「つばさの党」の”選挙妨害”立件へ…「表現の自由」の主張はどこまで認められるか?【弁護士解説】

つばさの党本部事務所が入っているマンション(東京都千代田区/弁護士JP編集部)

警視庁は13日午前、政治団体「つばさの党」による衆議院東京15区での選挙妨害事件について、千代田区内の事務所等に公職選挙法違反(選挙の自由妨害)の容疑で捜索に入った。つばさの党は、選挙期間中に度重なる警告が行われたにもかかわらず妨害行為を繰り返しており、悪質性が高いとの判断によるものとみられる。

つばさの党は一連の行為について「表現の自由、政治活動の自由」の範囲内の行為という旨の主張を行っている。そうした主張にどこまでの正当性があるのか。また、妨害行為を防ぐ実効性のあるペナルティはどこまで認められるか。国会議員秘書・市議会議員の経歴がある三葛敦志弁護士に聞いた。

つばさの党の「表現の自由・政治活動の自由」の主張の正当性は?

──つばさの党は一連の妨害行為について、憲法上保障される「表現の自由・政治活動の自由」の範囲内だとしています。この主張は認められますか?

三葛敦志弁護士:「報道等を見る限り、つばさの党の主張について、表現の自由・政治活動の自由を逸脱する部分があると考えられるため、主張が全面的に認められるとは思えません。

もちろん、つばさの党には表現の自由・政治活動の自由が保障されています。しかし、今回の件については問題状況が異なります。

つばさの党の一連の妨害行為は、公職選挙法225条の『選挙の自由妨害罪』の要件に該当すると考えられます。

対立陣営の運動員への暴行・脅迫は『暴行若しくは威力を加え(中略)たとき』(同条1号)に該当します。また、大音量での妨害は『演説を妨害し(中略)たとき』(同条2号)に該当します。

そして、同条につき違憲という議論は聞いたことがありません。選挙だからといって何でも許されるわけではないということです。

なお、つばさの党に『表現の自由・政治活動の自由』があるように、妨害されている側の陣営にも『表現の自由・政治活動の自由』があります。また、聴衆にはそれらと表裏一体のものとして『演説を聞く自由』もあります。

さらに、別の場所で街頭演説等の選挙運動を行うことは十分可能であるとともに、他陣営に対しては公開質問状で見解を求める等、別の方法による主張は十分に可能です。

つまり、つばさの党の主張は、保護されるべき対立利益があることや、他の穏当な手段を選びうることを念頭に置いていないという点に問題があると考えられます」

表現の自由・政治活動の自由の制約は慎重を期すべき

──本件は、「表現の自由・政治活動の自由」とはかかわりがないという理解でよいでしょうか。

三葛敦志弁護士:「かかわりがないとするのは正確ではありませんが、今回の件については、つばさの党の一連の『行為』の違法性が突出しており、政策を伝えることは他の手段による方法もありうることから、表現の自由・政治活動の自由そのものとはズレていると考えます。

しかし、他方で、他陣営の選挙運動に対して何らかの敵対的な行為をすることが直ちに『選挙の自由妨害罪』になるのか、という問題は残ります。

報道によれば、今回のつばさの党による選挙妨害は、①大音量等による演説妨害、②選挙カーの追い回し、③選挙スタッフへの暴行脅迫に大別されるとみられます。

これらの行為について、本件を離れて一般的に考えると、③の暴行脅迫が明らかである場合はともかく、①演説妨害、②選挙カーの追い回しについては、慎重な判断が要求されると考えるべきです。

まず、①演説妨害については、選挙演説中にヤジを飛ばしたら、直ちに『演説を妨害し』(法225条2号)に該当するわけではありません。単純なヤジ程度であれば、リアクションの一つ、表現の自由の正当な行使の一環として許容されると考えるべきです。

②選挙カーの追い回しについて、たとえば一本道で選挙カーのコースがかぶることはしばしばあります。その際に、前に通った選挙カーが言っていたことを、後ろの選挙カーが否定することはあり得ることで、これを直ちに選挙の自由妨害とは言えないでしょう。なお、公選法上、走行中は『連呼行為』しかできません。

政治活動や表現活動は、なにがしかの行動・出力を伴います。そして、それらが憲法上の重要な権利である以上、処罰に値するというには、主張・表現の内容ではなく、あくまでも行為態様が『度を越している』と言えなければならないのです。その範囲を慎重に画する必要があると考えています」

──選挙期間中の妨害行為に対する規制の強化が一部で議論されていますが。

三葛敦志弁護士:「私は、規制の強化については慎重であるべきだと考えています。

なぜなら、すでに公職選挙法の『選挙の自由妨害罪』は、妨害行為についてかなり網羅的に処罰する規定となっているからです。それに加えてさらに規制を強化するとなると、『表現の自由』『政治活動の自由』に対する過度の制約になりかねず、萎縮効果をもたらすおそれがあります。

むしろ問題は、現在の『選挙の自由妨害罪』の運用のあり方にあると考えています。警察は選挙期間中の逮捕にかなり『及び腰』だという実情があります」

警察が「選挙期間中の逮捕」に踏み切るのはなぜ困難なのか

──警察が選挙期間中の逮捕に及び腰だというのは、どういうことでしょうか?

