木谷高明オーナーに直撃!新日本プロレス棚橋新体制、看板選手の退団と若手選手の台頭、日本プロレスリング連盟への期待

業界の盟主として不動の地位を築いている「新日本プロレス」、そして女子プロレスの最前線を走る「スターダム」を傘下に持つ、株式会社ブシロードの木谷高明社長に独占インタビューを実施。

オーナーとして見た棚橋弘至社長の現状、そして看板選手の退団や若手選手の台頭、今後の新日本プロレスや日本プロレスリング連盟 (UJPW)に期待する事など、様々な角度から話を伺った。

※今回のインタビューでは新日本プロレス(前編)とスターダム(後編)の2部構成として、今回は前編を掲載。

①棚橋弘至社長、就任後の現状について

――新日本プロレス棚橋弘至社長が新しく就任してしばらく経ちましたけれども、木谷オーナーから見た現在の棚橋社長についてはどう見えているのでしょうか?

一番大きい変化は、これはもちろん聞いた話なんですけども、新日本のオフィスの雰囲気がすごく明るくなりました。

これ実は大きいことで、トップの資質の一つとしてその集団を明るくして、さあやるぞっていう雰囲気に持って行かせるっていうのはすごく大事な要素だと思うので、そういう意味では社長になってから半年経ってない、まもなく半年ってとこですけども、本当に社長になっていただいて良かったなと思いますね。

いわゆる社長が見なきゃいけないことっていうものは色々ありますけども、そこはちょっと勉強中の部分もかなりありますよね。

取締役会や幹部会議でも一生懸命やられてるんで、これは1年2年経つうちにどんどん慣れていくんじゃないかなとは思いますね。

――経営者の素質や資質みたいなものを感じていらっしゃるんですね。

そうですね、一番大事なところはみんなを引っ張るっていうところなんで。そこに関しては全然ありますよね。

――社長就任後にインタビューさせて頂いた時に、びっくりするほど書類がいっぱい回ってきて、印鑑を押すのが大変で印鑑筋(肉)がつくと話していました(笑)

それは少し大げさに言ってると思う(笑)実際はかなり電子化されてるから、キーボードをポンポン叩くことが多いってことなんでしょうけど。それぐらい決裁事項が結構来るっていうことなんだと思うんです。サインしなきゃいけないものも中には確かにあるんですけどね。本当に書類は多く来てると思いますね。

――棚橋社長もそういった部分では面食らってる部分もありそうですね。

それはそうだと思いますよ。あと見なきゃいけない数字とかも多いじゃないですか。今までだと例えば、その会場にお客さんが入ってるかどうかとか、8割入ってるとか2,000人入ってるなとか。あと盛り上がってるなとか、そういう見方をしてたと思うんですよね。でもその2,000人入った会場での興行が、一体売上がいくらで、一体いくら儲かったんだっていう目線であんまり見ないと思うんですよね。

特に売上はまだ見るかもしれないけど利益はいくら出たんだっていう目線では見えなかったと思うんですよね。だからそういう意味で数字を追っかけるってことは今までなかったので、そこの部分も慣れてない部分だと思いますね。

※社長就任発表会見

――そうですね。今までとは見る景色が違って視野を広げないといけませんね。

…だと思うんですよ。いくら儲かったか、粗利率はいくらだったかというところをやっぱり社長としてみないと社長業にならないんでね。

――今まではレスラーの方々とのコミュニケーションが中心だったのを、今度は売上のために営業の方に発破をかけたりだとか、社長としての役割が広がってる部分が、もしかしてご本人にとってストレスが非常に増えたんじゃないかなっていう心配の声もあります。

就任当初はインタビューとかも多かったと思うので、そこは結構大変だったと思うんですよ。

――木谷オーナーとはコミュニケーションは結構取られてるのでしょうか?経営者として悩んでる部分なんかも話をしたりとか。

そうですね。ただやっぱり今はまだ走り出す方が多くて、悩みってむしろレスラーと社長業の兼ね合いのとこはすごく悩むと思うんですよね。だからやっぱりちょっと最近少し太り気味だったりは種類が違うストレスじゃないですか。

種類が違うストレスが同時にかかると結構ストレスなんですよね。ちょっと調子悪い時は思い切って休んでもらったりとかしつつ、でも少しずつ慣れていってるんじゃないかなというふうに思います。とにかく前向きですよね。

