと、やはり経験に関しての投資がしっかり出来ていると思います。世界中でも本当に優秀なコーチ陣が指導していることで、試合へ向けた1週間をどう選手に過ごさせるかという環境の面で、プロフェッショナリズムが感じられます。トレーニングをどう選手に意識させ、期待感や責任感を、どう持たせるのか。後は、全体を通じてスタンダードのクオリティーを上げることが出来ていると思います」

就任5シーズン目の指揮官は、今季の自分たちの進化について「選手層」「リーダーシップ」「一貫性」という3項目を指摘している。これは言い換えれば、ゲームメンバー23人が、準備してきたプレーを80分のゲームの中でいかにプラン通りに遂行できるかだ。そのための選手層であり、リーダーシップであり、一貫性になる。多くの世界クラスの流入が始まって数シーズンになるが、BL東京に止まらず今季は優れた中心選手の活躍だけではなく15人全員、そしてベンチスタートの選手や、メンバー入りのチャンスを掴んだ選手たちにもクオリティーアップがみられたことが、リーグ自体の底上げに繋がっていると考えていいだろう。

単独インタビューでリーグワンの進化を語ったリーチ【写真:吉田宏】

リーグワンの進化は日本選手の成長も影響

リーチも、リーグワンの進化には、海外トップ選手の流入と同時に日本選手の成長も影響していると指摘する。

「海外のコーチはもちろんチームに大きな影響を与えているし、後は現役の代表選手の影響は大きいですね。世界チャンピオンの選手も何人もいる。(ピーターステフ)デュトイ(トヨタヴェルブリッツ、No8)と体を当てたり、アーロン・スミス(同、SH)と一緒にプレー出来るんですから」

デュトイは2019年のワールドラグビー年間最優秀選手で、同年、23年W杯での南アフリカ代表の連覇を支えたコアメンバー。スミスはニュージーランド代表の主力SHとして23年大会でも決勝の舞台で活躍している。そんな世界有数の選手と80分間、直接戦うことによる日本選手の成長をリーチは実感している。

「若手にも強い選手がどんどん出てきています。そういう選手は、2015年なら2人くらいしかいなかった。でも今は世界で活躍出来る選手がすごく増えてきています。ウチの選手で名前を挙げるなら、(原田)衛(HO)ですね。強さもあるし、賢い選手。ラインアウトスローもいいし、フィットネスもある。かなりトップレベルで通用する選手だと思います」

日本代表の欠かせないメンバーとして活躍してきたHO堀江翔太(埼玉WK)が今季限りでの引退を表明している中で、堀江と共に日本代表を牽引してきたリーチの目には、ポスト堀江として期待する日本選手も見えてきているのだ。

リーグの進化は数値からも読み取れる。今季と昨季のレギュラーシーズンを比べてみると、7点差以内の接戦は24試合から33試合と1.4倍に増えたのに対して、20点差以上のゲームは38試合から36試合とわずかだが減っている。この微減の内訳を見てみると、今季圧倒的な強さを見せてきた埼玉WKの20点差以上をつけた勝利が11試合に上っている。今季同様にリーグ戦を1位通過した昨季は、20点差以上の大勝はわずか5試合。プレーオフを制したS船橋も同じく5試合だったことを考えると、今季の埼玉WKの“独り勝ち状態”を除くと「大差負け」は数値以上に少ないと考えてもいい。

同時に注目したいのは反則数だ。昨季は1試合平均で12.13個だった反則が、今季は10.26に減少している。反則数を即進化とみなすのは早計だが、どの指導者も反則が敗因と成り得る深刻な問題であり、その抑制を重視しているのは、昨秋のW杯でも、世界クラスのコーチが集まるリーグワンでも変わらない。ゲームの質が上がれば、反則などのミスが勝負に大きく影響するのはラグビーの鉄則だ。ブラックアダーHCの「スタンダードのクオリティーを上げることが出来ている」という指摘に当てはまる数値と解釈していいだろう。

そんな進化を続けるリーグを「毎試合キツい」と力説するリーチだが、中でも印象に残る試合として1月14日に行われた第5節、三重H戦を挙げている。

「一発目の(三重)ホンダ戦。あれはキツかったですね。フィジカルも強かったが、いいコーチがいて、いいゲームプランを立ててきて、(BL東京を)こうやって崩そうというのを感じましたね。どんどんボールを僕らの裏に蹴ってきて、プレッシャーも受けてしまいました。ラインブレークも結構してきた。外国人選手が(フィジカル面で)強いイメージもありましたね」

