「好きなんです、この仕事が」時刻表にない列車で日夜奮闘…新幹線なら“ドクターイエロー” では在来線は?

時刻表にも乗っていない列車が、終電後の深夜、人知れず線路を走るそう…。時々瀬戸大橋を渡り、本州から四国へやってくる謎に包まれた列車、その正体に迫りました()。

謎の列車の正体は!? JR四国を直撃

本州と四国を結ぶ交通の大動脈、瀬戸大橋。
高速道路の下に設けられた鉄路「瀬戸大橋線」には列車がひっきりなしに行き交います。
新型コロナ前には、年間700万人を超す乗客を運んできました。

そんな瀬戸大橋線、つかの間の静寂が訪れるのは深夜…のはずでしたが…。

(城 健大呂記者)
「瀬戸大橋の見える場所に来ています。時刻は現在午前1時を回ったところで、最終電車は終っているはずなのですが、本州から四国に向けて列車が走っていきます」

深夜に人知れず走るナゾの列車。
一体どういう事なのでしょうか。

その正体に迫るべく、我々はJR四国を直撃。
交渉を重ねた結果、取材する機会を得ることができました。

深夜の駅…“ドクターイエロー”の在来線版とは…

待ち合わせ場所として指定されたのは、深夜の伊予大洲駅。
日が変わって午前0時半ごろ。
我々が立つホームに向けて、見慣れない列車がやってきました。

車体全体に施された黄色いラインが特徴的な列車。
これは一体…?

(JR四国 工務部保線課・山本 翼さん)
「こちらの車両は、正式名称『総合検測車』というんですが、車両の形式名が『キヤ141系』ということで、当社では『キヤ車』と呼んでいる」

見られれば幸運と言われる黄色い新幹線「ドクターイエロー」の在来線版ともいえるこちらの列車。

なぞらえて、鉄道ファンの間では「ドクターWEST」と呼ばれることもあるそう。
時刻表に掲載されておらず、その存在はほとんど知られていない幻の列車。
テレビカメラが初めて入りました。

精度0.1ミリ単位!車内には様々な検測装置が…

狭いドアをくぐり、通路を奥へ。
ベッドが備え付けられた休憩室を左手に進むと、ところ狭しと並べられた様々な検測装置が並んでいて、まるでコンピュータールームのよう。

その車内の一角に据え付けられた複数のモニターには、車両前方の様子と、線路の状態を示すグラフなどが、リアルタイムで映し出されています。

(JR四国 松山保線区・児谷 吉紘助役)
「走りながら『軌道変位』のチャートが常時出てくる。レールの長手方向の高低の変異と、左右の変異、それにレールの幅」

その精度、なんと0.1ミリ単位なんだとか。
今まさに走行している線路の状態、ごくわずかな変化も、見逃すことなく詳細に測定され、記録されていきます。

「予讃線は高松を起点として、宇和島が終着のキロ表示になる。今日は『上り』検測なので、数値がどんどん減っていく」

総合検測車「ドクターWEST」は、時速70キロを超す速度で、予讃線を松山方面に 向けて走り続けます。

その「目」となるのは、高性能のカメラのほかにレーザー測定器、そして磁場の変化を観測する装置です。

列車が走り始めてしばらく経ったとき、プリンターからグラフが印刷された紙が出てきました。

「一定の基準を超えたときに出てくる紙。列車を抑止する必要がある値なのかどうかを、添乗している人間が確認する」

そんな紙が手渡されるたび、保守を担当する職員は、それを食い入るように見つめます。モニターを見つめるその目は、真剣そのものです。

日々の作業が“数値”に…即補修の場合も…

総合検測車「ドクターWEST」の走行点検で大きな異常が見つかった場合には、車で並走している社員が、すぐに緊急の補修作業にあたるそう。

「日ごろ我々が行っている保守や修繕が、直接こうして数値として出てくるので、やはり緊張はする」

伊予大洲駅を出た総合検測車「ドクターWEST」は、長いトンネルを抜けて伊予市内に。
これまでのところ、モニターに映し出されているグラフに大きな乱れは確認できません。

進行方向とモニターの位置が逆になると…

例えば、高速で走る特急列車が行き交う区間のうち、特にカーブの急な地点では、線路に掛かる負担が大きくなるそう。

―――数値は正確に出ますか?
「出ますね、もう正直に、全て出ちゃうので…。やはり直したところは良くなっているし、手を掛けられなかったところは、ちょっと大きな値が出ているので、次に生かしていく」

