長谷川智也(越谷アルファーズ)、執念の「ザ・ショット1&2」——B2プレーオフセミファイナル サイドストーリー

B2レギュラーシーズンを35勝25敗(勝率.583)の東地区2位で乗り切ってプレーオフに進出した越谷アルファーズが、セミファイナルでアルティーリ千葉に2連勝してB1昇格を決めた。B2初参戦の2019-20シーズンから5シーズン目。初めてプレーオフ進出を果たし、3位の座に就いた2020-21シーズンから4年目。関係者にとってまさしく念願の勝利だった。

©B.LEAGUE

今シーズンの越谷は、2年前に宇都宮ブレックスをB1王座獲得に導いた安齋竜三がヘッドコーチとして率いる初シーズンだった。しかし序盤戦から、最終的に56勝4敗(勝率.933)という歴史に残る快進撃で東地区王者となったA千葉に独走を許したままレギュラーシーズンを終えた。思うような成果を出せずもどかしさの中で過ごした約8ヵ月間、安齋HCから聞かれた言葉は、「最後までやり続けられない」、「遂行力が伴っていない」といった厳しい内容が多かった。

チームをまとめるべきキャプテンの長谷川智也としても、非常に難しいシーズンだったに違いない。長谷川は、2013年に越谷の前身である大塚商会アルファーズで自身のキャリアをスタートさせたベテランだ。その後いったんチームを離れたが、4年前の2020年に現在の越谷にカムバック。2020-21シーズンから現在まで、22-23シーズン前半戦を除く長期間キャプテンを務めてきた。古株のリーダーとしてこれまでのチームカルチャーに責任がある立場であり、その良さを残しながら、安齋HC体制で目指す新機軸に沿って既存・新戦力の融合を図らなければならない。非常に難しいことだ。

レギュラーシーズン中の長谷川は、指揮官の思いを受け止めながら、コート上で思うように表現できないふがいなさを自覚するような言葉をたびたびもらしていた。

5月12日のセミファイナルGAME2でベンチから戦況を見つめる長谷川智也。表情に闘志があふれている(写真/©B.LEAGUE)

昨年11月19日にホームアリーナのウイング・ハット春日部で神戸ストークスに敗れた後にも、そんな言葉が聞かれた。この試合は第4Q開始時点で59-57とリード。その後点差を開くチャンスもたびたび訪れたが、それを自らのターンオーバーで生かせないまま、逆に最後の10分間を10-20と上回られて69-77で敗れた。

「相手がミスしてくれた後、トランジションでの判断で、練習から何度かミスが出てしまっています。そこが僕らの弱いところ。チャンスにたたみかけられる力がまだ僕らにはありません…」

終盤に勝ち切れない、やり通せない、ここぞでミスが出る…。その原因は、長谷川の見方としては「気持ちの部分がほとんど」。そんな言葉を聞いて、安齋HCと長谷川以下のメンバーが望むものが乖離している印象だった。もしそうだとしたら、チームがばらばらになってもおかしくない難局だが、そんな印象はシーズン後半になっても拭い去られないままだった。

苦悶するキャプテンを指揮官は信頼した

ただし、それでも安齋HCが長谷川を信頼し、買っていることは、シーズンの序盤戦から感じられてもいた。昨年10月22日に千葉ポートアリーナでA千葉を89-71で破った後、この試合でミドルジャンパー1本を決めての2得点に2リバウンド、1アシストを記録した長谷川を、安齋HCは以下のように高く評価していた。

「(長谷川の活躍は)僕が期待していたところ。プレータイムもどんどん少なくなって自分のプレーが出せていない悔しさもあったはず。でもチームをベンチからまとめるすごく重要な仕事をやりながら、今日はチャンスが来た時にしっかりと自分のプレーを遂行してくれました」

得点はもちろんだが、そのほかのダーティーワークが指揮官の信頼につながった。「そういうところを既存の選手たちが頑張れるようなってきたというのがすごくうれしいです。それを見た新加入の選手たちがもっともっと伸ばしていくようなチームになればいいのかなと思います」