最終スコアは40-12。前半を終えて26-5と優位に立ちながら、後半は14-7と圧倒できなかったゲームだったが、リーチが振り返るように、南アフリカ代表LOフランコ・モスタートや突進力のあるNo8ヴィリアミ・アフ・カイポウリらのフィジカルチャレンジに苦しみ、ディビジョン1昇格1シーズン目の相手に手を焼いたゲームだった。

リーグのレベルアップを感じる中で、BL東京が昨季のリーグ戦5位から2位へと浮上したことは、リーチにとっても大きな自信になったという。ここで、簡単なチームデータを見てみよう。BL東京の昨季からの数値を見てみると、1試合平均得点は34.9から34.6、失点で24.6から23.3、反則数も11.7個から10.8と微増減の範囲だ。強いて顕著な変化があるとしたら、チームランキングで失点数が昨季の6位から2位に上がったことくらいだろう。だが、数値上は大きな変化がなくてもリーチは進化に手応えを感じているのだ。

「今季の戦いぶりは自信になります。最後の最後に勝ちきれることは大事だし、リードを守り切ることも自信になります。どんな状況になっても、最後にトライを獲る、スコアする、守り切ることが出来るという自信があります」

4月27日の府中ダービーを制してリーチ(左)とともに会見に臨んだブラックアダーHC、BL東京の進化を感じている【写真:吉田宏】

ブラックアダーHCが見るBL東京の進化、成長

基本的な数値に昨季から大きな変化がなくても、ゲームの詳細を見ると様相は異なってくる。例えば7点差の接戦となった試合の数を見ると、昨季の2勝3敗から5勝1分けに変わっている。リーチが指摘する「勝ちきれる」「守り切れる」勝負強いチームへの変容がみられる。

今季のチームの進化、成長を、ブラックアダーHCはどう見ているのだろうか。

「いまのチームのパフォーマンスが出来るまでに3、4年の時間がかかりました。今シーズンの好調の理由は、やはり選手層(の厚み)であり、一貫性を持ってプレー出来ていることかなと思います。当然、リーダーシップも作り出せている。ここまでに要した時間は、まぁ想像通りくらいかなと思います。正しいタイミングでプランをしっかりと導入出来ていると思っています。例えばリッチー(モウンガ)とシャノン(フリゼル)が今季加入しましたが、これが昨シーズンだったら、上手くいかなかったかなと思います。今シーズン来てくれたことが、チームの自然な発展のためにはいいタイミングだった」

指揮官の思い描く進化を遂げる前の段階でモウンガらが加入したとすれば、このチームは彼らレジェンド級の選手に完全に依存してしまっていた恐れがあった。だが今季のチームは、選手個々が求められるプレーを遂行できるレベルに達しているからこそ、スーパースターのプレーを補い、そのパフォーマンスを十分に引き出し、組織として機能させることに成功しているのだ。このタイミングで過去に主将を務めたリーチ・マイケルに再登板を託した思惑も聞いてみた。

「リーチに関しても、リッチーとシャノンが今季加わる中で、やはり世界で尊敬を受ける存在がリーダーとして必要だなと思っていました。キャプテンというのは、様々な要求も多い役割ではありますが、そこで素晴らしい仕事をしてくれています」

最大限の効果が期待されるタイミングで世界トップクラスの選手を獲得して、彼らも一目置くリーダーを選ぶ――。こんなブラックアダーHCのキャスティング能力も、このチームの躍進を支えている。

このような指揮官の戦略も背景にしながら、チームはリーグ戦2位で2シーズンぶりのプレーオフ進出を決めた。接戦は多いものの、順位、データを見ても、打倒埼玉WKの筆頭候補と位置付けていいだろう。では、このチャレンジャーは、ノックアウトトーナメントをどう戦い、今季唯一の敗戦を喫した埼玉WKをどう分析し、挑んでいくのだろうか。後編では、ブラックアダーHC、リーチ主将の言葉から、プレーオフの行方、いかに最強の相手と戦うのかを考える。

吉田 宏 / Hiroshi Yoshida

© 株式会社Creative2