シシド・カフカさんが考える、誰もが楽しめる"音楽"のかたち。「聴覚障害がある人たちとも音楽を共有できる」

2024年5月11日に開催された「ゆるスポーツランド2024」でお披露目された楽器「ハグドラム」。光と振動で感じることができるこの楽器の開発にメンターとして携わったのは、シシド・カフカさんがコンダクターを務める即興パフォーマンスグループのel tempo(エル・テンポ)。聴覚障害がある人など、誰もが楽しめる「音楽」の実現のために大切なこととは。

聴覚障害がある人も音楽の演奏を一緒に楽しめたなら…。そんな思いが形となった楽器「ハグドラム」が、2024年5月11日に東京・錦糸町のすみだ産業会館で開催された「ゆるスポーツランド2024」でお披露目されました。

ハグドラムは、叩いた音を光と振動で感じることができる打楽器。ソニーグループのデザイン部門であるクリエイティブセンターが、あらゆる人が楽しめる体験の創出を目指し開発した新しいタイプのドラムです。

打面の中心を叩くと低音、縁を叩くと高音が出て、それぞれ異なる光を放つハグドラム。胴体の2カ所には振動するスピーカーを搭載しており、抱えた際に脇腹に触れる内側からは自分の叩いた音が、腕に触れる外側からは一緒に演奏する合奏者の音が振動として再現され、聴覚障害がある人もリズムを共有しやすくなっています。

Hirohiko Namba / OTEMOTO

約1年の試行錯誤を経て完成したというハグドラムの開発にメンターとして携わったのは、自身も打楽器奏者のシシド・カフカさんがコンダクターを務める、即興パフォーマンスグループのel tempo。2021年に開催された東京パラリンピックの閉会式にも出演し、さまざまなハンドサイン(手の動きや指の形を使った表現)を用いたパフォーマンスが話題となりました。

すべての人に楽器を演奏する喜びを提供するプロジェクト「世界ゆるミュージック協会」のブースも出展した今回のイベントのオープニングでは、el tempoのメンバーと手話エンターテインメント発信団「oioi」の岡﨑伸彦さんと中川綾二さんが、ハグドラムを使ったパフォーマンスを披露。打楽器ならではの演奏時のダイナミックな動きに、ハグドラムが放つ色鮮やかな光と軽快な音が加わり、観客の視線を釘付けにしていました。

撮影:千々岩友美

「楽器の形になる前の段階から開発に携わってきたものが、こうして立派な楽器としてお披露目できて嬉しい。新しい楽器で、新しい形で感覚を共有しながら音楽ができるのはすごいことです」と話したシシドさん。観客たちにも手拍子を呼びかけた一体感のあるパフォーマンスで、会場を沸かせていました。

シシドさんは、「音が聞こえている私たちにとって、振動の存在はある意味で当たり前の存在。ですが、oioiのお二人から『リズムを感じられないことが怖い』というお話を聞いて、私たちもリズムをとる際に振動に助けられているなと思ったんです。今回は感覚を共有する手段として振動に辿り着きましたが、より細やかに気を配ることで、さまざまな人と一緒に音楽を共有できることに気づくことができました」と振り返ります。

シシド・カフカさんとel tempoのメンバー、「oioi」の岡﨑伸彦さんと中川綾二さん、世界ゆるスポーツ協会の代表理事・澤田智洋さん撮影:千々岩友美

ハンドサインを用いた即興パフォーマンスや、光と振動で感覚を共有できるハグドラム。el tempo、そしてシシドさんの、誰もが楽しむことができる音楽の実現のための挑戦は続きます。

「ハンドサインを使い、さまざまな人と音楽を共有できることは多くの可能性を秘めています。メンターとしてハグドラムの開発に携わったことは私たちにとっても大きな財産となったので、今回のことをきっかけに、聴覚障害以外の障がいがある方々とも楽器や音楽を共有していきたいと思っています」

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