三葛敦志弁護士:「前述したように、妨害行為にあたるか否かの認定については慎重を期さなければなりません。そうなると、必然的に、現場に臨場した警察官が現場で判断するのは難しくなります。

それに加えて、選挙の場合、警察官の立場としてはとりわけ慎重にならざるを得ません。なぜなら、警察という国家権力が介入したせいで選挙結果が左右されたとの批判を受けかねないからです。

特に、北海道警が、ヤジを飛ばした一般人を排除したことが裁判で『違法』と判断されたことは、警察にとって一種のトラウマのようになっているようです(札幌地裁令和4年3月25日、札幌高裁令和5年6月22日参照)。

そのため、選挙期間中の現場判断として、現行犯逮捕がかなり難しくなるのは、やむを得ない面があるといえます。

しかし、他方で、妨害行為に対して警察が『及び腰』になることも、健全な民主主義のためには避けなければなりません。

今回の件のように、妨害行為が放置されれば、『選挙期間中なら逮捕されない』として、妨害側はやりたい放題と受け止められかねません。そうなれば、かえって選挙の公正が害され、民主政の過程がゆがめられることになってしまいます」

衆議院東京15区の選挙ポスター(東京都江東区/弁護士JP編集部)

警察が選挙運動期間中に逮捕に踏み切るためには

──警察の行動規範として、具体的にどのようなものが考えられますか?

三葛敦志弁護士:「これは一つの案ですが、妨害行為が常態化し、警察が警告しても事態が改善されない場合に、前述のとおり現場判断としての現行犯逮捕が難しいにしても、警察が裁判官の令状を得て選挙期間中にも逮捕に踏み切ること、逮捕しないまでもそれがありうると示すことは、現行法のもとで執りうる手段です。

裁判官も慎重に判断することにはなろうかと思いますが、『選挙中だから警察は強制的な手段に出ない』という間違ったメッセージを正す必要はあるでしょう。

今回、選挙期間中の4月21日に、街頭演説会での暴行罪(刑法208条)容疑での現行犯逮捕者が出ました。これは、警察官の面前で暴行行為が行われ、犯罪事実が明白だったからです。なお、後日、容疑が選挙の自由妨害罪に切り替えられました。

選挙期間中であっても、少なくとも、犯罪事実が明白な場合であれば現行犯逮捕が認められるということが示されたのです。

妨害行為に対して警察が警告しても、それが無視されて妨害行為が繰り返されているような場合については、裁判官が認めた逮捕令状に基づいて逮捕するという運用が有効なのではないかと考えます。

今回、選挙期間中の4月21日に、街頭演説会での暴行罪(刑法208条)容疑での現行犯逮捕者が出ました。これは、警察官の面前で暴行行為が行われ、犯罪事実が明白だったからです。後日、容疑が選挙の自由妨害罪に切り替えられました。

選挙期間中であっても、少なくとも、犯罪事実が明白な場合であれば現行犯逮捕は認められます。ましてや、通常逮捕ができないという理由はないはずです」

──組織的に行われる妨害行為については、行為者の特定や犯罪行為の特定が難しくなることが予想されますが?

三葛敦志弁護士:「今日では必ずしもそうとは言い切れません。証拠を揃えることは十分に可能です。

たとえば、妨害行為が行われている現場を撮影した動画や写真等の記録が考えられます。これは、行為者と犯罪行為を特定することができる有力な証拠となりえます。

なお、路上等で公然と犯罪行為が行われている場合、証拠保全のために相当な方法で行われる撮影行為については、判例によれば、行為者の肖像権の侵害等の問題は生じないとされています(最高裁昭和44年12月24日判決)。

また、大音量での演説妨害については、スマートフォンの騒音計測アプリを用いて測定することも考えられます。技術の進歩によりこうした手軽な方法が出現しています。

これらによって、犯罪行為の内容、日時、行為者等を特定することは比較的容易だと考えられます」

──運動員だけでなく、候補者や責任者が直接手を下していない場合に、いわゆる『共謀共同正犯』として立件することも考えられるでしょうか?

三葛敦志弁護士:「明らかな指示や、主体的に関わっていたというのであれば、立件の余地はあります。しかし、これも慎重に判断する必要があります。そうでなければ、権力側が濫用しかねないからです。一方で、それにより政党や政治団体の解散命令が出されるとなると、政治活動の自由の見地から大きな問題となります。

『共謀共同正犯』は、客観的な実行行為を行っていないにもかかわらず、共同正犯(刑法60条)として処罰するものです。そして、その認定については、自ら手を下したと同視できるだけの主導的な役割を果たしていたか、客観的な事実を基に慎重に判断することが求められます」

選挙妨害に対する抑止力を高めるための「有効なペナルティ」とは

──今回、選挙期間後に捜索が行われていますが、あくまでも事後的なものになっています。先ほどおっしゃった選挙期間中に警察が逮捕に踏み切るための方法以外に、選挙妨害に対する抑止力を高めるための有効なペナルティはありますでしょうか?たとえば、公民権停止のようなものはどうでしょうか?

三葛敦志弁護士:「公民権の停止というのは、参政権、つまり主権者として民主政に関わる権利を一定期間にわたって奪うものであり、きわめて重い人権制約になるので、設けるとしても厳格な要件の下で認めるようにすべきと考えています。

他方で、本件のような場合、妨害行為がエスカレートする理由として、妨害行為を撮影した動画をSNSに投稿することにより収益を得られることが考えられます。そこで、より実効性が高い方法として、犯罪行為と認められたときに、その収益を必要的に没収することを提案します。

自陣営による選挙妨害行為を利用して収益を得るような行為は、これによって抑止できます。収益がなければ、こうした行為は長続きが難しくなります。

また、いわゆる『インプレゾンビ』、つまり選挙の結果よりも動画のアクセス数を稼ぐような迷惑系動画アカウント等の対策としても効果を発揮しえます。

他方で、共謀を広く認定することや、政党や政治団体の解散命令についての定めを置くことなどは、権力側がこれを濫用しかねないので、きわめて慎重に考えるべきです」

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