ちなみに特殊な車両ならではの、こんな苦労もあるそうで。

「『下り』計測の時は、進んでいる方向とモニターの位置が同じなので酔わないが、反対の場合、気持ち悪くなる、最初は…」

気の休まる瞬間は無さそうです。

―――伊予市駅に着きましたね。
「松山駅まであと少し、とりあえず大丈夫だと思う」

伊予大洲駅を出発しておよそ1時間。
総合検測車「ドクターWEST」は、未明の松山駅へと滑り込みました。

「ほっとひと安心というところ」

この日行われた検査では、大きな異常は見つかりませんでした。

「好きなんです、この仕事が」日の当たる職場ではないのかもしれないが…

「及第点は貰えたのかなという感じ。日の当たる職場ではないのかもしれないが…。自分たちが安全を守っているという意識を持って自負を持ってやっている。そういう仕事で、私は好きなんです、この仕事が」

(JR四国 工務部保線課・山本 翼さん)
「ひとつとして同じような線路はなくて、場所によって特性があり、多種多様な補修方法もあるので、上がって来た結果を基に補修計画を作成するということが、一番大変というか、苦労する点」

総合検測車「ドクターWEST」による検査結果は、その後の保線作業に生かされます。

深夜のホームに見慣れない車両が…現れた「マルタイの男」たち

別の日。
我々が案内されたのは西条市内の予讃線。作業に向けた打ち合わせが行われます。

雨の降る肌寒い深夜。
ホームの片隅には、またしても見慣れない車両がありました。

(JR四国 松山保線区・兵藤 道清助役)
「『マルチプルタイタンパー』通称『マルタイ』です」

――マルチプルタイタンパー?
「プラッサー&トイラー社という会社名で、プラッサーさんとトイラーさんという人が作った会社のよう」

オーストリアの重機メーカー、プラッサー&トイラー社製のマルチプルタイタンパー。なんだか色々と、ただ者ではないこの車両が、線路の保線作業に威力を発揮するそう。

線路の安全を守る縁の下の力持ちに密着です。

滑らかな線路の秘密は…レールを持ち上げて爪を突き刺す『クランプ』

終電の到着を待って始まったこの日の作業。
数時間後には貨物列車の通過が控えています。

線路上を走行しながらレールのゆがみや、沈み込んだ枕木の修正を行うことができるのが、マルチプルタイタンパーの特長です。

―――こちらの『クランプ』はどういう働きを?
「レールを持ち上げる、レールを挟んで持ち上げる。挟んで持ち上げたところを、この『タンピング』で締め固める」

マルチプルタイタンパーの中央付近に設置された巨大な金属の爪が、枕木の間に突き刺さり…。線路の下に敷き詰められた石を、振動により締め固めます。こちらの工程をひたすら繰り返すことで、滑らかな線路が維持されます。

マルチプルタイタンパーには無数のセンサーが取り付けられていて、作業の多くは自動化されていますが、人の手も不可欠です。例えば、枕木のすき間に爪を突き刺すこの工程は、人の目によるものです。

「かなり難しい」ミスしたら線路悪く…神経すり減らす作業

「間隔が少しでもずれると、どちらかに寄ってしまったりするので、締め固めが甘くなる。全て同じ圧で締め固めたいので、綺麗な間隔で爪を落とすのは難しい」

ともすれば枕木の破壊にも繋がりかねない、神経をすり減らす作業です。

(JR四国社員)
「かなり難しい。少しでもミスをしたら、線路を悪くしてしまう可能性があるので」

機械での補修ができない踏み切りや橋、電気設備などは避けなければならず、作業は、車両の前後に設けられた運転台と操作台が緊密に連携しながら、慎重に進められます。

この夜、およそ2時間半を掛けて、1.5キロの区間で保線作業が行われました。

「線路は昔から『生き物』と言われる。全然自分たちの思っていることと違う動きをする」

―――慣れている保線専門の人でも読み切れないことがある?
「あります、あります」
「線路が静かになったねとか言われると、やはりやりがいを感じる」

謎の列車…その正体は「検測車両」「保線車両」でした

終電後の深夜、人知れず走る列車。その正体は、線路の安全を守る検測車両と保線車両でした。

そこには、毎日の鉄道運行を支えるべく奮闘する、多くの人たちの姿がありました()。

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