――素晴らしい!オーナーから見て教えがいがある社長という感じでしょうか。

本当によくできてるなっていうふうに思ってますね。

――ファンの皆さんも棚橋社長については好意的に受け止められてると感じますが、木谷オーナーはいかがですか。

お客さんの…、言い方悪いですけどクレームみたいなものが全部直接来るじゃないですか。やっぱりそれは面食らってます。

――なるほど。

答えられることと答えられないことってある。でも本当は気持ち的には全部、少なくとも、その事情は説明したいっていうふうにも思ってると思うんですけど、説明できることもあれば、まだ説明できないことがあったりするじゃないですか。直せることもあれば、ちょっと当面直せないこともあると思うんですよね。

――確かに。

そのあたりは今までなかった部分のアプローチが自分の範疇に入ってきますからね。

――一選手の時は来ないメッセージが今は団体の長になったから全体として見られますよね。

そうなんですよ。そこはちょっとケアの部分が必要ですよね。例えばチケットの発売告知をもっと早くしてほしいとか、販売を早くしてほしいっていうのは、検討しますとか早め早めに努力しますとわりかし伝えやすい。でもチケット料金を下げろって言われたら、社長からするとそれって、もしかしたら利益を下げることになるかもしれないし、逆に言えば下げることでお客さんが増える可能性もある。それは簡単に答えられない話ですよね。

いろいろ含めて検討しますぐらいのことしか言えないと思うし、だからやっぱり解決策としてはもっと段階をいっぱい作るとか、小中学生や高校生ぐらいまで安くして、女性限定席を作るとか。あと最近はファミリー席を作るみたいなのも、やれることはやってるんですよね。だからそれは歯がゆいんじゃないんですかね。社長だから言えることも増えるし、逆に社長だから言えないことも増えてしまうっていう。

――自分が話したことがさも決定事項のように思われる可能性もありますよね。

レスラー個人が言う部分に関しては、別にそれが実現しようがしまいが、お客さんからすると、いろんな事情もあるから100%本気にはとらないじゃないですか。

――そうですね。

実現したらよかったなってなる、実現できなかった場合は残念でしたねと終わるんですけど、経営者はそうじゃない。残念でしたで終わらないだろうみたいな、お前言ったよねみたいな。

――やはり経営者は大変ですよね。棚橋社長がこれから数年経ってすごく骨太の良い社長になることを期待したいなと思っております。

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②オカダ・カズチカ選手の退団について

©新日本プロレス ※1月の所属ラストマッチ

――オカダ・カズチカ選手の退団についてどのように受け止めましたでしょうか?

いやこれはですね僕、仕方ないとしか言いようがない。やっぱり何度も言ってるけど、僕が同じ立場だったら自分でも同じことをしたと思うんです。だから仕方ないし頑張ってくださいとしか言いようがないし、お客さん的な言い方になるかもしれないけど「日本の凄さを世界に広めてください」っていう言い方しかない。

――確かにファンの皆さんも野球やサッカーと同じように世界でチャレンジする選手のその気持ちに同調してるような部分が多いのかなと思いました。木谷オーナーとしては10年支えてくれていた功労者でもあり、CMや広告露出などある意味ブシロードが育てたエースとしてのオカダ・カズチカっていうようなブランドもあったと思いますが、いかがですか。

そうですけど、僕は思ってないですよね。育てたってのはちょっとおこがましいんです。それは少し初期の頃に知名度を上げるためにサポートしてTVCMを出したりとか、そういうことはあると思いますけど、実際はオカダ選手の実力で自分で育ったんだと思うんです。だから、初期の頃に側面支援を少ししたっていうだけの話だと思いますよ。やっぱり本人が頑張ったからこうなったんであって、もちろん周りも協力だとか、いいライバル関係もあったりしたからっていうのも全然あると思います。一つ付け加えるんだったら奥さん(三森すずこ)も。でも一緒について行っちゃうんで本当に…。

――最初は奥さんから聞かれたそうですね。

まあでも、言ってくるのは奥さんからだと思ってましたね。

――そうなんですね。

「実は…」みたいな感じで来た来たーってすぐ連想しちゃいますよね。そうするとやっぱりそうしますか、聞かなくてもわかるみたいな。

――なるほど。

でもその時はもう、「うちの主人もいろいろ悩んでるみたいで。」って言われて。いや、もうその悩んでるのって、行く行かないで悩んでるんじゃないでしょうみたいな(笑)

