『M2 iPad Air』『Apple Pencil Pro』先行レビュー 魅力的な体験を引き出してくれる“振動と利便性”

2024年5月15日、Appleは第6世代となる新しいiPad Airを発売する。プロセッサにM3を採用し、シリーズで初めて13インチのモデルがラインアップに加わるなど、パワフルなアップデートが行われた同機種。今回は同時に発表されたApple Pencil ProとともにiPad Airの13インチモデルをAppleからお借りすることができた。短い時間ではあるものの、数日使ってみた感想を交えてレビューをお届けしたい。

新しいiPad Airは先日行われたApple Special Event『Let Loose.』にて発表された。発表の詳細についてここで振り返ることはしないが、iPad Airの発表においてインパクトがあったのは「M2プロセッサの搭載」「13インチモデルの登場」だろう。

2022年に発表された前モデルのiPad AirはM1プロセッサを、同時に発表されたiPad ProはM2プロセッサをそれぞれ搭載していたので、今回いずれもがアップデートされた形である。新しいiPad Airに搭載されているM2プロセッサは2年前に発表されたプロセッサだが、5ナノメートルのプロセスルールで設計された8コアのCPU、10コアのGPU、16コアのニューラルエンジンを備えているため省電力性・計算性能はいずれも高く、新世代のM3プロセッサと比べても、通常の用途においては実行能力に大幅な差異が生まれることはない。3Dレンダリングや4K動画の編集など、GPUを長時間専有する作業においては作業時間・発熱効率の差が生まれるものだが、もっとも、そうした作業を頻繁に行うユーザーにとって、M4プロセッサを搭載したiPad Proは強力な選択肢になるだろう。

もう一つのインパクトである「13インチモデルの登場」は多くのユーザーにとって嬉しいニュースになるはずだ。これまでiPad Proにしか無かった大画面のモデルをリーズナブルに手に入れることが可能になった。13インチモデルではスピーカーのパワフルさも強調されており、11インチモデルに比べて低音の音質が2倍向上するという。ちなみに11インチと13インチでは画面の最大輝度にも若干違いがあり、11インチは500ニト、13インチは600ニトとなっている。リッチな音で大きな画面でコンテンツを楽しめることは大画面化において真っ先に浮かぶ恩恵だが、iPad OS16で登場し、17で改良が加えられたマルチウインドウ機能「Stage Manager」をより有効に使えるということも嬉しいポイントだ。

さて、実際に製品を見てみよう。今回お借りしたのはパープルのモデルで、同梱のSmart Folioの色も合わせたものになっていた。本体の重さはWi-Fiモデルが617g、Wi-Fi + Cellularモデルが618g。厚さは6.1mmで11インチモデルと同様だ。

普段、私はiPad miniにSmart Folioを着けて使用しているのだが、サイズが大きくなるだけでもだいぶ印象が変わる。

Smart Folioは今回再設計されており、角度を自由に変更できる。この設計は非常に便利で感心した。Sidecar機能を使うときにもMacに合わせて角度を調整できるので非常に便利だ。

今回のモデルからカメラが長辺の中心に備わっており、Smart Folioを使っていても補正無しでカメラを中心に捉えることができる。

先ほどプロセッサのパワフルさを求めるならiPad Proを選択するのがよいと記載したが、搭載されているM2プロセッサは前世代のiPad Proに搭載されたものであり、3Dレンダリングや動画編集などにも対応するほか、ニューラルエンジンを活用するアプリケーションも軽快に動作する。現行ラインアップの中ではエントリーモデルの「iPad」とプロフェッショナルのための「iPad Pro」の間に位置付けられたハイパフォーマンスを発揮するミドルレンジモデルであり、「たまに動画の編集もするけれど、普段は画像の閲覧がメイン」「出先でのプレゼンに使うので13インチの大画面がほしいけど、iPad Proのスペックは必要ない」といったユーザーにとって、iPad Airは待望の選択肢となるはずだ。

また、新iPad Airは最新のApple Pencilである『Apple Pencil Pro』に対応するのも特徴だ。『Apple Pencil Pro』は筆圧検知やホバー表示に加え、新たにペンの回転(バレルロール)やスクリブル(ペン先端へのメニュー表示)に対応し、さらにこうした動作に対して細やかな触覚フィードバックが行われる。「探す」機能に対応したのもポイントだ。

なんとApple Pencilの"影"も映るようになった。これは実像ではなく画面上に描画された影であり、Apple Pencilの角度を変えると影もこれに追従する。驚きなのはなんとペンの種類を変えると影の形も変わることである。鉛筆、消しゴム、蛍光ペン、ロットリングなど、それぞれに違う影が現れるのが面白い! 遊び心と実用性が両立された機能であり、ついApple Pencilを傾けて眺めてしまう。

また、触覚フィードバックの操作感が非常に楽しいのも伝えたいところだ。絵心のない私には線を引いたり、文字を書いたりする程度のデモしかできないのが心苦しいのだが、Apple Pencil Proにはそんな私でも思わず握ってしまう楽しさがある。ちょっとした振動が返ってくるだけでも体験が豊かになるという実感に、Appleが「人の振る舞いを電気信号に変え、そのフィードバックを返す」という事について考え続けているメーカーであることを思い出す。私はApple Pencilは初代から紙原稿の赤字入れや写真の簡単なレタッチに使っており、特に今回の「バレルロール」の実装はレタッチに活かせそうだと感じた。イギリスのスペシャルイベントで聞いたところによると写真管理・編集ソフトの「Adobe Lightroom」は対応予定とのことで、アップデートを心待ちにしている。

そろそろまとめに入ろう。M系プロセッサを持つiPadのみが対応する「Stage Manager」の機能やApple Pencil Proの登場は、新しいiPad Airを使ううえでは強力な武器となるだろう。大画面の体験がリーズナブルな価格で手に入るようになったことを歓迎したい。新しいiPad Airは特に以下のようなユーザーに薦められる製品だと感じた。

・初めてiPadを買うユーザー
今後はM系プロセッサとそれに対応するソフトウェアの発展が確実だ。これからiPadを買うユーザにはぜひM2プロセッサを搭載したiPad Airをおすすめしたい。様々な用途にパワフルに応えてくれるだろう。

・Apple Pencil Proを使ってみたいが、iPad Proは必要ないというユーザー
現在、Apple Pencil Proに対応しているのは今回発表されたiPad ProとiPad AIrの2機種のみ。特に描き味に敏感なユーザーであれば、iPad Proの120Hzで駆動するOLEDは魅力的な選択肢になるだろう。ただ、そこまでのスペックは必要ないと思うなら、iPad Airは魅力的だ。60HzのLiquid RetinaもP3の色域に対応しており、非常に美しい。

・大画面を求めていたユーザー
プレゼンテーションや写真の確認など、「画面の大きさが欲しい」という用途も多い。「プロセッサやディスプレイのスペックは問わず、13インチのiPadが欲しい」ということであれば、iPad Airは最良の選択肢になる。

・Macの子機のように使いたいユーザー
「仕事はMacでするのだけど、外出先でちょっとした確認や編集作業をするのにiPadでは心もとない」というユーザーにもiPad Airを検討してみて欲しい。普段はSidecarで外部ディスプレイのように使い、外出時にはスッと本体を携帯。Wi-Fi + Cellularモデルであればどこでも通信できるし、1日中持つバッテリーも心強い。

(文=白石倖介)

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