ElevationSpace、宇宙環境利用回収プラットフォームの着水衝撃実験に成功

東北大学発スタートアップElevationSpace(仙台市青葉区)は5月14日、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機「あおば」の着水衝撃試験に成功したことを発表した。

試験は、海上で回収するときに着水の衝撃がカプセルや貨物(ペイロード)に与える影響を確認し、カプセルの構造設計などに問題がないことを確認することが目的。

ELS-Rは、宇宙で実験や実証を実施した後で高推力のハイブリッドスラスタで地球低軌道(LEO)から離脱して大気圏に再突入。衛星本体から分離した回収カプセルが大気圏を燃え尽きずに突破して、一定の高度になってからカプセルのサイドパネルを展開することで内側のパラシュートが引き出され、緩やかに降下し、海上に着水する手順となっている。

大気圏再突入・回収では、「軌道離脱推進」「再突入」「回収」というすべての技術を実現する必要があると説明。なかでも再突入する回収カプセルの構造設計、パラシュートを展開して速度を下げて降下する技術は重要度の高い技術課題と位置付けている。ELS-Rは、地球に帰還した回収カプセルの内部にあるペイロードをユーザーに引き渡すことから内容物への影響を最小限に着水させる必要があるとしている。

今回の実験では、カプセル構造の耐衝撃性能を確認し、複数角度での着水時衝撃加速度データの取得に成功したという。実験は4月24~26日に福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で実施した。

着水衝撃実験の様子(出典:ElevationSpace)

回収カプセルの開発では、2018年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が成功させた国際宇宙ステーション(ISSUE)からの物資回収ミッション「HTV搭載小型回収カプセル(HTV Small Re-entry Capsule:HSRC)」と知見を踏まえており、JAXAでHSRCの開発を主導した渡邉泰秀氏を技術顧問に迎え、開発したと説明する。

あおばでは、HSRCと同様の円錐台形の形状やHSRCで実証された熱防護材(アブレーター)を使用することで信頼性を保ちつつ、サイドパネルの保持開放機構などにはElevationSpaceが独自に開発した技術を採用することでコストを抑えるとしている。

サイドパネル展開試験に使用した回収カプセルの試験用モデル(出典:ElevationSpace)

ISSが周回している高度2000km以下のLEOはアクセスや物資の補給や回収が比較的容易であることから、2023年に発表された宇宙基本計画の中で「宇宙環境利用のための貴重な場」と位置付けられており、「Artemis」計画をはじめとして月より遠い宇宙空間の活動で必要となる技術の獲得や実証の場として利用していくことが明言されている。

基礎科学的な実験から産業利用まで幅広く利用されているISSは、構造寿命などの関係から2030年末に運用することが決定しており、宇宙環境利用の場を継続的に確保することが課題になっている。

こうした背景からElevationSpaceは「ポストISS」を見据えてELS-Rの提供を目指している。

ELS-Rは、無重力環境を生かした実証や実験を無人の小型衛星で実施、それを地球に帰還させてユーザーに返す国内で初めてのサービスになるものと期待されている。

ELS-Rでは、さらに成果物を帰還させられることから宇宙で実証した材料やコンポーネントを地上でより詳細に解析可能であり、高品質な宇宙実証環境を提供することで民間事業者などのさらなる宇宙産業促進や宇宙産業力強化に貢献することを目指していると説明する。

ELS-Rの実現では、回収カプセルが燃え尽きずに、損傷させずに地球に帰還させるための「大気圏突入・回収」技術が不可欠となっている。この技術を獲得している民間企業はほとんど存在せず、国内ではElevationSpaceだけが挑戦している技術と解説する。

ELS-Rの流れ(出典:ElevationSpace)

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ElevationSpaceプレスリリース

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