――今回の件は、日本のプロレス界やプロレスラーに対して夢が広がるような話だったのではないかなと思いました。

これに関係するんですけど、僕は日本のプロレスマスコミに対して、この部分はすごく不満なとこなんです。プロレスマスコミだけじゃなくてスポーツマスコミ全体に。

――聞かせてください。

アメリカのプロスポーツ、プロレスも含めて興行とかビジネスモデルと、日本のプロスポーツ、野球とかサッカーと何がどう違うのかっていうことをもっとちゃんと解説してお客さんに分からせてくれよって思うんですよね。

――なるほど。

もう自分達で言ってもいいんですけども、自分達で言うのはやっぱりおかしいと思うから…。ちょっと話はずれますけど、1993年にJリーグが開幕したころって、Jリーグの売上とイギリスのプレミアリーグの売上ってほぼ同じくらいだったんですよね。でも今は、マンチェスターユナイテッド1チームの売上とJリーズ全体の売上が同じなんですよね。

――かなり差がつきましたね。

そう、これどこでそんな差がついたのかっていったら、動員数とかももちろんありますけど、大きいのはその試合映像のコンテンツにいい値段がついたかどうかなんですよ。WWEは発表されているから分かりやすいですけど、RAWだけでも1年間740億円でNETFLIXに売るわけじゃないですか。SmackDownの方はたぶん300億くらいなんですよ。プラス海外番販でおそらく150億から200億があると思うし、それ以外にも配信が百何十億あるわけで。

――規模が違いますね

だから興行売上だけで比べたら、何倍でしかないんですよね。でも映像売上を比べたら何百倍なんですよ。この部分の差でギャラを払えるかどうかってことなんですよね。ファンの人は団体に対して「もっと気張らんかい!」って思ってるかもしれないけど、もう難しいんですよね。でもその難しいっていうのはお客さんは知らないですよね。アメリカのスポーツ映像ビジネスがそんなに巨大だっていうのは、日本のお客さんは知らないですよ。だからなんでこんなにボコボコ引き抜かれるんだって言われても、仕方がないというふうに言うしかない。

――以前、ビジネスイベントでアメリカと日本のプロレスマーケットの違いをセッションさせていただきましたが、やはりみなさん初耳だったようで、かなりびっくりされてました。やはり金額の違いだけがクローズアップされがちですが、その背景、その内容などを無視して発信している部分はあるかと思います。

そうなんです。プロレスはよくやってる方だと思うんですよね、この前のシカゴ大会だって6,000人以上集めたし。かなり立派なものだと思いますよ。逆になんでそんなに集まったのかなって思いましたけど。久々なんですよね、6,000人規模って。

――これはそれまでにAEWに選手を送り出したりなどで知名度が上がってきていたからですかね?

シカゴだったからよかったんじゃないかなって思いますね。

――開催地によってもだいぶ違いますか?

違いますね。

――Madison Square Gardenでの開催(2019年)はびっくりしましたね。

あれは16,000人とか入ってたと思うんですけど…、もうあれもなかなか難しいですよね。※公式発表16,534人(札止め)

――そこは、棚橋社長に頑張ってもらって。オカダ選手も移籍されたので、AEWとの合同開催ということも?

それは可能性としてありですよね。まあAEWとは今後もいい関係であり続けたいと思いますね。

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③「令和闘魂三銃士」など新世代の台頭について

※令和闘魂三銃士(海野、成田、辻)

―最近でいうと「令和闘魂三銃士」を含め、新世代が新日本プロレスに台頭してきました。これは木谷オーナーはどう捉えていらっしゃいますでしょうか?

非常に頼もしいと思ってますけど、もうちょっと早くてもよかったなと、もう1、2年早くてもよかったなと思ってますね。

――名づけられた当初は、選手から噛みつかれた部分もあったかと思いますけど、あの時と今だと見方もちがってますかね。

なんかプロレスって会社批判をしたらお客さんが喜ぶと思って勘違いしてるレスラーがちょっといるんでね…。いや1人2人いるのはいいんですけど、みんながみんなやるのはどうなのよって。