長谷川が最終的に55試合に出場したことからも、安齋HCの信頼感は感じられる。コートに立つ時間はキャリアローの12分6秒だったが、毎試合、長谷川が必要だったのだ。

「キャップ(長谷川)がコートに入ったときの安心感は特別」。アルファメイトからのそんなメッセージがSNSで発信されたのも一度や二度ではない。一方では、出場時間が抑えられた長谷川の平均4.0得点は直近4シーズンの最低値ではあったが、3P成功率40.9%はキャリアで2番目に高く、キャリアハイにあと0.1ポイントという数字。形としては、安齋HCが信じて投入したキャプテン長谷川が短時間に執念のハッスルを提供することで、アルファメイトもチームを信じられるという構図になっていた。そこに高確率のショットメイクが伴えば、チームにエナジーをもたらす爆発的な瞬間が訪れる。安齋HCはそれを感じていたのだろう。

まさしくそんな流れが起こったのが、セミファイナルGAME2だ。長谷川はGAME1では出番を得られなかった。しかし、越谷ベンチ裏の一画を中心に陣取るアルファメイトたちは、長谷川がいつものようにベンチで声を出し、活発なジェスチャーで選手たちを鼓舞する姿を見逃してはいない。B1昇格がかかったGAME2で、きめ細やかな貢献をし続けたキャプテンにチャンスが巡ってきたときに、彼らのボルテージはひと際高まった。

©B.LEAGUE

そんな瞬間が最初に訪れたのは第1Q残り40秒だ。長谷川のスティールから始まったオフェンスのセカンドチャンスで、長谷川自身の3Pショットがさく裂し、越谷が16-15とリードを奪う。アルファメイトたちの「レッツゴー・アルファーズ!」の声が力強さを増した。

次に長谷川の時間が訪れたのは第4Q残り約8分半から。コートに入って早々の残り7分58秒、長谷川がこの日2本目の3Pショットをヒットし、越谷のリードを60-52の8点差に広げた。「我らがキャプテン」のビッグショットに、アルファメイトの一画から一段と大きな歓声が沸き起こったのは言うまでもない。

この後、A千葉の猛反撃があり、点差は徐々に詰まっていく。長谷川の2発がなかったら…、異なる筋書きが待っていたかもしれない。

こちらが第4Qの「ザ・ショット2」。自らの執念、指揮官の信頼、チームとクラブの関係者とアルファメイトの願いが宿ったボールは、美しい弧を描いてネットに吸い込まれた(写真/©B.LEAGUE)

チーム一丸の勝利に花を添えるビッグショット

B1昇格とファイナル進出を決める激闘に決着がついた後、安齋HCは以下のように長谷川の活躍を称えた。

「本当にどっちに動くか分からない展開の中で、やっぱり(長谷川が)何か持っているものあるんじゃないかなと思っていました。背中でずっと引っ張ってきたヤツがこういう舞台に立つのを、アルファメイトの皆さんも本当に期待していたと思います。その期待に応える智也もやっぱり『持ってるな』と。本当に良かったです」

やはり安齋HCは、「キャプテン長谷川とアルファメイトの方程式」を理解していたのだ。人生最大と言えるビッグゲームで3Pショット2/2の6得点。シーズンアベレージの約半分にあたる6分12秒のコートタイムで、長谷川はその「答え」を出してみせた。

クラブにかかわるすべての人々の願いを乗せたようなビッグショットだったが、試合後バスケットLIVE!のインタビューに登場した長谷川は、そんな質問に「本当にそのとおりだと思います」と答えていた。「普段あんなに入らないので、自分の中でも正直びっくりしました。あんなシュートを決められて本当に光栄です」

奇しくも5年前の2019年に越谷がB2昇格を決めたのと同じ5月12日の勝利に、ヒーローはもちろん長谷川以外にも複数いた。彼ら全員が称えられるべきであることを最後に記しておきたい。アルファーズは一つのチームとして戦った。長谷川はそのグループの力をキャプテンとして最大限に引き出し、自らの輝かしい2本のショットで栄光に花を添えたのだ。

写真/©B.LEAGUE

© 日本文化出版株式会社