――あのときは結構あちこちから否定的な声が上がりました。

もう誰か1人肯定的なこと言ったって全然盛り上がったのに…みたいな。でも「令和闘魂三銃士」の名称を発表して3人の認知度がすごく上がったと思うんですよね。(Xで)500万インプレッションくらいありましたからね。あれ以来、お客さんは無意識のうちに3人を比較するようになったし、常に1人じゃなく3人が目に入るようになったと思うんですよね。その効果がすごく大きかったなと思うし、3人もお互いを意識するようになったし。そこに上村選手が凱旋して、いやいや俺もちゃんと見ろよっていう。非常によい相乗効果を出しつつ、今はお互い切磋琢磨しているところじゃないですかね。

――とてもいいライバル関係にあります。

ただ自分の立ち位置・自分の進むべき道のベクトルを、今みんな決めてる・探してるところかなっていう感じはしますね。でもそれは若さだからいいんじゃないかなと思います。

――新陳代謝や、カードの目新しさという点でも若手選手の台頭はいいですね。

それに初めてプロレスを見てファンになってくれる方って、やっぱり若手の選手、フレッシュな選手のファンになる方が多いんですよね。推したい選手ってこれから伸びていく選手になると思うんですよ。自分が推している選手にどんどん登って行ってほしいっていう気持ちがファンの方にはあるから、やはり常に新陳代謝で若い選手が若いエネルギーを見せるのは凄く大事だなって思いますね。

④これからの新日本プロレスに期待する事

――これからの新日本プロレスに期待する事という部分ではいかがでしょうか?

1位のWWEとの差が広がっているという話をしましたけど、ここは2位のAEWと対等に付き合いながらも、規模感的にはその差を縮めていかなくちゃいけないなと思います。プラス、やはりリングの中では「やはり新日本プロレスは違うね」という、日本ならではという差別化した部分をどんどん見せる、それは熱い闘いに代わるものはないと思うので。面白い試合、熱い試合をどんどん見せる、続ける事かなというふうに思いますね。

――今後ということで、棚橋新社長へのエールみたいなものもいただけたらと思います。

棚橋新社長になって、プロレスファンのみならず世間一般へのアピールもしやすくなったと思うんですよね。社長が中心となって、より世間一般の人にプロレスを浸透させてほしいなと思いますね。やはりレスラー社長ということで、世界に対してもアピールしやすいと思うんですよ。

――以前、大張社長がAEWに禁断の扉を開けに行ったように、棚橋社長にもそういった政治的な役割みたいなものを見せてもらったりだとか、夢は膨らみますね。

日本国内ではね、もう既に国内他団体との交流なんかを棚橋新社長中心となってやってる部分もあると思うので、海外に対してもですね。

⑤日本プロレスリング連盟 UJPW)に期待する事 5.6日本武道館【ALL TOGETHER】開催(インタビューは開催前に実施)

©新日本プロレス(ALL TOGETHER)

――国内の他団体のお話が出たところで、日本プロレスリング連盟 UJPW)に期待する事についてお伺いします。56日には日本武道館で【ALL TOGETHER】も開催されますがいかがでしょうか。

これ、いきなり興行になっちゃってるんですけど、本来はもう少しお堅いところから議論しなきゃいけない話かなって思います。例えば、選手の安全面の話とか、ライセンス制度みたいなものがあるのかとか、コミッショナー制度とか。まとまっていた方がいざというときに意見をまとめて国とかにアピールできますよね。だからこの連盟を作ったこと自体が1つの目的にはなってると思うんですよね。次からは連盟を代表してお上に、すみません、こういうことあるんでちょっと聞いてもらえますか?って話ができるようになったので。それ自体はいいと思うんですけど、興行をやるとどうしても興行のほうだけに目がいっちゃいますよね。

――そうですね。

でも、本来は…。実はロッシーさんからスターダム営業譲渡でブシロードグループが買ったときに最初に何をやったかというと選手と契約を結ぶところからだったんですね。今までは選手と契約を結んでなかったんですよ。

――ありがちな話ですね。

だから加盟団体は、選手とちゃんと契約を結びましょうよっていう。結んでるところがほとんどだと思うんですけど、でも単に結ぶだけじゃなくて中身に関してもちゃんとして。そういうことを団体集めて勉強会をやった方がいいですね、契約とかいろいろ。

ーー大事ですよね。

インタビュアー:山口義徳(プロレスTODAY総監督)

▼後編(スターダム)へ続く

木谷高明オーナーに聞く!ロッシー小川氏との契約解除、スターダム岡田社長体制への期待「もっともっと世界に対して光輝いてほしい」

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